(人は見た目じゃわからない)
「帰ったぞ」
「お帰りなさい!みんなケガはしてない?隠したらダメだからね」
「大丈夫」
「もちろんです!」
「ならよかった。ご飯用意してあるから、先にお風呂入っておいで」
主に私が腐ってたせいなんだけど、今日は久し振りにみんなで出陣してもらった。出陣先は、刀装は多少剥がされるかもしれないけど、大きなケガはしなさそうなところ。
ケガやもしも折れたらと思うと震える程怖いけど、これもお仕事だからちょっとずつだけど進めていかないといけない。
「なぁ大将、どっかからの届け物と、あとちと渡したいものがあるんだが」
帰ったばかりの薬研はどうやら玄関に置かれた届け物を見つけてくれたらしい。
「あ、届いてた?ありがとう」
薬研から小振りな段ボール箱を受け取ると、顔の筋肉が緩んだのがわかった。
いつも思うけど、届くのめっちゃ早いんだよね。仕事が早いことはいいことだ。欲を言うなら私が母屋にいるときに来て欲しいけど、それは無理な願いってやつだろう。
さて。そんな宅配事情なんかより、私には最近気になってることがある。
「ねぇげんちゃん」
私は出来る限り緩んだ顔を引き締めて、可能な限り怖い顔を作る努力をしてみた。
「どうした?」
「この間ネットでね、近侍が届け物とか持ってくるって見たの」
「ねっと?ああ、大将がたまに操作してる絡繰りか」
「うん、ちょっと違うけどおおむね正解」
薬研は吸収が早いのか、私の使う言葉を次々覚えてくる。私が使わない言葉までどこかから覚えてくる。おかげで会話に困らなくて助かるけど、私が気になってるのはそんなところじゃない。
「で、そのネットがなんだって?」
「うちの近侍ってばんばちゃんだよね!?なんでばんばちゃんじゃなくてげんちゃんが持ってくるの!!」
この間近侍がなんたるかということを調べて、ばんばにお伝えはしてる。だけど相変わらず私の側にいてくれない。全然近侍てくれやしない!
「山姥切の旦那は…まぁ許してやってくれ」
「やだぁー!それだとばんばちゃんお仕事サボってる事になるじゃん!」
「それより大将、なに頼んだんだ?」
やっぱり嫌われてるんじゃないだろうかと考え始めた頃、薬研は意識をそこからそらすように先ほど手渡してくれた段ボールを指差した。
「見る?」
「…いいのか?」
「うん。新しく来る人達はともかく、薬研達には知ってて欲しいからね」
箱から取り出したのは、枝藤をデザイン化した鬱金色の小風呂敷と、漆塗りの小振りな長小箱。
「大将、そいつは…」
薬研は気付いたかな、これを何に使うのか。気付いてなくてもいいけどねぇ。これから嫌でもわかるから。
「ねぇ薬研。ちょっと付き合ってよ」
私が小箱と風呂敷を抱えて歩き始めると、薬研は無言で私の後を着いてくる。
向かう先は手入れ部屋。みんな出陣のたびに多少のケガをしてくるから、この道だけは嫌でも覚えたよね。
開く扉は、二つしかない手入れ部屋の、ここしばらく使っていなかった方の部屋。ここには、あの日折れた前田がまだある。
小さく砕けてしまった欠片は見付からなかったけど、それ以外の全てを風呂敷に包んで長小箱に収めた。それから、橙の組紐で封をする。
「ごめんね薬研」
「なんで大将が謝るんだ」
使えなくなった道具をいつまでも側に置く必要はない。ましてや刀剣はこれからも増える。それでも手元に置いて保管するのは、私のエゴに他ならない。私が二度と同じ事を繰り返さないように、いつでも罪を自覚できるように手元に残す。ただそれだけ。
「いやー、こんな湿っぽいことに付き合わせちゃったからね。あとはこの間鍛刀した二振りも起こさなきゃ」
だけどそんなことを素直に言えるわけもない。
