(飼い慣らすにはまだ早い)
私の名前を公表してから数日。検非違使遭遇からわずか三日。あれからみんな力を合わせて頑張ってくれてるので、少しずつだけど確実に練度を積み重ねてる。まだ探索よりも出陣の方が多いけど、様子を見てそれなりに進んでる、はず。
それに、こんのすけ曰くこのまま行けば早くも長谷部に「特」が付くらしい。山姥切や小夜達はすでに付いてるらしいけど、なんのことかよくわからなかったから適当に流しておいた。
「おはようっ吉野さん」
「お、らんちゃんおはよう。どうかした?」
ひょこりと覗き込んできたのは我が本丸一の美少女(男子)、乱藤四郎さんだ。
そのうるつやキューティクルを守るために、らんちゃん専用のシャンプーとトリートメントを買ってあげたのは記憶に新しい。
「えへへ、朝ごはんのいい匂いがしたからついきちゃった」
「もー!らんちゃんかわいい!合格!」
「やったー」
喜び方までかわいいらんちゃんには、まだみんなには内緒にしてある、とっておきのチョコを一粒口に放り込んであげた。
もきゅもきゅしてるのかわいい…これで男の子だなんて、世の中は非道である。
「そう言えば長谷部さんは?」
こてりと首をかしげたらんちゃんから、最近の悩みのタネの所在を聞かれた。
「あんまりにもうるさいから、みんなのお布団干してもらって、そのあとはお洗濯もお願いした」
長谷部は…なんと言うか凄かった。なにかと側にいて申し付けはないかと聞いてくるうえに、私が何かしようものなら「主のお手を煩わせるわけには」とか言って根こそぎ仕事を奪っていく。
こいつぁ人をダメにするクッションならぬ、主をダメにする刀だと顕現当初からわかっていたが、検非違使遭遇以降事態は悪化してる。すぐさま何とかしないといけないと判断した私は、長谷部の大好きな主命を使って色々な雑用を押し付けてる。おかげで毎日ふかふかお布団だし、干すのが遅くなって洗濯物が生乾きになるなんてことも翌日に取り込むこともない。
問題は、雑用をやらせてる罪悪感がハンパないってことくらい。
「長谷部さんのことだから、終わらせてこっちに来そうだね」
「うん。だから私も早く終わらせるの」
ご飯を作るのは今のところ私の仕事だ。仕事を無事遂行するためには、長谷部の妨害(と言う名のお手伝い)が入る前に終わらせないといけない。おかげで人数が増えてからは大皿料理が増えたけど、短時間で大量に作るのには慣れてきた。とは言え、朝はちゃんとお膳を使いたい精神で頑張ってる。
「ボクも手伝っていい?」
「あ、じゃあお味噌汁に葱入れてくれる?」
「はーい」
今日は筍とワカメを炊いたやつと、青菜のごま和え、カボチャのポテサラにメインはホッケ。お味噌汁は揚げと葱だ。
ちなみに、夜はこんにゃくのピリ辛炒めが食べたいと思ってる。がっつりお肉もいいですな。
「吉野さん、いつも大変じゃない?」
「そんなことないよ。みんなは外で頑張ってくれてるから、私はここで頑張るの。それにたまにこうして手伝ってくれる子がいるからね」
「ふーん」
らんちゃんからはいまいちわからなそうな、腑に落ちないと言わんばかりの返事が帰って来た。私の話は刀からしたら訳のわからない話になるだろうから、当然と言えば当然の返事なんだろう。人が道具を使役するのは当たり前のことなんだから。
こんなこと、ここに来たばっかりの時も思ったな。
「主!布団干しと洗濯が終わりました…の、で…」
案の定、雑用と言う名の力仕事を終わらせたらしい長谷部が駆け込む勢いで戻ってきた。
しかし長谷部に手伝ってもらうような仕事はもう残ってない。らんちゃんに任せたのだって、ぶっちゃけ葱入れてほっといてもいいようなものだ。
「お疲れさま長谷部。もうご飯できるからみんなのこと広間に集めてもらっていい?」
「わかりました…あの、主…?」
「なに?」
だからみんなを集めてほしかったんだけど、長谷部が妙に戦慄いてる気がする。
なんか不味いことでもあったか?
