07/17
(
これの続き)
ふわりふわり。
セーラー服の黒いスカートが、廊下を歩く少女の動きに合わせて夢のような柔らかさで形を変えている。
明るい校内は休日と言うこともあり、少女以外の生徒は一人もいない。
『(あのひよこ、どこにいるのかしら…)』
教室を一つ一つ覗くが、もちろん鍵がかかっていて入ることはできない。
『もう、本当に全部鍵閉めちゃうんだから。だからあの先生好きじゃないのよ』
かつりこつりと、ローファーを鳴らしながら行き着いたのは応接室。
ずっと学校にいる少女は、応接室が現在どんな場所になっているかもちろん知っている。
『すみませーん。ちょっと開けてもらっていいですかー?』
しかし、少女は事もなげにノックした。
「ん?」
『失礼しまーす』
「草壁、誰なの?」
「聞き違いだったようです」
「なにそれ」
なぜなら少女は誰にも見えないから。
『ふぅん…なんか、前と家具の配置変わった?』
扉を閉めたやたら背の高い、今時珍しいリーゼントを決めた学ランの生徒と並んで部屋を見回すが、まったく気付かれる気配がない。
『あ、ひよこ!』
「ア!」
『こっちおいでー』
「ナンダオマエ!ヘンナヤツ!クルナ!」
唯一少女の存在に気付いたのは件のひよこのみ。
「いきなりどうしたの?」
「ヘンナヤツ!ヒバリ!タスケテ!」
「草壁?」
「私ですか?」
『待ってよーひよこさーん』
「クルナ!クリュナ!!」
『かんだ!かわいーっ』
「君、今かんだの?」
「コイツノセイ!!」
『えっちょっ来てくれるのはうれしいけど…!』
「何やってるの?」
『髪引っ張らないでー!』
ひよこと少女が戦っているのも、他の人からすればひよこが一人(一匹?)で飛び回っているようにしか見えないのだ。
『いたたっごめん!謝るから髪だけはやめてー!』
「ヒバリ!ヒバリ!」
「なんだか今日は変だね」
「ヘンナヤツキタ!」
「草壁のこと?」
「委員長…」
『あのーひよこさん?多分私は誰にも見えないから説明しても意味がないと思いますよ?』
ひよこは机に向かっている少年に向かって必死に説明しようとしているが、当然少年達にはなにがなんだかわからない様子。
「コイツ!ヘンナヤ…ツ?」
なんとか説明できないものかと少女に留まろうとしたが、それは叶わず妙な降下をしただけになった。
「本当に何してるんだい?」
『私には、留まれませんよ…』
「ヘンナヤツ!」
『はは、なんだかそれが私の名前になってしまいそうですね』
ひよこは小さな翼を必死に動かしながら少女に向かっていく。
「ナンダオマエヘンナヤツ!」
『ひよこさん、二人でお話しましょ?』
「クワレル!」
『食べませんよ!失礼ですね』
「タベナイ?」
『もちろんです。私はお友達を食べたりしません。だからお話しましょうっ』
しばらくふらふらとしたあと、決意したように少女の上でくるりと旋回した。
「どうしたんですかね?」
「僕に聞かれても困るんだけど?」
「ヒバリ!イッテキマス!」
「はいはい」
「いってらっしゃいませ」
扉を開けてくれた生徒の横をひよこは当たり前のようにすり抜けていった。
『あ!待って!!屋上だよ?他はどこも閉まってるから!』
少女もひよこと同じように扉から走り抜けていった。
「今風入った?」
「いえ」
「…そう」