(因縁の相手)
戦力増強を図るにあたり、どうしたらいいかとこの間こんのすけに相談したら、とりあえず鍛刀しろと言われた。短刀が多く来るのは運もあるけど、そもそも資材の量が足りてない可能性があるとも言われた。
打撃力のある打刀以上を狙うなら、どのくらいの量がいいか聞いた上で、本日は鍛刀を行います。
「今日はどのあたり狙うの?」
今日は加州と一緒にお留守番。縁のある大和くんと別行動になるのを一瞬気にしたんだけど、本人達は清々すると言わんばかりにそれぞれ準備を始めたからちょっとびっくりした。
それも私が知らなかっただけで、それぞれで好きなことをしてることが結構多いらしいけど。
「打刀以上。それ以上の欲は出しません」
「ふーん。太刀とか大太刀は狙わないの?」
「狙いたいのは山々だけど、資材がなくなりすぎるのも不安だからね」
もちろん太刀を含む打撃力のある刀は欲しい。でもここで欲を出すと、存在すら定かではない物欲センサーで誰も来ない気がする。だから欲は出さないと心に決めてるし、どんな刀剣があるかも調べてない。
「資材の量は決めてるの?」
「うん」
「じゃあ手伝うよ」
加州と一緒に、いつもよりずっと多いけど、それほど多すぎない資材を二振り分用意した。残り資材がかなり少なくなるけど、みんなのケガを減らす為だ。事前投資は惜しんだらダメだってどっかで言ってた。
「何卒、よろしくお願いします…!」
柏手を一つ鳴らし、呼び出した式神に真剣にお願いしてみた。果たして、これにどれ程の意味が生まれるのかわからないけど、なにもしないよりいいだろう。要は気持ちの問題だ。
頭の中に出てきた鍛刀時間は、90分と180分。今までの鍛刀時間で一番長い時間が出た気がする。
「どう?いいの来そう?」
「わかんないけど、たぶん打刀以上は来てくれるかな」
「ならよかったじゃん」
どんな人が来てくれるんだろう。そろそろ大所帯になってきたから、お兄ちゃんポジションの人がいいかな。あ、でも長谷部みたいなのは困る。適度な人。あと、戦闘狂じゃなければ助かる。
あ!ダメだ!これ物欲センサーに引っ掛かりそう!やめだやめだ!なにも考えるな!
「よし、仕事しよう」
「ちょっと休んだら?」
「みんなが戻って来たとき、ちゃんとお出迎えしたいからねー」
「ホント真面目だよねぇ」
「それに、鍛刀が終わったら顕現もしてあげないと!」
それまでに仕事は減らしておくに越したことはない。そう思って意気込んだところ、加州が思い出したように言葉を放った。
「え?なんて?」
「だーかーら、厨番も内番に組み込もうって言ったの」
「でもまだ頑張れるし」
「今から俺達に練習させないでどうするの。いきなり吉野と同じレベルで用意するなんて無理だよ?」
言われてみればそうだ。たまに手伝ってもらってたとは言え、それはネギを味噌汁に入れたり盛り付けてもらったりと言う簡単なものしかやってもらった事がない。包丁の持ち方から火加減諸々のタイミング含む感覚は早くに覚えてもらった方がいいだろう。それからみんなに順番に覚えてもらって、やってみてもどうしても合わない人はムリに頑張ってもらわなくてもいいかな。
「えー…じゃあ今日からやる?」
「なら俺が最初ね」
「大丈夫?」
「他のやつらより手は空いてるよ」
「確かに、まだ馬がいないから掃除しかできないもんねぇ」
「そ。だからいいでしょ?」
正直、そろそろひとりで用意するのが大変かなと思い始めていた。できなくはないけど、人数が増えることと比例するように時間がかかるようになって、このままでは仕事に支障が出るのも時間の問題だった。だから手伝ってもらえるのは大変有難い。有難いけど、彼らにこんなことをお願いしてもいいのか。
「別に俺達が食べるものを拵えるんだから、誰も文句言わないよ。むしろ吉野が無理する方がみんな怒るよ」
そんな私の心配なんてお見通しだと言わんばかりに加州が口を開いた。「そもそも内番の畑仕事だって、元々は吉野の為なんだからね」なんて言われてしまえば、もうなにも言えない。
「あ、だからって変に考えないでよね。汚れるのは好きじゃないけど、畑仕事頑張れば美味しいご飯が食べられるし」
たしかに男士は例え食べなくても死ぬことはない。だからと言って食べさせないという選択肢は私にない。
それに、過去台所に立ってくれたみんなは楽しそうだった。内番だってなんだかんだ楽しそうにこなしてくれてる。
「じゃあお願いしようかな」
でもやりたくない人もいるだろうから、そこは見極めていかないとなぁ。とりあえず一回やってもらって様子見かな。
「今日の昼ご飯なに?」
「しょうが焼きだよー」
みんなの時代では三食食べる習慣はなかっただろうけど、私が食べるからすっかりその習慣が身に付いている。その分出陣も遠征も内番もしっかりこなしてくれるので、なんでもいいかな。
