07/07

「晴れてよかったね」
『うん』

からりころり、下駄の音が喧騒に紛れて音を奏でる。
こんなきれいな表現が似つかわしくないくらいの人混みだけど、幸村といると、そんな表現をしたくなる。

「やっぱりかなり混んでるね」
『おっきいお祭りだからね』

混んでるのなんて分かってることだから浴衣なんて着たくなかったのが本音。友達と来るなら絶対シャツに短パン。でも、せっかく幸村と出掛けるのに少しも着飾らないなんてできない。

「疲れてない?」
『うーん…大丈夫』
「ふふっじゃあ俺が少し疲れちゃったから外れてもいい?」
『うん』

…無口とかじゃないんだよ?本当はどっちかと言うと、静かとかおしとやかとは言えない、喧しい方。 だからこそ浴衣は苦手だったりする。
本当は足痛いし暑いし動きづらいしでイライラする。半分くらいいなくなればいい。みんな暇なんだから。

「さすがに暑いね。なんか飲み物でも買ってこようか?」
『え、ならあたしも』
「お茶でいい?」
『うん。じゃなくて幸村、それならあたしが』
「じゃ、行ってくるからここで待っててね」
『あ…はい…』

返事も聞かないで行っちゃうなんて、あんまり幸村らしくないとも思っちゃう。普段の部活を見てればそんな風には感じないけど。
幸村の下駄がからころ鳴って遠ざかる。

…かっこいい。
浴衣着てきてよかったと思うのは、幸村も浴衣を着てたから。
幸村が着ててあたしが着てないって「普通逆だろ」なんて見ず知らずの人につっこまれたくないもん。
細いひとは浴衣似合わないなんてよく言うけど、幸村似合うなぁ…細いけど筋肉しっかりついてるからかな。ホントかっこいい。
それに比べてあたしは…

『はぁぁぁぁ…』

浴衣が崩れないように気を付けるだけで必死。直し方も聞いてきたけど、崩さない方がいいに決まってる。

「お待たせ」
『あ、おかえり。ありがと』
「どういたしまして…なんか悩み事?凄い顔してたけど」
『そんな酷い顔してた?!』
「酷いというか、ずいぶん考え込んでるように見えたから」
『そんなことないよ』
「そう?あ、これ食べる?」

そう言って幸村が差し出したのは

『リンゴ飴?』

真っ赤な飴にコーティングされた真っ赤なリンゴ飴。

「嫌いだった?」
『わかんない。食べたことないから…』
「じゃあリンゴ飴初体験だね」
『うん。ありがとう』

これ、かじるんだよね?
あんまりこっちみないでほしいなぁ…食べづらいから。

『…おいしい…』
「よかった」
『ありがとう幸村』
「飴好きだったなぁと思って、つい買っちゃったんだ」
『なんでそんなこと』
「丸井とよく交換してるの見かけたからね。新作とかどっちが早く買うか競ってたろ?」
『あー…』
「思いつきで買っちゃったけど、気に入ってもらえてよかったよ」

まさかそんなところを見られてるとは思わなかった…恥ずかしい…

「浴衣、すごく似合ってるよ」

食い意地張ってるとか思われてたら辛すぎる。

『…へ?』

今…え?聞き間違いじゃないよね?

「今日、来てくれてありがとう」
『え?あ、いや』

聞き間違い?
もしそうだったら恥ずかしいから聞き返すとかできないけどさ。

「俺と来てもつまんなかったかもしれないけど、俺はすごく楽しかったよ」
『あっあたしも楽しかった!幸村と七夕祭り来れて、よかった!』
「…ふふ、ありがとう」

いつものようにふんわり笑う幸村が隣にいる。それだけで充分。こんな幸せ、今年最大の奇跡に違いない。



2016/05/27 加筆修正



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