(二人目のお迎え)


私が反論したところでばんばが手を離してくれることもなく、恥ずかしさよりも最早屈辱に近い気持ちを抱えて本丸の外れに位置する鍛刀部屋なる場所にやってきました。

部屋と言うよりも、鍛冶場って感じかな。

「資材は最低限お持ちしておきましたので、次からは必要分をご用意ください」
「はい」

刀の材料と言えば、鉄みたいな金属にそれを溶かすための熱と、冷やすための水と、後は…砥石?どっかから集めないといけないのか。
刀を新しく作れば戦力も増えるけど、刀を作るのも一苦労しそうだな。

「ではこちらから式神を取り出し、審神者様の霊力を込めてください」
「え、なにそれ」

小さなチェストから紙の人型を一枚取り出したけど…霊力を込めるってなに?

「先程の手入れの時は如何されたのですか?」
「私がやったけど…」
「こちらと同じものが部屋にあったかと思うのですが」
「え」

全然思い出せない。
だってばんばがケガしてたから、とりあえず治さなきゃと思ってパニックになってたし。

「ばんば、あった?」
「あった」

聞いたらまさかの肯定でびっくりした。
もっと早く教えてよ。いや、私が忘れてただけの可能性がものすごく高いけど。

「手入れ部屋には手入れに特化した式神がおりますので、次回以降は是非お使いください」

ええそうさせていただきます。私がやるより安全だろうからね。

そんなことより霊力を込めるってなんだ?お願いすればいいのか?ばんばの時みたいな感じでいいのか?でも私、ばんばの時は良くも悪くも適当だったんだよね。
今思えば不用意すぎるけど、いくつか鞘から抜いて見て「お、なんか綺麗っぽいし一番好みだからこれにしよー」って思ったらできちゃったんだもん。まさかその時はこれから継続して神様を降ろして、更にこんな大変な事をお願いする事になるだなんて思ってなかったよね。

ちょっとだけどうするか考えた結果。私は人型を両手に挟んで、ちょっと真面目にナムナムした。
この式神にお願いすることはたった一つ。ばんばがケガをしないように、これからお迎えするみんなを助けられるように。私にできる数少ないことの一つであるこの作業で、少しでもみんなを助けられるように。

強く強くお祈りして手を開くと、人型はひらりと舞い降りて、20cmくらいの立体的な人形みたいなものになった。

「初めてにも関わらず素晴らしい!」

基準はわからないけど、どうやら私はすごいことをしたらしい。きっとお世辞だろうから、そのままスルーした。
刀を作りたいとお願いすると、胸を叩いてすぐに作業に取りかかってくれた。元が紙だから、喋るということはできないんだろう。一人でえっちらおっちら作業するのを見て、慌ててもう一人作り出してお手伝いに向かってもらった。

あんな小さいのがばんばみたいな刀を作るなんて、にわかには信じがたい。でも作ってしまうんだろうなと漠然と思った。

「20分…?」

ふと頭の中に浮かんだ時間をそのまま呟いてしまった。なんだろうと悩むまでもなく、こんのすけから刀ができるまでの時間だと教えてもらった。どうやら私の霊力を元に作ってる式神だから、制作にかかる時間を私の頭に直接教えてくれるらしい。
それなら喋れるようにしてくれたらよかったんじゃないかな?ベースは紙だからムリか。

「今度の刀は、写しじゃないのか?」
「わかんない。でもここで打ってるから写しではないんじゃない?」

刀の完成を待とうとその場で腰を下ろしたけど、ずっと変な緊張をしてたからか妙な眠気がある。どんなに寝ないようにと思っても、目の前でちょこまかと動く式神を見ているだけではうとうとしても仕方ないと思う。
だからばんば、お願いだから腕にぶつかるたびにびっくりしないで。ぶつかる事に関しては謝るから。

「刀剣の作成が完了しましたよ」

そうしているうちに刀が出来上がったらしい。
眠くてしょぼしょぼする目を擦って確認した刀は、ばんばに比べてずいぶん短い物だった。大体四分の一くらい?私でも扱えそうなくらいのサイズ。

