(叩けよ、然らば開かれん)


この間みんなが出陣先で長谷部を拾ってきてからしばらく。どうやら出陣先で刀を拾う事が稀にあることが調べた結果わかった。とは言っても、長谷部を最後に新しくお迎えしてないんだけどね。

これからも拾う可能性があるのは正直に言うと非常に助かる。どうやら鍛刀のセンスと言うか、運が全くないらしい私は短刀しか作れた試しがない。今日だって短刀二振りが出来た。
もしかしたら使う資材が少ないのかとも思うけど、うっかり使いすぎて手入れができなくなるのも困るから、なかなか踏み切れないのが事実。なんかコツがないのかちょっと調べてみよう。いい加減超至近距離攻撃しかできない短刀ばっかりだと、みんなケガが絶えないんだよ。見てるこっちが痛いし心臓に悪い。

調べるのは明日からと決めて、執務室として使ってる部屋で退屈な書類作成をしてたら、出陣部隊の帰って来た音がした。

今日はばんば率いるうちの最強部隊に鳴狐を加えて、レベリングをお願いしてたから重症者はいないはず。

「帰ったぞ」
「お帰りなさい。今日はどうだった?」
「いつもと変わらん」
「負傷は?」
「刀装を壊されたくらいだ」

やだ頼もしい。軽い負傷は覚悟してたけど、まさか無傷で帰ってくるなんて思わなかった。
そろそろ検非違使も怖いし、新規開拓してもいいかもしれない。むしろみんな新規開拓しながらレベリングしてるのか?私だけかな、安心できるところまで練度積んで、それから新規開拓しようとしてるの。だから遅いの?

「こいつはどうしたものかと思ってな」

もやもや考えてたら、ばんばがなにかを差し出した。見てみれば、そこには打刀が二振り。

「うぅん…ちょっと困ったな」

先にも言ったように、誰がこれを落としてるのかわからないけど慢性的な資材不足と戦力不足に喘いでるこちらとしてはとても助かるので、今回もありがたく受け入れさせていただく次第である。
しかし困ったことがある。

「どうした」
「今日鍛刀したんだよね」
「それがどうした」

ばんばの発言もごもっとも。鍛刀したならさっさと顕現すればいい。だけど私が二の足を踏むのは、長谷部達を顕現した直後にふらついた事が原因である。
そんな甘ったれたことを言ってる暇も余裕もないし、いつまでも顕現しないでほたっておくのも神様に対して失礼だ。

「ばんば、ちょっと手伝って」

いつまでも迷ってても時間の無駄と腹をくくって刀を二振り受け取って抱えると、顕現させるべくばんばを連れて歩き始める。

最近知ったんだけどさ、本丸内に顕現専用のお部屋があったの。知らなかったなんて既に顕現済みのみんなに謝罪したいところだけど、見取り図が変に達筆なのが悪いよね!読めないんだもん。

「前にまとめて顕現した時ちょーっとばかしふらついちゃったんだよね。だから倒れそうになったら助けてね」
「なら一振りずつ顕現すればいいだろう」
「顕現する順番なんて私につけられないもーん」

薬研にもした説明をばんばにも繰り返すと、呆れたと言わんばかりのため息をつかれた。

…ねぇ、私主なんだけど。誰と比較するまでもなく最初からだけど、なんか私の扱いすっごい雑だよね。まぁ今更私の扱いについてどう言っても直りやしないこともわかってる。そんな非建設的なことより顕現しようぜ!

と言うことでやって来ました顕現専用のお部屋。専用と言っても刀掛台がきちんと置いてあるってくらい。四つ置いてあるから、複数を一度に顕現することはそれほど珍しいことではないんだろう。それなのに、どうして私は複数顕現した時にふらついたのか…私が弱いからか。

一つ一つ刀掛台に置いて、いつかのようなお祈りポーズ。もう恥ずかしいとか言わないよ。よく考えたらこちらはお願いする側なんだから、当たり前なんだって行き着いた。
打刀を二振りに加えて、短刀も二振り。全部合わせて顕現限界値だろう四振り。正直ちょっと怖い。さすがに死にはしないだろうけど、不安なもんは不安だ。

「ばんば、なんかあったらよろしく」

しかし私がやらずに誰がやるのか。万が一の時はばんばにお任せして、私はお祈りに集中する。
最近はもう政府とかお国とか考えてない。ただ、うちのみんなの負担を軽くしたいってことばっかり。いいんだよ、神様には素直な気持ちでお祈りするんだって、おばあちゃん言ってた。

そうして桜と共に顕現した四振りは、それぞれ個性が光るような人達だった。

「僕は、五虎退です。あの……しりぞけてないです。すみません。だって、虎がかわいそうなんで」
「オレは愛染国俊!オレには愛染明王の加護が付いてるんだぜ!」
「あー、川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能はいい感じってね」
「大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」

