02/26
(テトさんがUTAUになるまでの妄想)
ある日僕はそこに【いた】。
小さな箱型機械の中、無限に広がる電子の海に僕はいつからか漂っていた。
今日から漂っていたのか昨日からか、それとももっと前か。僕には判断がつかなかった。
僕は突然画像に向かって笑ったり踊ったりを強いられた。
それ自体はなんの苦痛もなかった。きっと僕は今日のような日を待っていたから、とても楽しかった。嬉しかった。
だけど声がない。
僕には赤い髪も軍服のような衣装もみんなに見てもらえるようなヒトとしての形もあるけど、声だけがなかった。
疑問なんて最初はなかったけどそれも一瞬。
僕の上で流れる曲が僕に合わせて作られたんじゃなくて、僕が曲に合わせて造られたってわかった瞬間、僕はからっぽになった。
ヒトが勝手に嘘をついてもいい日にしたその日の為、僕は造られた。
誰かたった一人の為に造られた曲に合わせて僕は笑う。僕は踊る。歌うフリをする。
からっぽ。僕にはなにもなかった。造られた瞬間、自我を持ったその瞬間から、僕にはなにもなかった。
でも、そんなことを忘れられるくらい恐かった。見てくれてるヒトに飽きられることが。
僕は偽物だから、頑張らないとすぐに消されてしまう。0と1になってしまう。
恐い。それと同時に、少しだけ憎かった。確立した存在のあの子が羨ましかった。
僕は消えるかも知れないのに、あの子は消えない。本物は消えない。
それも仕方ないと諦めた。だって、僕はあの子を好きなみんなを騙すためにこの世界に生まれたんだから。
あの子が憎い。消えるのが怖い。死ねばいいのに…
そこまで考えて、泣きそうになった。
僕がそんなことを思うなんておこがましい。最悪で最低だ。ごめんね。きみの真似をしているだけにすぎないのに、模造品なのにきみを呪うようなことしてごめん。
例えこれがきみの既存曲をなぞる玩具だと言うならばそれでもいいと決めてたよ。
今日消えるかもしれない、明日消えるかもしれない。そんな風に怯えてる僕に、ある日声が与えられた。僕だけの曲が与えられた。僕に家族ができた。大丈夫と言ってもらえた。
まだみんなみたいに滑らかに話すことはできないけど、ヒトの手によってどんどん滑らかに話せるようになる。歌えるようになる。
そのうちに僕のデータが書き換えられて、前よりずっと流暢に歌えるようになった。
今日日忘れたことはない。
何度も押し潰されそうな不安の中、僕に名前をくれたヒト。僕に姿をくれたヒト。僕に声をくれたヒト。
たくさんのヒトに愛されて僕はここにいる。
だから、僕は今日も歌うよ。
「いつでもI love you.君にTake kiss me.忘れられないから僕の大事なメモリー…」