昔から、こういうイベントが苦手だった。そうでなくても女子の惚れた腫れたな話は面倒極まりないものだ。
残念なことに私もその一員になってしまったのは、今更逃げようもない事実である。
かといって告白する勇気なんて私には初めからない。そんな私が今更色めいたイベントに乗っかるわけがなかった。

「沙羅ー」

しかし、今時女子の友達がこんな美味しいイベントに乗っからないわけがないので、苦し紛れにファミリーパックの個包装されてるクッキーやチョコは持ってきた。

「既製品で申し訳」
「全然!ありがとう!」

もらったお菓子と交換でクッキーとチョコを渡すと、友達は次の獲物を得るためにまたどこかへと小走りに消えていった。

片想いしてる人が告白する日だなんて巷では言ってるけど、その勇気が出せる人は私みたいに枯れてない。私なんかと違って、もっとキラキラしててかわいいんだよ。例えば今の友達のように。

「なに膨れっ面してんだよ」
「木葉に言われたくない」

木葉とは席が近くなってからようやくまともに話すようになった。それまでは話す機会もきっかけもなくて、正直認識されてないと思ってた。

「は?俺のどこが膨れっ面だよ」
「そうじゃなくて悪人面」
「うるせぇ」

それなのに、いつの間にかあんまり気負うことなく話せるようになってたから驚いたもんだ。なんて他人事みたいに考えてる。

「女子ってこういうの好きだよな」
「そうだね」
「三橋は?」
「あんまり好きじゃない」

だからこそこういう話題も出てくる。
男子ってやつは何故か毎年チョコの数を競いたがる。きっと木葉もそうなんだろう。去年騒いでた気がする。

「珍しいな」

その一つに加えてほしいと思うくせに、そこに加わることにすら怯えてるのは他ならない私。

「みんながみんな乗っかるもんじゃないからね」

本命だとか告白だとか、そんなだいそれたことを考えたりなんかしない。卒業までこのまま温めて、ひっそり枯れていくのが私にはちょうどいい。

「まぁそうだよな。俺の後輩も全然興味ねぇって顔してたわ」

木葉が言うには、その後輩くんはずいぶんおモテになるらしい。
わかるわかる、チョコの数を競ってる男子より、興味ありませんけどなにかくらいの態度の方がよっぽどかっこいいもんね。

「つーか三橋買ってきすぎじゃねぇ?」
「みんなと交換するから結構減るよ」
「でもなくなんねぇんだ」

でも困ったことに私は数を競ってる系男子が良かったらしいんですよ。チョコの袋を広げて中身を確認してる木葉を見ながらぼんやり思った。
はて、いつからこうなったんだか私自身全くわからない。

「これもらっていい?」
「別に良いけど」
「んじゃあ2個もらうわ」
「どうぞー」

小腹が空いたと私ももらったお菓子の包装を開いた。
手作りのクッキーは女子力が溢れんばかりに詰め込まれているように見えて、食べたら少しくらい女子力が増えないかと思ったけど、そんなわけはない。

「最近チョコもらうってことがなくなったんだよな」
「へぇー」
「クッキーとかそう言うのばっかり」
「そうなんだ」

たしかに私がもらったのもクッキーにカップケーキにパウンドケーキ。どれもココアを使ってはいるけど、どれもさっぱりとした甘さでチョコほどくどくない。

「だからさ、これが今年初めてのチョコなんだよな」

なにが。
そう言って顔をあげたのが間違いだった。

「この意味わかるか?」

今だかつて私が見たことのない色が、木葉のその目に宿っていた。
友達や家族に向けられるそれとは全然違う。もっと圧倒的な熱量と溢れんばかりの情感がある。

「…しらない」

かろうじて出た言葉に、かわいげもなにもあったものじゃない。ただ震えてないかどうかだけが気になった。

「なら後で教えてやるから放課後待っとけよ」

私がただただうぬぼれてるんじゃなければ、一足早い春が来るのかもしれない。

え、それっていいの?


2018/02/14