(モノである事)
みんなが出払ったタイミングで、私はついに決行することにしました。
それがここ。鏡や剣といった、所謂三種の神器が祀られている部屋の掃除だ。
この部屋の作りや付喪神や巫女服なところから察するに、祈祷とかする部屋なんだと思うけど、一般人の私には宝の持ち腐れでしかない。だからといって全くの手付かずも怖いので、来たるべき時の為にせめて掃き清めて管理しようと思った次第です。
掃除するにはジャージとか動きやすい服がいいんだけどさ、着の身着のまま(と言うか寝て起きたらここにいたから)服なんてパジャマの他には用意されてた巫女服と着物と寝巻きしかないんだよね。仕方なくパジャマでやってるけど、袖の隙間とかから埃が入ってきてる気がする…みんなが戻るより早く終わらせてお風呂入りたい。
そうしてハタキをかけることしばらく。鏡の曇りがものすごく気になる。とりあえず布巾で磨いてみたけどなかなか綺麗にならない。しかもめちゃくちゃ重い。
なにこれ。こう言うものなの?
「あ、いたいた」
「うひょあ!?」
いつの間に時間が経っていたのか、後ろの扉を振り返ると大和くんが顔を覗かせていた。
マジでびっくりした。本気で心臓吐くかと思った。リアルにちょっと跳ねたよ。
「お、おかえり、大和くん…」
「ただいま。簡単な報告してもいい?」
「うん。お願いします」
「負傷者なし、短刀の刀装が破損。入手した資材は今乱が運んでるよ。報告書は後で書いて持っていくね」
「ありがとう」
ここに入ったことがない大和くんは興味があるのか、室内を見回しながら足を踏み入れてきた。
「ここ、使ってるの?」
「まだ使ったことないんだけど、いざ使うときに汚れてるのも嫌だから掃除してたの」
「ふーん」
見慣れないのか、興味深そうに見てるけど、まだそんなに掃除進んでないから見られると恥ずかしい。
うっかり鏡磨きに真剣になるんじゃなかった。
「それってそんなに磨くものなの?」
「へ?」
指差されたのは、持ったままになっている鏡。ご丁寧に薄汚れた布まで持っているのだから、今の今まで磨いていた事は一目瞭然だろう。
「わかんないけど、曇ってたから磨いてたんだぁ」
「沖田くん達が毎日手を合わせてた神棚にもそんな感じのがあったけど、たぶんそれ以上変わらないと思うよ」
「え」
じゃあなんだ、私はずっと無駄なことをしていたって言うのか?無駄だとわかってたら他の掃除もしたかったのに…
そう思ったところで時間が戻るわけもない。
「真面目なところは主の良いところだと思うけど、たまには誰かに頼った方がいいんじゃない?」
「いまだって充分助けてもらってるのにこれ以上なんて、それこそバチが当たるよ」
これは私にとって当たり前の考え方だった。何故なら彼らは【神様】だから。
でも、どうやらそれは違ったらしい。
「そう言うところ、悪いとは言わないけど、あんまり好きじゃない」
そう言って姿を消した大和くんにとって、この言葉にはそれ以上の意味なんてきっとないんだと思う。だけど私は、動きだけじゃなく思考までもが停止するほど衝撃的だった。
元々は人に頼るのは得意じゃなかったけど、就職してからは明らかに苦手になった。
頼るどころか、質問すら許されない様な職場。手段やツールを問えば、自力で調べろ考えろと言われる。言われた通り自力で調べて熟せば、やり方が違うと言われる。独自ツールで作業効率を上げればサボりと言われる。
非効率な方法で無駄な時間をかけて自力で仕事をする方が文句も少なく楽だと、私は学習してしまった。そんな環境に長期間身を置いていたら、他人が苦手になった。
「あ、そうか」
彼等は、あくまで【物】なんだ。それぞれ感情があって、人間と同じ活動をする、更に一番初めに説明された【付喪神】に引きずられて錯覚してた。付喪神は物に宿る概念。人どころか神様でもない。だから【使われる】と言うことに多少なりとも執着がある。それなのに、私は最低限【使わない】ようにしていた。
「そりゃあ納得いかないか」
これが正解かどうかはわからないが「はい、わかりました」と、いきなり物として扱うのは難しい。彼等が人間とは異なる造りや考えだと気付いたところで、見た目は私と同じ人間なんだから。
それがわかったところで、今すぐ変えられるかどうかは違うんだよなぁ。考え方を変えるって言うのは、言う程簡単なものじゃない。考え方とは、その人の人生そのものだから。
でもここではそんなことも言ってられない。当たり前だけど、人間以外と人間的な生活をするなんて今までなかったからね!
これから私の価値観を変えたり、みんなと考え方のすり合わせをしていけばいい。その為にはまず話し合いをしよう。同じ言語が通じて意思疎通ができるんだから、それくらいならできるでしょ。
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