「もうちょっと、付き合ってくれる?」
「…ああ」
言いたいことはたくさんあると思う。それなのに、薬研に口を挟む隙を与えず手入れ部屋を出た。
わかってて聞かないんだから、我ながらいい性格してると思うわ。特に薬研は空気を読んだり心情を察する能力が高いから、私が拒絶すればムリに話したり聞いたりはしないだろう。
「兄弟みんな揃えたいなと思っててね、二振り作ったの」
「じゃあまた資材を集めないとな」
「仕事増やしてごめんね」
「いいってことよ」
鍛刀部屋には、刀が二振りだけある。お願いしたのは少し前のことだから、霊力が尽きたのか仕事を終えたからか、式神は既にいなくなってる。
「大将、さっき俺っちが渡したいものがあるって言っただろ?」
「あ、そうだった。荷物以外にもあったの?」
「今持ってくるから待っててくれ」
「はぁい」
薬研がどこかに何かを取りに行ってる間、私のせいでほったらかしにされてた刀身を拾い上げた。出来上がった刀は拵えもなにもないからいまいちわからないけど、たぶん短刀と打刀だと思う。もしも太刀ってやつだったら間違えたことを謝ろう。
別にホコリが積もってる訳じゃないけど、なんとなく短刀の表面を袖で拭ってみた。短刀だけって言うのもおかしいから打刀も同じようにしてみた…ら、思ったより袖が汚れた。
まぁいいや。洗ったら落ちるでしょ。
「大将、待たせたな」
「いいえー、大丈夫だよー」
「出陣先で拾ったんだ」
「へぇー」
戻ってきた薬研が持ってたのは刀。
「これって打刀?」
長小箱を抱えていない方の手で、薬研の持ってきた刀を手に取った。
「ああ、そうだな」
「ほぅ…」
ばんばと同じくらいかと思うけど、私ばんばの刀は最初の一回しか持ったことないんだよね。だからサイズ差とかはよくわかんないや。その他の刀なんて、下手したら触ってないレベルだけど。
それに、調べて初めて知ったけど、どうやら刀は鉄じゃなくて鋼でできてるらしい。それがわかったからと言って重いのかとか軽いとかわかんないから、本当にただの知識程度。
「よし、一度に三人も呼べるかな」
「無理しなくても、一振りずつでいいんじゃないか?」
「その順番で優劣をつけたみたいになるのもヤダから、いっぺんに起こしたい」
「大将がそう言うなら、もしもの時は俺っちに任せな」
「やだ、げんちゃんが頼もしすぎる」
もしもの時って言うのは、たぶん倒れたりなんかしたときのことだろう。さすがに私も頭から倒れるのは回避したい。頭を強かに打ち付けようものなら、簡単に割りかねないものがここには多いからね。ここは一つ、私の頭(物理)のためにも、神に祈りを捧げる乙女のポーズでも取るか。
それには前田を持ったままでは少しばかり難しい。
「悪いけど、ちょっと持ってて」
「おう」
ああ、一度前田を部屋に置いてからここに来ればよかったな。でも兄弟である薬研なら、雑に扱ったりはしないだろう。
いまだにちょっと恥ずかしさが残るけど、これをしないとどうにもならない。そもそも、この子達はこうされて当たり前だと思ってるかもしれない。それなら何を恥ずかしがる必要があるか。
…とは言え恥ずかしいものは恥ずかしい。心を無にして、ただただお祈りをした。
「やあやあこれなるは、鎌倉時代の打刀、鳴狐と申します。私はお付きのキツネにございます!」
「……よろしく」
「乱藤四郎だよ……ねぇ、ボクと乱れたいの?」
「へし切長谷部と言います。主命とあらば、何でもこなしますよ」
その結果、出てきたのは三人と一匹。
おかしいな。私、三人はわかってたけどオマケがいるなんて聞いてないぞ?それと女の子がいるとも聞いてないぞ?