「それって俺にも作れる?」
「もちろん。合わせ調味料に浸けとくだけだから簡単だよ」
ちゃんと作ろうとしたら色々工程があるんだろうけど、あいにく私は時短重視だったからね。あとはー…きんぴら食べたいな。
加州にしょうが焼きの仕込みを教えながら、私はゴボウをささがきにしていく。元々ネイルをするくらい手先が器用なものだから、料理も思った以上にスムーズに進めてくれてる。
「本当にこれだけでいいの?」
「うん」
「じゃあそっち手伝う」
「本当?じゃあニンジン千切りにしてもらえる?」
皮剥きから包丁の握り方、切り方とやり方を一から教えながらではあるんだけど、同時進行できるのすっごい楽!ゴボウ多めに用意して、晩ご飯のおかずにも応用しちゃおう。
「ねぇ吉野」
「んー?」
「これ、結構楽しいね」
「ならよかった」
「吉野と一緒ならまたやってもいいかなー」
「えー?他の人ともやってよ」
そうして加州と話しながら仕込みを続けることしばらく。
「よーし、そろそろお迎えに行こうか」
「顕現するの?」
「うん。本丸の案内よろしくね」
「任せてよっ」
鍛刀部屋には打刀と太刀が一振りずつ。打刀の方は見たことある気がする。勘違いかもしれないけど。
「新しいお仲間かー」
二振りまとめて顕現するつもりだけど、大丈夫かな?私まだ太刀顕現したことないよね?最大数顕現よりはマシか。今度こそ倒れないといいなと小さく深呼吸して、いつものように手をかざした。
「わしは陸奥守吉行じゃ。せっかくこがなところに来たがやき、世界を掴むぜよ!」
「僕は、燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ。……うーん、やっぱり格好つかないな」
酷い貧血みたいになってるけど、なんとか倒れはしなかった。これならすぐに動けそうだ。ちゃんと進歩してるぞ私。この調子で余裕で顕現できるようになるんだ。
「大丈夫?」
「ヨユーです」
やんちゃそうな陸奥守としっかりしてそうな燭台切さんが困惑する前に、私は目を合わせるなり返事をするなりしないといけない。
ついでに、なんか陸奥守って言葉に聞き覚えがあるようなないような…いや、考えるのは後だ。挨拶と、立ち上がることに全神経を使うんだ。
「菱の本丸を治める吉野と申します。至らぬ点もありますが、よろしくお願い致します」
「えっと、顕現したばかりで違ったら申し訳ないんだけど、あまり調子がよくないんじゃない?」
「そりゃーいかんぞね。無理せんで休んだ方がいいぜよ」
「いや!大丈夫です!でもあの、やることがあるので、加州に本丸の事を聞いてください」
「わかった」
「加州?おんし新撰組の加州かや?いやー、まっこと懐かしいのー!」
なんか、加州と知り合いらしい。加州はきゃんきゃん吠えてるけど、そんなことをものともしない陸奥守がグイグイ話しかけてる。
なんか、加州の新しい一面を見た気持ち。
「吉野!俺こいつだけは無理!」
加州がそんなこと言うなんて珍しい。そう思って詳しく聞いたら、陸奥守はかつて敵対していた刀だとか。
なんか聞き覚えがあると思ったけど、あれだ。陸奥守って加州と一緒に初期刀の選択肢にいたわ。その時加州は沖田の、陸奥守は坂本の刀だったって聞いたわ。かつての主が対立してたんだから、そりゃあ拒絶したくもなるか。
でもね、
「加州の考え方って、陸奥守と相性良さそうなんだけどなぁ」
「どの辺りが!?」
「流行に敏感なところ?」
「なにそれ」
「加州は新しいものを拒絶しないで考えた上で受け入れてくれるでしょ?維新の刀だった陸奥守も新しいものを受け入れてくれるだろうし」
「それでも一緒にやっていけるかは別!」
そうだよね。かつての持ち主の趣味趣向を色濃く受け継いでる刀はそうなるよね。
「でも私としてはできたら仲良くしてほしいなぁ。今は二人とも私の刀だし」
こんな言い方はズルいかな。愛されたがりの加州にこんなこと言ったら、回答なんてひとつしか残されてないようなものだから。
「…吉野がそう言うなら」
ほらね。顕現してからそれほど時間は経ってないけど、加州だったらそう言うしかない。
「でもケンカするなって事じゃないからね。ちゃんと言いたいこと言って、お互いの気持ちを知っていくんだよ」
「わかったよ」
「じゃあやりづらいかもしれないけど、案内よろしくね」
「はーい」
なんかめちゃくちゃ言い合いしてるけど、なんとか案内はしてくれそう。顕現していきなり仲裁してる燭台切さんには申し訳ないけど、そのままなんとか頑張って本丸のこと聞いてください。後で文句は聞きますので。
私は、もう一人の沖田刀にどうやったら仲良くなってもらえるか頭を悩ませる事にしよう。
back