(落つる花)
「昨日の報告書を拝見致しました」
相変わらずそのかわいらしい見た目にそぐわない堅苦しい言葉を紡ぐこんのすけに、耳を傾けることしばらく。昨日の一戦についてわかったことがある。
今回遭遇したのは、同じ時代に長く留まると現れる検非違使と言う敵らしい。聞くところによると、歴史を守ると言う点ではこちらと同じだが、志が違うらしく敵と判断したら相手が人であろうとも構わず攻撃するとのこと。
「基本的に遭遇することはそう多くないのですが、こちらの部隊に属する最高練度の刀剣男士より強い部隊を率いてくる為、熟練の審神者様でも苦戦を強いられる事があるそうです」
「では、すでに観測済みの相手だったんですね」
「はい」
今回の部隊で最高練度を誇るのはばんば、次いで鳴狐。逆に一番練度が低いのはうちに来たばかりのらんちゃんと長谷部。こんのすけの言うとおりであれば、二人は重傷になりやすい状況だったわけだ。
「中でも、刀装を多く装備できない短刀は手酷くやられる傾向が強いですね」
「そう…」
「まさか菱様がこんなにも早く検非違使に遭遇されるとは思わず、説明を怠ったわたくしにも非がございます。大変申し訳ございません」
こんのすけが何を言おうと、私の知識不足で二人に辛い思いをさせてしまったことにかわりない。
そもそも、本当は説明されていたのに私が忘れているだけの可能性すらある。それとも、素直なこんのすけの事だから説明したのであればその旨を言ってくるだろうか。
「驚きはしましたが、みんな戻ってきてくれたのであまり気にしないでください」
しかし、敵もそう優しくない。一度目を付けられてしまえば、今後も繰り返し出くわす事になるだろう。とりあえずは時間を空けて、相手がどう動くか様子見かな。
「今後その時代に出陣する際は、くれぐれもお気をつけください」
「それはもちろん」
もう少し二人には安全圏で経験を積んでほしかったけど、そうも言っていられないか。これからどう進めていくか考えないと。
そのためにも情報が必要なわけなんだけど…
「ねぇこんのすけ」
「なんでしょう」
「もう少し検非違使について情報がほしいんだけど、今日の時間は大丈夫?」
「はい!そのように仰られる可能性は十二分にございましたので、あらかじめ余裕を作っておりました」
「じゃあお昼にしよう。おあげさん入れたきつねうどん」
「よ、よろしいのですか!?」
「食べながら話したらいけない仕事って訳じゃないんでしょう?それならこれも仕事のうちよ」
「菱様って、意外とズル賢いですね」
「これでも社会人やってたからね」
実際は落ち着いて食べる時間もなくて、仕方なく仕事の片手間に食べてたってだけなんだけどね。
「主、食事の準備はできております」
「ありがとう長谷部」
「もったいないお言葉」
台所に向かえば、ジャージに割烹着がなぜか様になってる長谷部が相変わらずの主をダメにする刀っぷりを発揮してる。紫蘇、茗荷、葱と言った薬味はもちろん、長谷部がどうしてもと言うから任せたかき揚げも、揚げ物バットの上でいくつも美味しそうに身を寄せている。うどんは私の話が終わる目処が立たなかったからか、お湯だけがしっかり沸かされてる。
今回は初めて重傷の状態で戻ったことの巻き返しも兼ねているのか、いつも以上に張り切ってるところがあるんだろう。
「じゃあ後は私に任せて」
「いえ、最後までお側で手伝わせていただきます」
…まぁいいか。運ぶのも一人じゃムリだからな。それに、長谷部をみんなの所に戻すことに体力を使う意味もない。
それなら最後まで付き合ってもらおうと、長谷部を横目にうどんをどかどか茹でていった。食べ盛りの男子が多いとうどんの量も半端ないから、なんとなく気持ち悪い絵面ですらある。その傍らでこんのすけの好みを聞きつつ油揚げの用意も進める。
「そう言えば気になってたんだけど」
「なんですか?」
「こんのすけはうちのこんのすけなの?」
「どう言う意味でしょうか」
いろいろ情報収集してるとその中に、こんのすけは各本丸に固定で派遣されてるってのかあったんだよね。個体差があるから、どこのこんのすけか事前に知っていれば判断できることもあるらしい。
だからどうなんだろうと思って聞いてみたんだけど…なんか、うちのこんのすけ性格キツいよね?
「深い意味はないんだけど、各本丸専属のこんのすけって話を小耳に挟みまして…」
「そう言うことですか。現在のこんのすけは菱様の本丸専属ですが、先日までは以前受け持っていた本丸の後処理をしておりました」
「ふーん…こんのすけがどういう、こう…人事になってるのかわかんないけど、左遷されることもあるの?」
「厳密には左遷とは異なりますが、まぁそんなところです。滅多にあることではありませんよ」
「じゃあ忙しかったんじゃない?」
「いえ、これも仕事なので」
以前受け持っていた本丸と言うのがどうなったのか気になるところだけど、迂闊に掘り下げる訳にもいかない。引き継ぎではなく、後処理と言ったのも気になる。しかし、仕事に守秘義務はつきもの。好奇心でいらぬ不利益を被る必要もないので、こちらも知らぬ存ぜぬでいさせてもらおう。
…まさかとは思うけど、試されてないよね?