「主、いかがしましたか?」
「え、あ、あの…」
声をかけてくれたおにーさんには申し訳ないんたけど、私は目の前にいるきゃぴきゃぴした女の子の方が気になってる。
「…らんちゃんって女の子?」
みだれちゃんとは呼べなかった。なんか、こう…ダメだと思った。
「それボクのこと?かわいい呼び方!ありがとうあるじさん!」
しかし本人が喜んでくれたのでいいだろう。
いまだ座ったまま見上げてる私に飛び付いてきたのはどこからどう見ても女の子だ。しかも私のセンスのないあだ名でこんなに喜んでくれるってなんだ、腕にひっついてそれこそ花のような笑顔を見せてくれるとかかわいいな。天使か?
…付喪神だった。
「大将、乱藤四郎は俺っちの兄弟だ」
「妹?」
「弟だな」
おとうと…だと…?
「え、嘘だよね?だってこんなにかわいいのに男の子だなんて嘘だよね??」
「かわいいって褒めてくれるのは嬉しいけど、ボクはちゃんと男の子だよ?」
なんてことだ。まさかこんなにかわいい男の子が存在しようとは…男の娘…?
「確認……する?」
「大丈夫ですすみませんでしたぁ!」
愕然として薬研を見上げてると、らんちゃんがとんでもない爆弾を投下してきた。男の子だ!これは絶対確実に男の子だ!こうやって本気で強気にくるときはマジなんだよ!
座ったまま騒いでたら、気を使ってくれたのか残り二人もしゃがんでくれた。らんちゃんは私にくっついたままなので必然的に座る形になってる。
「ねぇあるじさんっ鳴狐もボク達の兄弟なんだよ」
「そうなの?」
「左様でございます!粟田口派、左兵衛尉藤原国吉が打ちたる打刀。号を鳴狐と申します!」
ちょっと何を言われたかわかんなかったから、あとで調べよう。見ず知らずの他人ならともかく、これから一緒に頑張っていくのに「わかんなかった」じゃあ可哀想だからね。
「お供さんと比べて、鳴狐は寡黙…静かなんだね」
「鳴狐は人付き合いが苦手でございます故、代わりにわたくしめが皆様と交流しているのでございます」
「なるほど。お供さんに名前はないの?」
「わたくしは鳴狐のお付きにすぎませんので、主殿のお好きにお呼び下さいませ!」
じゃあ勝手にともちゃんと呼ぼう。こんのすけと言い鳴狐といい、狐多くない?
「えーっと…」
そして、最後になったけどこの人。たぶんこの本丸で一番背が高いと思う。
「長谷部と呼んで下さい」
「へし部ダメ?」
「是非長谷部とお呼び下さい」
へし部はダメらしい。まぁご希望ならばそうしようじゃないか。
「じゃあまずは本丸の案内だね」
そう言って立とうとしたらあらビックリ。フラついてそのまま後ろにひっくり返りそうになった。なっただけで、実際はずっと後ろに控えててくれた薬研が支えてくれたから無事なんだけど、まぁみんなもビックリしますよね。うろたえ方ハンパねぇ。
「主殿!如何なされましたか!?」
「どっか悪いの?」
「無理はなさらないで下さい」
失礼とは思いつつ、みんなのあまりの慌てようにちょっとだけ笑ってしまった。本質なのか神様だからなのかわからないけど、みんな優しいね。
「いやいや、三人いっぺんに顕現したのが初めてだったから、ちょっと疲れただけだよ」
「大将、先に飯でいいんじゃないか?案内してたら遅くなるだろ」
そんな中で一人冷静なげんちゃんマジハンパねぇ。男前がすぎるだろ。あともういくつか若かったら間違いなく惚れてたわ。
「それもそうか。じゃあ広間まで私が案内するから、薬研もお風呂行っておいで」
「じゃあそうさせてもらおうかな。まだふらつくかもしれないから、大将のこと見ててやってくれ」
「この鳴狐にお任せあれ!」
「言われずとも当然だ」
「あるじさん、一緒に行こうね」
そうして前田を手に三人と一匹を連れて広間まで行ったんだけど、道中なんだかものすごくか弱い人扱いされてやりにくかったことを報告します。
ちなみに、迷わなかったけど遠回りしたことも追記します。
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