あなたは去る。


ご卒業おめでとうございます。
そんな文字が踊るのをよく見るようになった。それはここ、梟谷でも同じこと。中学から高校に持ち上がる子にはあまり実感がないだろうけど、高校生になるとそうもいかない。進路によっては県外に行く先輩もいるだろう。

私の好きな人達も、今日卒業する。

「ご卒業おめでとうございます」
「ありがとー」
「また集まりがあったら隊長にも声かけるからさ、時間が合えば遊んだりしようね」
「はい」

部員でもなんでもないのに、先輩達にはずいぶんとよくしてもらった。

「後半あんまり来なくなったから、心配してたんだからね」
「すみません、いろいろ立て込んじゃって」
「でもー、元気そうでよかったー」
「すみません」

その恩を仇で返すようなこと、本来なら怒られても仕方がないのに、まだ笑って話してくれるのがどんなに嬉しいことか。

「うちらは気にしてないから大丈夫だって!」
「どっちかと言うと男子がめんどくさかったよねぇー」
「え」
「そうそう!女子の応援がないーってね」
「ほーんと、男子ってしょうがないよねぇー」

ビックリした。木兎さんのこと言われると思った。でも言われないってことは、もしかして私が告白したこと知らない?

「でも春高には来てくれてたよね」
「え、」
「ずっと側で応援してるの聞いてたんだもん。離れてたってわかるよ」

わかるなんてズルい。

「部活の後輩じゃなかったけどさ、真夜ちゃんはうちらの大事な後輩だよ」

そんなこと言うの、ズルい。

「たまに部活見に来るから、また一緒に後輩の応援しようねぇ」

先輩からしたら嫌なことをしたのに、それを棚にあげて悪いことを言ったりもした。それなのにまだ好きだなんて、ズルい。

「うぐっう…」
「うっそ、今?」
「やーん、泣かないでー?」

私、嫌なやつだ。

「あ!お前ら後輩泣かすなよ!」
「泣かせたんじゃないわよ!」
「そーだよー」

すごく勝手で、わがままだ。

「泣くことないぞ!俺はまたバレーしに来るから!」
「木兎さん、それ本気で言ってるんですか?」
「おう!次に赤葦とやる時感覚鈍ったらやだからな!」
「お前まだ赤葦に世話させるのかよ」
「違う!俺は赤葦のトス打ちたいの!」
「留年だけはしないでくださいね」
「なにその心配!」

みんなが話してるのを涙を拭きながら聞いてると、あの頃の体育館にいるんじゃないかと錯覚してくる。
楽しかった。木兎さんのことが好きで、暇を見つけて応援して、マネージャーのお手伝いをさせてもらって、赤葦にバレてからは相談に乗ってもらって。

「皆ざんっ」

たくさん迷惑かけた自覚がある。
でも、今はそれを言うべきタイミングじゃない。私が今言うべき言葉は、決まってる。

「ご卒業、おめでどうございまずっ!!」

ああ、もっとこの人たちを応援したかった。
どんなにそんなことを思ったところで、私の好きな人達は今日、この梟谷学園から卒業する。



(あとには何も、残らない。)