(演練に行く)
「演練に参りましょう!」
「…は?」
みんなを送り出してから明日の内番はどうしようかと一人で頭を捻っていると、こんのすけがやってきてそんなことを言ってきた。
「戦績を見る限りですと、刀剣男士の皆様方も人の体にずいぶん馴れてきたようにお見受け致します。よって、そろそろ演練に参加されても良い頃だと存じます」
演練とは審神者の顕現した刀剣男士同士の、所謂腕試しにあたるらしい。しかしそれに頷くかどうかはまた別の話。
たいした人見知りではないから誰と会おうが気にしないけど、なにぶん進みの悪い私のところだ。他所様にみんながなにか思われないか不安だ。
私のことを言われるのはいいとして、みんながなにか言われるのは耐え難い。どちらかと言うと血の気の多い質故、相手に手を出さない自信がない。いや、絶対殴る。例え手を出さなかったとしてもボロクソにこき下ろすかもしれない。お目にかかってしまう可能性のあるお上に与える印象の為にも、何が起きても取り乱さない精神を短時間で手にいれなければ。
「なにを迷っておいでですか?」
「いや…みんなまだそんなに強くないし、万が一にも折れたらイヤだなと思って」
迷ってたんじゃない。何事にも動じない鋼の精神を身に付けようと思ってたんだ。なんて情けない言葉は飲み込んで、当たり障りない言い訳を口にした。
「ご安心ください。演練は通常の戦場と異なりますので、刀剣が折れることはございません」
曰く、どうやら私に割り振られた陣地に戻れば、演練で負ったケガやらなんやらはなかったことになるらしい。しかも経験値は確実に積まれると言う有難い設定。ついでに、こちらと同レベル程度の審神者さんとあたるようになってるから、練度の差もそれほど大きくないらしく、なにか新しい戦術の参考にもなるとのこと。
それなら、胸を借りるつもりで挑むのもいいかもしれない。
「じゃあ、行ってみようかな」
そうは言っても、実際戦うのは刀剣のみんなだ。元々刀だから、きっと演練の話に嫌な顔はしないだろう。もし拒否されたら行かなければいい。そもそも戻ってきた時にどうしたいか聞いてみよう。
そうだ、そうすればいい。
演練は大きく昼の部と夜の部、二つの時間でに別れているらしい。午前はすでに出陣してもらってるから、午後から参加する方向で話を進めていく。
「そこって暗い?」
「いえ、模擬戦場の為、常に昼間を想定して作られております」
「そっか」
なら問題ないかな。
ほら、暗いなら行灯とか提灯とか必要でしょう?万が一それを持って行って、火事にでもなったら大変だからね。本丸にガスは入れたんだけどね、まだ電気引いてないから日が暮れると結構暗いんだよ。月が出てると逆にすごく明るいよ。
「この返事って後でしてもいい?」
「勿論です。お決まりになりましたらお呼びください」
今日の出陣先は最近開拓したところ。練度は心配するほど低くないのでケガをする可能性が低いうえに、さほど時間もかからず戻ってくるはずだ。
そう思ってご飯の準備をしながら帰って来たみんなに演練の話をしたら、二つ返事どころかすぐ行こうの勢いで返事をされた。しかし今から昼の部に向かっても時間が中途半端になるから、ご飯を食べて夕方まで内番を回してもらって、それから夜の部に向かうことでなんとか落ち着いてもらった。
やっぱり、みんな本性が刀だから戦うのがお好きなのね。なんて考えたりもしたけど、こうも乗り気過ぎるのも複雑な気持ちだ。
「主君、演練とはどのような場所で行うのかご存じなのですか?」
「詳しくは聞いてないけど、昼を想定した模擬戦場だって言ってたよ」
お昼を済ませてから、演練に出かけるためにも午前の戦歴をまとめていたら、前田が息抜きにとお茶を持ってきてくれた。お茶請けは黒糖のかりん糖。
控えめに言って最高か。
「開始が夕方からだからまだしばらく時間あるけど、ご飯食べてから行く?」
