「三橋、聞きたいんだけど」
「いいよー、どれ?」
「古典」

通いなれた特進クラスの三橋の席。担任が気分屋なのかよく席替えをするから、毎度借りられる席を探すのが少しだけめんどくさい。
めんどくさいと言っても、借りるけど。

「いつも思うけどさ、私教える必要なくない?」

窓際になった三橋の正面の椅子を借りて、1つの机で頭をつき合わせる。

「特進にいてなに謙遜してんだよ」
「だって白布も特進にいたって遜色ないレベルだよ?」

三橋も俺と同じ外部入学で、入学時の学力で言えば同じくらいだったはずだ。違いと言えば、在籍しているクラスが特進かそうじゃないか。

「俺はバレーしにここに来たから」
「それもそうだ」

今だってそれほど学力に差があるとは思ってないけど、さすがに特進と普通科じゃあ授業の進行速度がちがうし、習熟度も違う。
それに、へたな教師に聞くより三橋に聞いた方が都合がいい。

「ここは?」
「そこはねー」

さらりと落ちる髪を耳にかけながら、芯の出ていないシャーペンが教科書をなぞる。シャーペンを持つ手は白く細い。教科書を追う三橋の茶色の目が、長い睫毛の影で色濃くなってる。

「今のでわかった?」
「ああ」
「ホント、わかっちゃいるけど白布が特進じゃないのもったいないと思うよ」

別にいつもこんなことをしてるわけじゃない。真面目に聞く中で、たまに三橋をついうっかりガン見するだけだ。

「特進にいたら同じクラスだったかもしれないのに」

それは魅力的な話だけど、ありえない話でもある。
でも、そうか。同じクラスだったら学校行事も一緒にできたのか。

「三橋、日誌頼むわ」
「えー?仕方ないなー」

同じクラスだったこういうクラスメイト特有の会話をした可能性もあったんだよな…つーか今俺がいるの見えてんだろ。日誌くらい自分で書けよ。

「っ、わ、悪いな!じゃあ任せた!」

結局三橋に任せやがった。三橋が優しいからって押し付けてんじゃねぇよ。

「?…ねぇ、私今そんな怖い顔してた?」
「いや、そんなことないけど」

三橋はいつだってかわいい。たぶん怒ってもかわいいと思う。とか言えたらどんなに楽か。言えるような関係になれば早いんだけど、あいにく負けるとわかってる戦いはしない主義だ。

「あいつ誰?」
「あいつって…支倉くん?どうかした?」

三橋の視線が俺の視線を追いかけて、さっきのやつを見つける。

「いや、なんでもない。よく話すの?」
「比較的?」
「あいつもここにいるってことは頭いいんだよな」
「うちのクラスでは真ん中くらいかな?現文が苦手で足引っ張ってるみたい」
「三橋は?」
「えー、 真ん中よりちょっと下だよ」
「謙遜すんなよ」
「ホントだって!白布の方が断然上だよ!」

謙遜が大いに入ってることはわかりきってるけど、それでも好きな人にそう言われて悪い気はしない。

「あ、そうだ。これ」

ふと思い出したのは、ブレザーのポケットに天童さんから押し付け…もらった、受験シーズンによく見る2つに割れるチョコ。

「もらっていいの?」
「あんまり食べないし」

あの人俺が食べないのをわかってて渡してくるんだからホント性格が悪…いい性格してる。

「ありがとー」

嬉しそうにそれを受け取った三橋は、そう言ってさっそくパッケージを開けて半分に折った。そしてその半分を俺に返してきた。

何事かと思ったら「一緒に食べた方がおいしいから」なんて言って首をかしげるんだから、俺はすぐさまノックアウトされた。されない方がおかしい。

「おいしいね」
「ああ、そうだな」

ふと校庭を見たら天童さんが見えて、部活の時めんどくさい絡まれ方をされることを覚悟した。


2018/09/25