「短刀ですね!短刀はかつて、守刀や懐刀として多く用いられておりました」

と言うことはお姫様とかそのお付きの人が使ってた刀かな。それなら小さくても納得。

「ささ、顕現させてみましょう」
「なにそれどうしたらいいの?」
「式神の時と同様、刀剣に霊力を込めてください」

またそれか!
さっきは紙だったけど、これは刀だから手に挟んでナムナムなんてできない。とりあえずいつかに見た魔法系ヒロインよろしく、刀の上に両手をかざしてお祈りすることにした。なんか、見られてるのがわかってるからすごく恥ずかしい。

この子もお願いすればいいのかな。さっきは式神だったから助けてほしいってお願したけど、刀相手ではそうもいかない。彼らを危険な戦場に送り出して、その度に傷付けるのが私の仕事になるんだから。好き好んでそんなことしないけど、戦ってもらうしか私には方法がない。だから、この戦が少しでも早く終わるように、力を貸してほしい。

「僕は小夜左文字。あなたは……誰かに復讐を望むのか……?」

そう強く思っていたら刀が光って、桜と共に笠を背負った男の子が出てきた。

「はじめまして。当本丸を取り仕切るさにわ、菱と申します…」

なんか…思ってたよりずっと小さい子なんだけど。

「おめでとうございます!」
「いや、え、ねぇこんのすけ大丈夫?こんなちっちゃい子も戦場に行くの?」
「見た目は子どもですが、彼も刀剣男士。どんなに新しい刀剣であっても、少なく見積もって菱様の20倍は生きているかと思います」

そうか。刀だったら見た目は小さくても私より遥かに年上だ。

「じゃあやっぱりもっと畏まった方がいいよね?神様だもんね?」
「先も言ったが、主であるあんたが俺達刀にへりくだってどうする」
「でも」
「主なら堂々としてろ」

ばんばに言われて納得してしまった。
確かに、大将が部下にへりくだっては隊としてままならない。それなら神様と人間じゃなくて、同僚くらいの距離感がいいな。お互い助け合うことになるんだし。
あと、上下関係めんどくさい。

「ええっと、小夜…?」
「あなたが僕の主?」
「はい。ここのさにわになったばかりでまだ不慣れだけど、これからよろしく」

そうして手を差し出すと、じっと手を見つめてから視線を私に合わせて「あなたは、何を求めるの?」なんて聞いてきた。
何をって…なんだろう。こんのすけ曰く「歴史を守る」為。うっかり歴史が変わったら、私もどうなるかわからないからそれは阻止したい。歴史を守る為には戦う為の戦力が必要。その為に小夜を呼んだんだけど、言うまでもなく私の望みとかじゃあない。

「復讐したい相手がいるの?」
「いないけど、小夜は誰か憎いの?」
「わからないけど、僕は誰かに復讐することしか覚えてない」

なんてことだ。見た目だけなんだけど、こんな子どもにそんなことを言わせるなんて嘆かわしい。私の中の全教育委員会が黙ってないぜ。

「復讐はしない。私は誰も憎んでないから」
「じゃあ、どうして僕を呼んだの」
「力を貸してほしいから?」

例え政府の望みであっても、それは巡りめぐって私の望みになる。ならば私の望みだということにしてもいいじゃない。

「私は、歴史を変えようと企む敵を倒したい」
「…わかった」

小夜は大人もびっくりするような殺伐としたことを言う子だけど、元々は優しい子なんだと思う。私が復讐を望むならそうしてくれるし、違うならそちらに力を貸してくれる。根が優しくないと、そんな風に無条件で手を貸したりできないだろう。
…まぁ、刀の時と同じと言われてしまえばそれまでなんだけど。

