(禍福己による)


「菱様!きちんと反省していらっしゃいますか!?」
「大変申し訳ございません」

現在の私は、こんのすけにこっぴどく怒られてる。

「菱様が手引き書をきちんとお読みになられないからこのようなことになるのです!」
「返す言葉もございません」

何をこんなに怒られてるのかと言うと、昨日の外出の事である。どうやら昨日のことは[よくある一日に起きた、本当に小さな事件]じゃなかったらしい。

今初めて知ったんだけど、審神者はほいほい他の時代に渡ったらいけない決まりがあったとのこと。渡る時は政府から要請があった時、時間逆行軍殲滅の為赴かなくてはいけない時、もしくは政府に申請を出した時のみ。滞在時間も制限されているらしく、上記を満たしていれば制限内に本丸に戻るようお知らせがあるらしい。それなのに私は全くなんの準備もせず時代を渡ったので、その制限された時間を知らずに過ぎていたらしい。
だから今、私はこんのすけにとんでもない勢いで怒られてる。

「今のところ歴史に大きな影響は見られないので、大事には至らないと思われます…が!今後は二度とこのようなことが起こらないようしっかりと手引き書を読み込んでください!」
「はい、すみません」

しかも、渡った時代でなにか持ち帰ったり残してくることは禁則事項になっているらしい。よって、私が買い物したことにより商家が歴史にない出世をしたり、絡んできた賊の今後に影響が出ないか、なにか現代の落とし物をしていないか。とにかくなにが歴史改編に繋がるかわからないので、細かい調査が必要となるとこんのすけは言ってる。
今のところは問題なくても、これからどうなるかわからないからね。お役人さんにも申し訳ないことをしてしまった。

それから、審神者になったからにはここに死ぬまで缶詰めなのかと問えば、そうでもないと言う。
曰く、審神者専用の買い物先があるらしい。そこも審神者が住まう本丸同様、時の狭間だかなんだかにあって、政府によってある程度の安全が保証されているとか。と言うのも歴史に関与する心配こそないが、そこで盗難や万が一の襲撃がないとも言えないからだそうです。故に、近侍と共に向かうことは必須なんだそう。

既にうちの子達にひとりで出歩くなって昨日怒られてるから、絶対にひとりで行かないけどね!

「…話は変わりますが、お体の方は変わりございませんか?」
「はい」

急に落ち着いて体の心配をしてきたこんのすけに、なんだか妙な空気を感じた。
なにが妙かわかんないけど、いきなり雰囲気変えられたらソワソワするよね。

「また見落とされても敵わないのでお伝えしますが、異なる時代に生身の人間が長時間移動すると肉体的負荷が大きいので禁止している面もあるのです」
「政府が用意した空間と空間なら大丈夫なの?」
「時空間のズレを最小限まで抑えておりますことと、同じ時代空間に存在しているので問題ございません」
「じゃあ、そうじゃない別の時代に人間が長時間移動すると…その、最悪どうなるんですか…?」

負荷が大きいとどうなるのか。なんだか嫌な予感がしてつい敬語になったけど、その予感は悲しいことに当たってしまった。

「五体バラバラになります」
「ひょっ!?」

バラバラって怖!ミンチですか!軟骨入り鳥団子状態ですか!

「え、あの、普段送り出してるみんなは大丈夫なんですか…?」
「刀剣男士は肉体こそありますが、その本体は刀剣です。時空間移動で刀剣が折れることはございませんのでご安心ください」
「肉体の方は?」
「厳密には人間の体とは異なりますので、バラバラになることはございません」

それならよかった。みんなが私の知らないところでミンチになってたら泣くどころじゃないよ。過保護と言われようとも誰もここから出さないよ。

「ご理解頂けましたでしょうか」
「はい」
「充分反省もされているようなので、今日のところはこれにて失礼致します。もしも不調がございましたらすぐにご連絡下さい」
「はい、ありがとうございます」

効果音が目に見える勢いで怒り続けてたこんのすけは、言いたいことを言い切って満足したのかようやくお帰りいただけた。

怖かった。こんのすけもそうだけど、別の時代に移動した時の最悪の場合が怖すぎる。
運営に必要そうな鍛刀とか、手入れについては読んでたけど、他のところは飛ばしてたんだよね…ひとまずいいかなと思って…でも今日必ず全部読む。決めた。またこんなことがあったら怒られるどころじゃなくなる。
と言うか!ある程度安全に買い物ができるならそっちの方がいい!