「いえ。食事をしてすぐだと体が重くなる可能性がありますので、戻ってからがよろしいかと思います」
「じゃあ帰ってからお夕飯だね」
どうしようかな。演練の成績がよければもうお祝いだよね。肉焼く?肉だけを焼いて出すなんてしたことないから驚くかな?ああ、でも毎回成績がよかったらその度にお祝いするのはちょっと無理だな。代わり映えしないけど、演練で一番誉取った人の食べたいものを作ってあげようかな。
みんなが好きなものって結構片寄ってるんだよね。割合だし巻き玉子と肉じゃが率が高い。穴でオムライスをリクエストされるかもしれない。そろそろ卵買っておかないとダメかな…
「あの、主君…」
「ん?どうかした?」
「手が止まっていらっしゃいます」
「ああ!ごめん!」
晩ご飯のことを考えてたら前田から控えめな突っ込みをいただいた。
いけないいけない。早く終わらせて下拵えしないといけないのに、つい考えるのに夢中になって手が止まってたらしい。
「そう言えば、みんなに相談するからって言って、まだこんのすけに演練行くって返事してないんだ。だから夜の部に出ますって伝えてもらってもいい?」
「承りました!」
そう言って元気にかけていく前田を見送って、今度こそ筆を進めるために書類に向き合った。
▽ ▽ ▽
「マジか…」
ところ変わって演練会場。せっかくだから、なにか戦略なりなんなり盗んで帰ってやろうと思いながら相手方を見て、正直愕然とした。
見たこともない刀剣男士がたくさんいて、彼らを従える審神者さん達は間違いなく先輩なのだろう。
一番最初の相手に割り振られた刀剣のレベルだけを見ると、審神者歴は確かに私と大差ないのだろう。しかし相手の部隊は打刀と短刀が三振りづつという、戦力に申し分ない部隊だった。
うち一振りは初期刀だとしても、あちらさんは私と違って鍛刀の才があるんだろう。羨ましい限りだ。
「なに、大将が心配することはない」
「必ず勝利して参りましょう」
悔しさとも嫉妬ともわからない気持ちが顔に出ていたのか、両隣を固める粟田口が二人揃って励ましてくれた。私の前を歩く今剣と小夜も、落ち着きなく辺りを見回していた視線を私に投げていた。そんな短刀達を見て、お母さんが不安だと子供が泣き出すと言う話を思いだした。
「くれぐれもケガはしないでね」
そんな私は、不安なんてはじめから感じていないようにいつもと同じ言葉を繰り返す。これが到底無理なことだとわかってるけど、言わないといられない。それに、こう言っておけば少しはケガをしないようにしてくれるかなって期待もある。
「あるじさまこそ、きをつけてくださいね」
「ここにいる限り私は大丈夫だよ」
「しかし、万が一がないとも限りません」
「いざって時は、自分の身を第一に考えて」
背の低い三人が見上げながら代わる代わる口にするのは、私のことばかりで苦笑いがこぼれた。
いや、嬉しいしかわいいんだけどね、これから戦うのはみんななんだよ。だから私より、自分の心配をしてほしいのが本音。
「ここでしかみんなの戦ってるところ見れないんだから、ちゃんと見せてね」
この子達の主を務めているとは言え、私にできることはほとんどない。ケガをすれば直してあげられるけど、それ以外はただ戦場に送り出してみんなが帰ってくるのを待ってるだけ。それになにも感じないかと言われれば、否としか言いようがない。しかも演練で受けた傷は政府が直してくれると言うんだから、文字通り私の出番なんて今回はないだろう。
「ばんば、よろしくね」
「あんたの命令だからな」
「よし。みんな行ってらっしゃい!」
だけどそんなことはどうだっていい。みんなが強いことは知ってるんだから、私は信じて待ってればいい。
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