「なぜ乱藤四郎がそこに…?」
なんて考えるより先に回答をくれるんだから、長谷部と言うやつは本当に長谷部だ。マジで私ダメ人間になりそうだな。
「ああ、お手伝いしてくれるって言うから」
「なぜ俺ではなく乱藤四郎なんですか!」
そうくるか。いやわかってたよ、うん。長谷部主命大好きだもんね。自惚れとかじゃなく、巡り巡って私のこと大好きだもんね。
「長谷部は安心してお任せできるけど、らんちゃんは一緒にいてあげないといけないから」
あ、これじゃあらんちゃんが頼りないみたいになっちゃう。そんなことは全然ないからね!
「練度で言えば!俺と乱藤四郎の差はそれほどありません!」
あちゃー。そこついてきちゃうかー。
そりゃあ同時に顕現したし、二人とも頑張ってくれてるから誉も同じくらい取ってくる。だから本当に練度の差が少ないんだよね。
「でもほら、さっき頼んだことって長谷部にしかお願いできないことだからからさ」
まぁ実際はそんなことないんだけど。いや、お布団を干すことに関してはばんばちゃんか長谷部にしかお願いできないかな。高さ的に。
なんて心の声は聞こえなかったらしく、無事元気を取り戻した長谷部は意気揚々とみんなを集めるため台所から離れていった。
「ごめんね、らんちゃんが頼りないとかそういう意味じゃないんだよ」
「わかってるよ」
わかってくれて本当にありがとう。粟田口のみんないいこかな。天使かな。
それに比べて…
「長谷部、めんどくさい」
もしもこの会話を長谷部に、聞かれたらとんでもなくめんどくさい事になるんだろう。既にめんどくさい未来が見えてる。いやだ、めんどくさいのはいやだ。もっと長谷部をうまく扱えるようになりたい。
「吉野さん、それ長谷部さんの前で絶対に言っちゃダメだよ」
「うん」
別に長谷部のことが嫌いなわけではない。細かいところまで気を回してくれるから助かることの方が多いんだけど、それを上回る勢いで私の仕事を根こそぎ奪おうとしてくるから困るってだけ。
「いっそのこと長谷部さんにここも任せちゃったら?」
「それだと私なんにもしなくなっちゃうよ」
「吉野さんは主としてしないといけないことがあるんでしょ?だったらこういうのはボク達に任せてもいいんじゃない?」
それは、らんちゃんも含めたみんなと言うことだろうか。
一瞬だけみんなとここに立つことを考えたけど、私の回答はやっぱり変わらなかった。
「やっぱりいいよ。先のことはわかんないけど、少なくともまだしばらくここは私がやる」
「どうして?」
「みんなには刀としてのお仕事があるでしょ?人間の勝手で呼び起こしたんだもん。こんな雑事と呼ばれることは人間がやらなきゃ」
元の彼らは戦う為の刀で、付喪神だ。それがどうして家事をしないといけないのか。ただでさえ罰当たりなことをしてるのに、そんなことまでお願いしたらそれこそ天罰が下る。
「でも吉野さんは人間としての楽しみを見つけてって言ったよ」
…たしかに言った。どうせ巻き込まれたのなら、精一杯楽しんだ方がいいと思ったから。
「吉野さんが楽しそうにしてるからボクもやりたいと思ったんだけど…やったらダメなの…?」
くっ…かわいい!
よもや自分の発言に首を絞められることになろうとは!かわいいくて策士ってなんだよ、らんちゃんはどこのヒロインなんだよ。
「じゃあ、たまにお手伝いお願いしようかな」
「わーい!」
かわいさに負けた…長谷部だけじゃなくてらんちゃんも同類だったの?いや、タイプは違うな。でも私の仕事を奪おうとしてるぞ?なんでだ?
「吉野さん、これまだ?」
「…いや、もう大丈夫。お椀によそってあげて」
「はーい」
わかんない、何を思って行動してるのか全然わかんない。付喪神の考えてることを人間が理解しようなんてことがそもそも間違いなのか?
…今度こっそり犬の飼育について調べてみようと思います。
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