榊に新しい連絡先を聞いてから、頻繁ではないにしろそこそこ連絡を取り合っている。でも、部活にはまだ顔を見せない。
体育館に来たら否が応にも木兎さんのことを思い出してしまうから、まだ来たくないのかもしれない。それなら連絡もしない方がいいのかと思うけど、あいにく俺はそこまで優しくできない。
「榊」
榊の心境を考えながらも話しかける俺は、間違いなく性格が悪いと言われるだろう。
「あ、赤葦ー」
それでも榊が笑って応えてくれるから、たぶんもうやめてほしいと言われてもやめられない。泣いて拒絶されたらどうするかわからないけど。
「聞いて聞いて!チョームカつくのっ」
「何があったの?」
「朝ビル風めっちゃ強くてさ、そのせいでお気にの傘折れたー!」
いつも以上のハイテンションで声をかけてきた榊に、今日もほんの少し安堵する。
傘が折れたのは、きっと駅の高架下の所だろう。あそこはビル風と同じ原理でどうしても風が強くなるから、気を抜くと想像以上にあっさりやられる。
何を隠そう、俺も前にやられたことがある。
「新しいの買うしかないんじゃない?」
「でも今使ってるやつほど気に入る傘が見つかるかわかんないんだよぅ」
「まぁそうだろうね」
帰りはどうするんだろう。今日のところは折れた傘で帰るんだろうけど、次は傘が飛ばされるんじゃなかろうか。
「今日の帰りに探すんだぁ」
「買ってすぐ折らないようにね」
「私は折らないよ!風が悪いんだよ!」
まぁそうなんだけど。
「高い傘買った方がいいかなぁ」
「金額でそんなに変わらないんじゃない?」
「でもほら、万単位の傘なら強そう!」
確かにそれくらいの金額なら多少なりとも強度を上げてる傘もあるだろうけど、それを学生のうちから使うのもどうかと思う。
「それ、盗まれたら大変なことになるよね」
「は!!」
学校で傘がなくなることなんて日常茶飯事なんだから、下手したら使ったその日になくなる可能性がある。それに、どんなに高くても壊れるときは壊れる。
「そんなことになったら、絶対お母さんに怒られる…」
「あと買うだけのお金あるの?」
初めての差し入れに、考え付かない量のおにぎりを持ってきたくらいだ。もしかしたら榊のお財布には結構余裕があるんだろうか?
「ない!」
そう思ったけどなかったらしい。
「それならなんでそんな発想になったんだよ」
「考えるだけならいいじゃん」
「まぁいいけど、虚しくならない?」
「最初から無理なものに対してそんなこと思わないかなー」
「そっか」
誘ってみても大丈夫だろうか。まだ少しの不安はあるけど、誘うだけならたぶん大丈夫だろう。
「榊」
「なぁに?」
「明日、今学期最初の練習試合があるんだけど、観に来ない?」
まだ来たくないならそれでいい。でも、できるなら来てほしい。
それが俺のわがままだとしても。
「…うん、行こうかな」
「予定があるなら無理しなくていいんだけど」
「私もいつ行こうかなーって思ってたから、大丈夫!暇だしね!」
無理をしているようには見えないけど、実際のところはわからない。
「差し入れとかいらないから」
「え!いらないの!?」
「気使わなくていいから、観においで」
木兎さんの影なんて追わなくていい。
そう言えたらどんなにいいだろう。
「うん、ありがとう」
そんなことを言えるほど、距離が近付いたともいえないんだから、情けない。