「すぐに倒した方がいい?」

事は一大事と言わんばかりに説明を急いだこんのすけを考えると、早めに進めた方がいいとは思うんだけど、このまま出陣させたら間違いなくまたケガするよね。

「こんのすけ」
「なんでしょう」
「このままだとやっぱりケガするよね」
「そうですね」
「鎧とかこう、防具ないの?」
「いらない」
「いらなくないから!」

小夜が言うには、鎧を着けるとその分体が重くなって動けなくなるからいらないらしい。
たしかに、体の小さい小夜に重い防具は邪魔になるだけかもしれない。なにも考えないでばんばを送り出した私に言える言葉ではないけど、そんな布だけの防御力低そうな格好の子どもをそんな簡単に送り出せない。

「菱様は心配性ですね」
「怪我なんて、いちいち気にするようなものでもないだろう」

うんうん考えてると、こんのすけの呆れたような声がした。しかもばんばまで気にしてないと言う。

「でもケガしたら痛いでしょ」

心配して何が悪い。ケガなんてどちらかと言うならしない方がいいんだから、心配しない方がおかしいでしょ。
そもそも、切り傷なんてどんな小さいものでも痛いって相場が決まってるんだから。刀傷なんて経験ないからわかんないけど、毎回あんなボロボロになってたら痛くない方がおかしい。

「この体は刀の手入れをすれば直る」
「そうなんだ」

ばんばの言葉に軽く返事をした小夜は、刀の手入れで体も治るなんて楽だとでも思ってそうだけど、これはそういう問題じゃない。
彼らを呼び出した私はここから動かないで、全部任せて戦場に送り出すんだから心配にもなる。手入れが必要ってことは刀も痛むわけで、そうなると体の方も痛んでおかしくない。なによりもケガをして帰ってくるのなんて私が見たくない。

「でもやっぱりケガはダメ」
「それなら刀装も作りましょう!」
「なにそれ」
「刀装とは鍛刀同様に資材を使い造り出し、刀剣に装備させる兵士のことです」

どうやらばんば達を守る方法があるらしい。それはすぐにでも取りかかりたいとこんのすけに聞いたら、それを作る場所はまた違うらしい。

もうダメだ。私は一人で元いた場所に戻れる自信がない。

「ばんば、帰りはよろしくね」

布をちょっと引っ張ったら跳ねる勢いでびっくりさせちゃったけど、私の言葉を理解して呆れた顔をされたのは解せない。
だってここ広いんだもん。

「こちらになります!」

次の平屋はほとんど隣にあった。この位置関係しか覚えられなさそうで不安なんだけど。

「こちらは時間がかからずに作成可能です」

また式神を使うんだろう。さっき見たのと同じチェストがある。

「資材の量はお好みで調節してください」

小夜を作ったときに要領を得たのか、さっきよりも簡単に式神を作れた。それから適当に材料を渡して、できたのが一つの玉。

「無事作成できたみたいですね」
「…なに、この…水晶?」

水晶かどうかはわからないけど、キラキラしてるしなんか綺麗だからその辺の石とは違うと思う。でもあの材料でなんでこんなのができたんだろう?

「この中に兵が入っております」
「これも式神なの?」
「そのようなものだと思ってくださって結構です」

ねぇ、こんのすけちょいちょい私のことバカにしてない?してるよね?
とにもかくにも、一個だけだと小夜の分が足りないからもう一個作らないと。

そうして出来た二つの水晶を二人に押し付けた。
小夜は素直に受け取ってくれたけど、ばんばはずっといらないと拒否をするから、私も半ば意地になって最終的にばんばに受け取らせた。

「これでケガしない?大丈夫?」
「全くしないのは無理だろう」
「小夜左文字も部隊編成に入れましょう」
「え!こんなちっちゃい子も?」
「僕は構わないよ…そこに、仇がいるのなら」
「いやいや!いないけど!」

どんなに危ないからと言っても、やる気のある子を閉じ込めるのも違うよね。そもそも元は刀、戦う本能みたいなものがきっとあるんだろう。

「それなら…」

ならば望むようにやらせてあげるのも子育てと言うものだろう。
いや、小夜は私の子どもじゃないし、神様だから見た目が子どもだとしても私よりずっと長く生きてるんだけど。

「ケガしたらすぐに帰ってくるんだよ?ばんばもムリしないでね」

そう言って送り出したのに、やっぱりケガをして帰って来た話はまた別の機会に。


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