私はそう決意すると同時に、説教の間続けていた正座のおかげで感覚がなくなった足を元に戻す為に伸ばした。しかし時既に遅し。伸ばすだけでも痛いし、完全に血が止まっていたのか足はとんでもなく冷たくなってた。
足袋で色なんて見えないけど、土色してるんじゃなかろうか。しかも血が通い始めたら思い出したようにしびれるものだからたまったものじゃない。

「終わったか?…って、大将…なにやってんだ?」

こんのすけが帰ったことに気付いたのか、薬研が漆塗りの丸盆にお茶を持って執務室を訪ねてくれた。なにかと付けて騒ぐ私が声も出さず、もしかしたらこんのすけの声だけが聞こえていたみんなは、私がさぞ落ち込んでいると思ったことだろう。

「やっと終わったよぉー!こんのすけのお説教長いんだもん!私が悪いから仕方ないんだけどさ!足めっちゃしびれてるー!」

それなのに、実際の私はこんのすけがいなくなれば堪えていた足のしびれにのたうち回ってるものだから、奇妙極まりないだろう。目撃者となった薬研には分かりやすく呆れられた。

「怪我は痛まないか?」
「しびれてわかんないけど、たぶん大丈夫。触る?今めっちゃ冷たいよ」
「いや、遠慮しておこう。また前田と今剣に怒られても敵わんからな」

理由を述べれば呆れた様子を隠すことなく部屋に踏み込み、机の上に丸盆を置いた。

「痛みはなくても、そんなに暴れたら怪我に触るぞ」
「暴れてはいないよ。少しでも血行を良くしようと揺すってるの」
「それで良くなるのか?」
「うん」

医学的根拠なんてないけど、なんとなく普通にしてるより早く治る感じがするから私はやってる。

「よくわからんが、ほら」
「ありがとー」

薬研からお茶を渡されて、私はようやくおとなしく座ることにした。最近めっきり冷え込んできたから、温かいお茶で体があったまるのがわかる。緑茶最高。

「まさかあんなに怒られるとはな」
「え、薬研達も怒られた?」
「大将に比べたら全然軽いもんだ」
「うあー!ごめんー!」
「大将が謝ることじゃないだろ?」
「いや!私がちゃんとしてなかったのが原因だから!」

まさか私の失態で薬研達まで怒られることになろうとは!
ばんばは最初から一緒にいたからもしかしたらと思ったけど、最近来た子達まで怒られるってことは連帯責任かな。

それもこれも私の怠惰が原因だ。今更だけど、上に立つ者としてこれじゃダメだ。もっと意識しないと。

「あんまり気負う必要はないからな?」
「ん?うん。大丈夫だよ」

私ずっとしたっぱだったからなぁ…人の上に立つってどうしたらいいんだろう。社長が書いたような本とか読んで勉強してみようかな。それともネットを駆使して先に審神者になった人と交流してみようか。

「そろそろ障子を変えたり、火鉢も出した方がいいな」
「ん?なに、変えるの?」
「今のままだと、とてもじゃないが冬は越えられないからな。腰板を着けた雪見障子なんていいんじゃないか?」

ここの障子をまるごと変えるって発想がそもそもなかった。障子の張り替えならわかるけど…え、それだけでもかなり大変じゃない?

「待って、雪見障子ってなに?」
「障子に硝子が嵌まってて、そのまま外が見れるようになってるんだ」
「へぇ…」

見たことないや。やっぱり日本家屋のことはみんなの方が詳しそうだな。

「冬が過ぎたら飾り障子でも入れるか。今の障子も無難で悪かないが、ただの障子より見目もいいし、なにより大将に似合うだろう」

また新しい単語が出てきた。障子ってそんなにいろいろ種類あるの?後でまとめて調べよう。障子って検索したらなんかしら引っかかるよね。
そう思いつつまたお茶を一口。

さて、こんのすけに怒られる原因でもある資料を全部読もうと決めたけど、そんな簡単に読める量ではない。しかも覚えが悪いのは自覚済みだ。
…とりあえず、重要そうなところだけピックアップして読み込もうかな。で、順に全部目を通そう。いや、それだと変わらないな。全部ちゃんと読もう。

「今日はどうするんだ?」
「もう何にもしたくなくなったからお休みで」

朝から怒られてたらなーんにもしたくなくなるよ。今日は非番でーす。内番はあるけどね。

「薬研もお茶にしたら?」
「お誘いは有り難いが、まだやることが残ってるんでな」
「洗い物くらい私できるから置いといていいよ?」
「駄目だ。今日一日くらい安静にしといてくれ」
「はーい」

薬研の言う「まだやること」とは朝食の洗い物のことだ。その他にもばんばは洗濯、小夜といまつるちゃんは畑、前田は洗濯と掃除を担当してくれてる。掃除は範囲が広すぎるので、後程薬研やばんばが合流予定だ。

ここまで来たらおわかりだろう。私は一人、昨日の夜からみんなにおとなしくしておくようにと言いつけられて、みんなが忙しなく動いてるのを眺めてる。なにか手伝うと声をかけても、ケガに触るとかなんとか言って座らせてくるものだから暇をもて余してる。
みんな過保護すぎるよ。

「別に大丈夫だよ?」
「今日一日は許可できないな」

そもそも一日で治るケガじゃないと思う。
なんて言ったところでみんなの過保護期間が延びるだけなので、ここは賢く黙っておく。

しかし、昨日の夜から家事をどう分担するかと相談するみんながかわいかった。
台所に立つ事がホントに当初だけあったばんばが少し有利だったけど、朝手伝ってくれて一番馴れてた前田の圧倒的有利には負けてた。さすがにみんな包丁の扱いには馴れてそうだけどね、刃物だから。

「たまに様子を見に来るから、おとなしくしててくれよ」
「わかったよぅ」

今日一日はおとなしくして、ひたすら活字を読み続けたいと思います。


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