頭を垂れた含羞草


教室を出ると、時間を置くことなく殆んど駆け込む様にしてトイレに入りました。
人目に着かないならどこだってよかったのですが、偶然にもトイレが一番近くて確実だっただけです。

それでも女子と言う生き物は不思議なもので、出来るだけ奥に隠れようとするものらしいです。無意識に開いたのは、一番奥の個室でした。
いえ、これは女子特有のものではなく、私の今の心理状況故でしょうか。


「ぅえ…っ…かはっ…」


トイレの床に座り込むなんてしたくもないから、洋式便器に全力で手をつく。それすらもできることならしたくないけれど、今はそうも言っていられません。

この嘔吐感をなんとかしたい。


「…はっ…ふ…」


まぁ、嘔吐感とは言っても私の口から出てくるのはよくわからない花ばかりなのですが。
今日も今日とて花をある程度吐き出すと、それはもう嘘のようにすっきりするのです。さっきまでの耐え難い気持ち悪さは一体どこへ行ったのやら。心なしか体が軽くなったようにも感じます。

それはさておき、問題はこれからなのですが。保健室に行くと言った手前、今から教室に戻っても妙な心配されてしまうでしょうし、なんともなくなってしまったので保健室に行ったところでどうともならない。
ここはなんともないけれど保健室に行く、というのが賢明な判断なのでしょうか。

夢のような花達を文字通り水に流して身を清めてからトイレから出ると、どんな偶然か柳生くんがいました。


「おや、こちらにいらしたんですか」
「柳生くん…?」


どうして彼がここにいるのでしょう?


「あまりにも顔色がよろしくなかったので、不安になって追いかけてきてしまいました」
「そんなに酷かったかな…」
「申告したところ、現国の渋谷先生に早く追いかけなさいと急かされました」


そんなに心配をかけてしまっていたのか。こんなことならもっと早く抜けておくべきだったかしら。


「すぐに姿を見失ってしまいましたが、すれ違いにならずよかったです」
「あの、あまりにも気分が悪かったから…」
「そうでしたか。ですが、幾分か顔色も良くなったようですね」
「うん。ご心配おかけしました」
「保健室には行かれますか?」
「今戻っても心配かけちゃうし、そうしようかなぁ」
「そうですね。それがよろしいでしょう」


まさか追いかけてくる人が本当にいたとはなぁ。来たとしても保険委員か、りこちんあたりかなぁとばかり。つるちゃんはたぶん追いかけはしない。柳生くんは本当に想定外。


「近頃あまり眠れていないと先程お伺いしたのですが、それが原因ですか?」
「うーん…たぶん違うと思う」
 

確かにあまりきちんと眠れていないけれど、それは数日続いてる吐き気が原因だから不眠の直接的な原因にはなり得ない。
この変な病気(といっていいのかはわからないけれど)はどうして発症してどうやったら治るのか。さすがに学校図書の中には見つかりませんでした。あとは市立図書館かネット。
もしもこの病気について知っている人がいるのならば、是非教えていただきたいものです。


「柳生くん、私なら一人で保健室に行けるから、授業に戻ってもいいよ?」
「そうはいきません。体調不良の女性を一人で歩かせるなんて、とてもではありませんが私にできませんよ」
「ありがとう、柳生くんは優しいね」
「お礼には及びません。当然のことですから」


私より背の高い柳生くんは当然私よりも手足が長いわけで。それなのに花を吐くことにより体力精神力共に磨耗してだらりと歩く私に、なにも言わず歩調を合わせてくれる柳生くんの優しさたるや。これが紳士というものなのか。
あまり男子と関わることがないので、少し変な感じがします。

それにしてもあっさり授業を抜け出してしまって大丈夫なのでしょうか?原因は私にあるのであまり追求できるものでもありませんが、迷惑をかけたことにはかわりありません。少し気になってしまいました。


「なにか…もしや、またお加減が…?」
「あ、違うの」


しまった。そんなに見てるつもりはなかったのですが、思っていた以上に柳生くんをガン見してしまっていたようです。


「私のために授業を抜けさせて申し訳ないなぁと思って」
「その事ならお気になさらず。予習はしていましたし、進行具合は後で真田くんにノートを見せていただけば問題ありません」


真田くんのノートはそんなに見やすいノートなのでしょうか?でも字は綺麗だと思います。黒板もとても綺麗に書いてくださるので、いつも書き取りやすいんですよね。


「真田くんとは部活も委員会も一緒だよね」
「ええ、とても良い友人です」


声でわかる。柳生くんは、真田くんをとても信頼しているのだと。
それなのに私ときたら。つるちゃんにもりこちんにも、両親にすらこの事を隠して。自分のことなのですが、これから先一体どうするつもりなんでしょうか。




(繊細な感情)
(感受性)
(敏感)

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