しかし、残念なことに私はそれらを聞くと同時に意識が遠退いた。前回ふらついたから今回もそうなるのかなーなんて思ってただけに、まさかこんな簡単に意識が飛ぶだなんて思わなかったよね。
それでもみんなの自己紹介を全部聞き終えたことは褒めて。

目が覚めたとき、目の前にいたのは我が愛しの初期刀ばんばちゃん。相変わらず美人さんね。普段呆れた顔ばかりしてるのに、今日に限っては全面的に心配の色が濃く出てるから驚きだ。

「急に動かなくなるから、なにが起きたのかと思った」

動かなくなったと聞いて一瞬首をかしげたけど、すぐにその時の状況が理解できた。今回顕現する時、畳に座って聖女のお祈りポーズをしてたから倒れなかったんだろう。だからばんばも意識が飛んだ事にすぐ気付けなかったんだ。
自己紹介したのに無言で動かなくなって、かつ近侍のばんばが慌て始めたら新人さんはどうしたらいいのかわかんなくなるよね。

いつの間にやら寝かされていた布団から体を起こすと、あからさまにばんばがオロオロした様子で手を伸ばすから、ちょっとかわいいと思ってしまった。

「体は大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、あんまり丈夫ではないけど、問題ないよ」
「そうか」

ばんばはもちろんだけど、新人さんにも悪いことしちゃったなぁ。目の前でいきなり意識なくされたら、みんなびっくりするよね。うん。ちゃんと挨拶もしてないし、どっか悪いわけでもないし起きよう。ご飯の準備もまだ終わってない。

「ばんば、四人はどうしてる?」
「乱が案内をしている。厨は薬研が請け負ってる」
「あや。薬研達にも悪いことしちゃったね」
「あんたが気にすることでもない」

それでも食事は私が用意するものだ。しかしあのケガ以来、時たま薬研達が手伝ってくれたり、はたまた請け負ってくれるようになった。奇しくも、ここに来た当初こんのすけが言った通りになってる。

外の様子からして、顕現してからとんでもない時間が経ってるわけではなさそう。

「今から薬研の手伝いに行くから、らんちゃん達には終わったら広間待機って伝えてもらっていい?」
「わかった」

よし、急いで晩御飯の準備だ。その前に部屋の準備もしなきゃダメかな。

「ばんば、他のみんなは?」
「部屋の片付けをしていたな」
「お布団は?」
「…干しておこう」

部屋の片付けは気付いたけど、布団を干すと言うところまでは気付かなかったらしい。

「ごめんね、みんなにお願いしちゃって」
「あんたが気にするような事じゃない」
「だって刀なのにこんな雑用頼まれて、嫌じゃない?」
「元は刀だがこうして人間の体を手に入れた以上、俺達に出来ることは可能な限り力を貸す」

今聞いたのはばんばの言葉ではあるけど、なんだかここのみんなの言葉のようにも聞こえてなにも言えなくなった。

思えば、ケガの時は台所に誰が立つか取り合いになってた。一番大きいばんばは短刀のみんなの話し合いの輪にちょっと入りづらそうだったけど、それでもしっかり入ってた。それから自主的に掃除を手伝ってくれたり、夜は手が空いていれば台所に一緒に立ってるくれるようになった。その姿はいつだって少し楽しそうだった。
直接みんなに聞いた訳じゃないけど、みんなのその気持ちは、私が勝手に推測して蔑ろにしていいものじゃない。なんでそんなことも気付けなかったんだろう。

「…俺のような写しでは、頼りにならないかも知れないが」
「そんなことないよ!ちょっとかっこよすぎて驚いただけだから!」

私の沈黙を悪い方向に受け取ったばんばを焦って宥めると、ポカンとした後被っている布を全力で引っ張り下げた。

「部屋の事はいいから、あんたは薬研の所に行け」

布に隠れる直前、赤くなった顔はしっかり見えた。

「いつもありがとうね」
「礼を言われるようなことなどしていない」
「言いたかったの」
「そうか」

いろいろと気にしすぎる傾向があるからか、たまにこうしてお礼を言うといつだって恥ずかしがってその顔を隠すんだ。

「じゃあ私は薬研の手伝いに行こうかな」
「ああ」
「今日もおいしいの作るからね」
「それは楽しみだな」

いままでおいしいとか言ってくれたことないばんばちゃんに楽しみだと言われると、俄然やる気が出てくる。これだから亭主関白はダメだと思います!なんて、それとこれは全然違うけどね。

「今日はお祝いもあるからとびっきりおいしいのにするよー!」

たいしたものは作れないけど、頑張りましょう!人になってよかったって思えるようなおいしいもので最初の歓迎だ!

…あれ?私誰か来るたびにご飯のことしか言ってなくない?


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