加糖したホットミルク
「京治くん、」
「なにか見つけたの?」
「うん…ちょっと見てもいい?」
「いいよ」
透子に連れられて立ちよったのはゲームセンターの入り口、大きなぬいぐるみがいくつか入った機械だった。
こう言うのって基本とれないって言うよな。アーム弱くしてるとかよく聞くし。そう思いながら透子を見ると、中に入ってる頭でっかちなうさぎが気になるらしく、かじりつく勢いで見てる。
「欲しい?」
「でもとれなさそう」
否定はされなかった。相変わらず表情にはならないけど、雰囲気だけが欲しいと声をあげている。
「1回やってみる?」
「…うん」
そうは言ったが、1回300円と少し金額が大きかった。そんなに何回もできないな。
お金を入れてアームを動かす透子は、初めて見るんじゃないかってくらい必死に狙いを定めてた。
ボタンを押してアームが降りるとうまいこと頭を掴んだようで、うさぎはするすると持ち上がっていく。しかし、横移動を始めると呆気なくうさぎは落ちた。
「やっぱり難しい」
呆気なく諦めたけど、珍しく寂しそうに眉が下がったのを見逃せなかった。
別に泣かせたいとか思ったことなくはないけど、ぬいぐるみにそんな顔させられたってことがムカつく。
「じゃあ帰りにもう1回寄って、あったらまたやろう」
「…うん」
手をとって本来の目的であるショッピングモールへ向かう。
余談だが、最近の透子は手を繋いでも恥ずかしがらなくなってしまった。本人はバレてないつもりなんだろうけど、恥ずかしいときの癖があるからすぐにわかる。恥ずかしがってるのかわいかったのに…まぁこれからさんざん見ることになるからいいけど。
「本当にいいの?」
「なにが?」
「私の買い物に付き合ってもなにも楽しくないと思う」
「そう?俺は嬉しいよ」
「なんで?」
「透子が新しい服着るの、1番最初に見れるし」
「…ばか?」
なんで今罵られたんだ?
「変なこと言ったかな」
「言った」
そうかな?
「別に、もういいけど」
先を促すように細い指に力が入る。
まぁ、恥ずかしがらずに手を繋いでくれるようになったのは俺としてはかなり嬉しいことなので良しとしよう。
△ ▽ △
買い物も終わって、自然ともう1度あのぬいぐるみの前まで来ていた。
少し場所は移動していたけど、相変わらずガラスの向こう側でコロコロしている。
「やる?」
「うん」
意を決したようにお金をいれる透子は、珍しく闘志に満ちた目をしていた。
そんなにこのうさぎが気に入ったんだろうか。たしかにぬいぐるみらしくふくふくしているし、毛足も長いから手触りもいいのかもしれない。顔なんかもぬいぐるみらしくてかわいいし、薄いピンクも女子が好きそう。
でも透子もこう言うの好きなタイプだったんだな。普段の雰囲気からは想像つかなかった。持ち物とかも結構シンプルだし。
そんなことを考えてる間に、うさぎは持ち上げられてまた落ちていた。
「持ち上がるのに…」
「ぬいぐるみの重さに耐えきれないとか?」
「それゲームとしてどうなの?」
「簡単にとれたら儲けにならないし」
「…そっか。この大きさの子が簡単にとれたら破産するよね」
納得したのか、透子はもう一度挑戦することにしたらしい。
そんなことより、今ぬいぐるみのこと「この子」って言った。厳密には違うけど、ぬいぐるみとは言わなかった。
やっばいこれ、透子めっちゃ気に入ってる。絶対欲しいんじゃない?そうじゃなきゃこんな真剣に操作したりしないか。買い物の時もなんとなく意識がどこかにいってたような感じもするし…間違いない。
「…とれない」
何度かやっても運べる気配がなく、珍しく不機嫌そうに眉が寄ってる。
こんなこといったら絶対不機嫌になると思うけど、ぬいぐるみに必死になるのかわいい。
「俺もやってみていい?」
「うん」
あんまりに必死だから、ちょっとやってみたくなった。