「じゃあちょっと休憩がてらご飯にしよう」
「仕事なんじゃないんですか?」
「もー。こんのすけ細かい」
私が茹で上がったうどんを適当に盛り付けて汁を入れてかき揚げを乗せると、それをすかさず長谷部が長手盆に乗せていく。言葉はないけど、無駄のない連携だ。
痒いところに手が届くと言うか、長谷部のこういうところが主をダメにするんだよ。なんて心の中で勝手なことを言っておく。
「長谷部、残りは私が持っていくから、先にそれ運んじゃって。伸びたらダメだから、先に食べてていいよ」
「では他の運び手を寄越しましょう」
「いや、いいから」
「一度失礼します」
長谷部は私の話を聞かない。私のために動いてくれるのはいいんだけど、話は聞こうぜ。
「こんのすけ、うどん自体はいらなかったとかない?」
「是非いただきます!」
最後のうどんにおあげを乗せる。こんのすけは元気なお返事でよろしい。
好みで使ってもらおうと丸盆に薬味や調味料を乗せると、こんのすけが運び手に立候補してくれたが、顔を見せたらんちゃんに奪われてた。
「あるじさん、ボクそっち運びたいんだけど」
「早く持っていかないとうどん伸びちゃうから今日はそっちね」
「むー」
「はーい!まだうどんない人ー!」
うどんを抱えて広間に入れば案の定長谷部がやいやい言い始めたけど、主命の一言で黙らせた。別に好きで主命なんて言ってないからね。うどんくらい私に運ばせろって話だ。
その隙にうどんを配って手を合わせる。そこからはやれ七味だ、生姜だわさびだと賑やかになる。楽しいお食事タイムは賑やかでよい。
「で、さっきの続きなんだけど」
サクサクとかき揚げを咀嚼して忘れないうちにとこんのすけに話を振ると、それぞれ話していた声が消える。
さっきの続きと言っても、その時私とこんのすけしかいなかったからみんなはなんのことか全くわからないだろう。だからこその沈黙なのか、それとも単純に話の邪魔にならないようにしただけなのか。私はどっちだっていいけどね。
「はい。検非違使の簡単な説明は先ほど終えたので、ここからは補足となります。一度検非違使が出現しますと、以降その時代にランダムで出現することが確認されております」
「じゃあ毎回必ず会うわけでもないの?」
「はい」
だったら絶対にそこに行けないってわけでもないか。でも万が一の為にも部隊編成の見直しと、練度調整しないといけないな。
「先程お伝えしました通り、検非違使はこちらの部隊に組まれている最高練度の刀剣男士に合わせた部隊を送り込んできます。その為苦戦を強いられますが、彼らを倒すことによってのみ入手可能な刀剣男士もおります」
「え、なにそれ」
「現在検非違使から入手確認されている刀剣は、髭切、膝丸、長曽祢虎徹、浦島虎徹の四振りとなります」
おいおい、そんなに捕らわれてるのかよ。政府どうした、私も頑張るから政府も頑張ろうぜ。
「それってみんな兄弟?」
「虎徹は聞いてすぐにお分かりいただけたかと思いますが、お察しの通り髭切と膝丸も所謂兄弟刀にあたります」
じゃあ一緒にお迎えしてあげないと可哀想だよなぁ。でもうちのみんなじゃあまだ返り討ちにあいそうだから、すぐにお迎えするのはムリか。
「検非違使ってすぐに対処しないとダメ?」
「いえ、他の審神者様方も討伐に動いております上に、菱様はこちらの想定よりも早く遭遇しておりますので、十分に練度を積んでから挑んで頂いても遅くないと思います」
それなら急がなくてもいいや。先輩方には申し訳ないけど、うちにいるみんなの兄弟ってわけではなさそうだし、ゆっくり対処させていただこう。
「政府としては?」
「討伐の為動いて頂く方が良いのですが、なにぶん何度撃退しても繰り返し出現することが確認されております。故に、現場を取り仕切る審神者様方の判断に委ねているのが現状です」
政府が確認してるのに判断を委ねるってことは、検非違使はそれほど悪いやつらではないってこと?向こうも歴史改変を止めるために動いてるんだから利害は一致してる?でもこっちに牙を剥くこともある。その判断は…歴史改変に繋がると判断されたら?
「わかった。折を見て検非違使とまた戦ってみます」
「どうか無理はなさらないでください」
同じ目的なら直接話を聞ければいいんだけど、聞いた限りだとそんなに優しい相手でもないだろう。そもそも最初から話し合いができていたなら、すでに協力関係になっていたに違いない。
「検非違使についての情報は政府からもらえる?」
「もちろんです!既に政府が入手済みの情報は、随時お伝えして参ります!」
「じゃあ必要になったらまた聞くね」
汁でくたくたになったかき揚げを食べながら、検非違使について考えるのは一度置いておくことにした。
「主」
「今回のことは気にしなくていいよ、長谷部。私の確認不足もあったから」
「でも、」
「らんちゃんも。情報は手に入ったし、次は勝てるように作戦を立てよう」
いつまでも負けっぱなしは性に合わない。情報さえあればこっちのもんだ。何度も同じようにやられてなるものか。いずれ目にもの見せてやるから、覚悟しておくといいさ。
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