だいぶ取り出し口に近付いたし、持ち上がるんだから取れると思うんだけど。体よりも頭の方がアームにはまるから頭を掴むので間違えてないはず。考えてもわかるわけないし、とりあえず頭掴むか。
そんな感じで捕まえたうさぎは、さっきと同じく持ち上がり、今度は落ちることなく運ばれていった。
「え、」
落ちた先は取り出し口。まるでうさぎが逃げ出したことを知らせるように機械がけたたましく音楽を鳴らす。
「はい」
取り出し口からは大きなピンクのうさぎ。
目をキラキラさせながらそわそわしてる透子にそのうさぎを差し出すと、ピタリと止まってしまった。
「え、でも…」
「透子のために取ったから」
俺がこんなかわいいぬいぐるみを持って帰ってもびっくりされるし、なにより透子が欲しそうにしてたから手伝っただけ。ウチに置いておくよりも透子が持ってた方がこいつにとってもいいだろう。
透子も同じところに行き着いたのか、ようやくそろりと手が伸びてきて透子の両手がぬいぐるみを受け取る。
「…ありがとう」
ぬいぐるみを抱きしめて顔を隠してしまったけど、俺は見た。間違いなく見た。ぬいぐるみに顔が埋まる直前、この上なく笑顔だったこと。
「いや、こちらこそありがとう」
「え?」
まじ天使だった。これ以外に言葉が見つからない。
解説するなら、あれは気の抜けた顔とでも言うのだろうか。眉が下がって目を少し細めて口角が上がって、誰が見ても笑顔だと言われるだろう表情。たぶん学校では俺しか知らない顔。最初立ち寄ったときこいつに透子の表情変えられてムカついたけど、そんなことどうでもよくなるくらいに笑顔の透子はかわいかった。
いや、いつもの透子もかわいいんだけどかわいさ倍増?表情があまり出ない子で本当に良かった。いつもこんな笑顔されてたら俺の心臓が持たない。間違いなく爆発する。あと不安で仕方なくなると思う、と言うか他の男とか主に変態が寄ってくるから表情出づらい子でホントよかった。今の透子でもたまによからぬ輩が近付くことがあるから排除に余念がないのにいつでも笑顔ってそんなの狼の群れの真ん中で昼寝するうさぎだよくっそかわいい。穴うさぎみたいな耳短いやつじゃなくて今取った耳が大きくて垂れてるうさぎだったらかわいいっつーか透子がかわいすぎるのが最早罪でありご褒美であるとかまじ天使すぎてヤバいとりあえず透子は誰にもやるつもりない。
「あの、京治くん…?」
「うん」
「耳、そんなに掴まなくても…」
無意識にうさぎの耳を全力で握りしめてたらしい。平たくて大きめな耳が俺の手の中で潰れていた。
「ごめん」
「いいけど…怒った?」
「なんで?」
「…顔…」
もしかして、また考えてることが顔に出ないようにと無意識に無表情を作っていたのか?
だってもしも緩みきった顔なんかして透子にキモいとか言われたらマジで生きていける気がしない。その瞬間精神的に死ねる。そのためにも緩みきった顔なんて見せるわけにもいかないんだけど、無表情もダメらしい。どうすればいいんだ。
でも考えないこともできないから、とりあえず見られないようにしよう。そうすれば引かれることも嫌われることもなくなる。
「怒ってないよ。でも撫でてもいい?」
「うん」
勝手な結論をひとまず出して透子にそう聞くと、雰囲気だけはとても嬉しそうにうさぎを少し寄せてくれた。
もう1回笑ってくれたらいいのに。そのうさぎじゃないとダメなのか。くそ、うさぎめ…でもお前を抱えてる透子が最強にかわいいから許す。
「え、あ…っ」
さて、俺が撫でたかったのはけしてうさぎなんかじゃない。手触りはたぶん良かったけど、俺に言わせればうさぎがかわいいんじゃなくて、うさぎを抱えて嬉しそうにしている透子がかわいいのだから透子を撫でたいと思うのは当然のこと。
「うさぎ、こっち」
「うん。俺が撫でたいのは透子だから間違えてないよ」
「ここ、外」
「うん」
恥ずかしがってぬいぐるみにほとんど顔を埋めてる透子がかわいいから、ひとまずはこのかわいさを心行くまで堪能しようと思う。
2017/01/22