(おとなしくお留守番)


この本丸とやらに来て二日。なんとかここでの生活にも慣れ始めようとしている。

「ケガしないようにねー」

そう言ったところで二人がケガをしないで帰ってきたことはない。戦場に向かってるんだから当たり前なんだけどね。
こうして出陣するばんばと小夜を見送ってから、私がすることは意外と多い。

まず日課。
怠けないようにか知らないけど、審神者には日課なるものが課せられてるらしい。こなさなくてもいいらしいけど、こんのすけ曰くそれらをこなすと報酬がもらえるらしいので、最初のうちはちゃんとこなすようにと言われた。日課には出陣回数の他に刀装や鍛刀、手入れなんかも含まれてる。それならなんとかできるかなと思ったけど、なにぶん新米できたてほやほやな本丸には資材が少ない。よって、毎日安定的にこなすにはまず貯蓄から始めないといけないと思い日課はあまり進んでいない。
ふっふ、おナメじゃないよ皆の衆。気付けば貯金が趣味だった私の人生、すぐにたらふく貯め込んでやるぜ。

次に家事全般。
当たり前なんだけど、ここに家事ができる人なんていないので、それらを私一人が請け負わないといけない。考えるまでもなく、最近初めて人の体を持って二本足で立った刀に教えてもいない炊事洗濯ができるわけがないよね。動くのもぎこちなかったからね。それはまったく構わないんだよ、炊事も洗濯も私は嫌いじゃない。それに戦に出てる人に家事までやれって、そりゃとんだ鬼だよ。

「あああもう!」

だけど、これだけは言わせてほしい。

「なんでこんなムダに広いんだよ!!」

私は掃除が究極に苦手だ。ついでに言うと、昔懐かし平屋造りの母屋と言えば聞こえはいいが、むちゃくちゃに広すぎて掃除スキル最底辺の私じゃあ掃除だけで一日つぶれるわ!なんなの?どんだけ大所帯になればいいの?最終的に五十くらい来るって言ってたよね?合宿でもするの?ぶっちゃけ現時点で私の心は軽く折れてますから!

なんて文句を言ったところで事態が好転することは微塵もない。そこで私が考えたのは人手を増やすこと。
もう長いこと、それこそ子どもの時からヘタを極めた掃除スキルは、今更どうこうしたところで付け焼き刃にもならないことはわかってる。例え片付いたとしてもその気力は三日と持たないだろうことも目に見えてる。そんな私が頑張っても意味なんてあるんだろうか。いや、多少はあるだろう。まったくないこともないってわかってる。だけど私が行動に移せないのは、一重にこの本丸に私しかいない事実が淋しいからだ。

そうなんです!バカにされようが誰になんと言われようが、私はただひたすらに淋しいんです!掃除がヘタなのは嘘じゃないけど、この広い母屋に今私しかいないって事実が淋しすぎるんだよ!
掃除の為にうろついてると本当になんの音もしなくて、嫌でもここにいるのが私一人であると痛感する。その度にまたばんば達がケガをするんじゃないかとか、もしかしたら二度と帰ってこないんじゃないかなんて思うと、淋しいどころじゃない不安に押し潰されそうになる。実はちょっと泣きそうになった。

そんな私の出来立て生湯葉メンタルのまま行き着いた思考は「それなら人を増やせばいい」と言う所。
この救いようのない短絡的思考で至った私の回答に従い、可及的速やかに二振り鍛刀することにした。目先の淋しさをまぎらわせるためではあるけど、日課をこなせるし戦力増加にもなって悪いことではないだろう。さんざん迷った私の目の前には偶然にも鍛刀部屋。いったい何を迷う必要があるだろうか。

早急に式神を二人呼び出して間髪いれずに「これで二人お迎えよろしく」と今あるありったけの資材を渡して依頼したからか、それとも私の霊力を元にしてるから突然鍛刀に至った理由がわかったのか。びっくりするほど急いで作業してくれてるのがわかる。
とりあえず急がなくて大丈夫だよと声をかけて鍛刀部屋を出たけど、きっと急いでくれるんだろうな。しゃべれないけど、すごくいい子達だ。

単純に人数が増えるから、今日の夜は朝までのご飯の量じゃ足りないだろう。そう思って迷いながらもなんとか台所までたどり着くと、大量のじゃがいもとニンジン、玉ねぎを用意した。
刀剣男士なんて言うくらいだから、きっとこれから来るのはみんな男の子だろう。それならたくさん食べるだろうと思い、どんな人が来てもいいようにと作ってたら、量が給食レベルになっててちょっと笑った。比較的最近できた料理ではあるらしいけど、いきなり洋食出すよりはいいよね。そう思って今日の晩ご飯は肉じゃがに決定しました。

もくもくと材料を切っていた時、ふと誰かに呼ばれた感じがして火を止めた。
呼ばれているからか、台所に向かう時と違って迷うことなく鍛刀部屋に着くと、式神二人がとても嬉しそうに二振りの刀を指差した。

「ありがとう」

刀のサイズ的には小夜と同じくらいだから、きっとこれらも短刀なんだろう。
傍から見たらちょっと雑に見えるかもしれないけど、新しい刀に待ちきれない私はそれぞれに片手ずつかざして、必死にお願いした。

ワガママは言わない。戦的には戦力になる人がいいんだろうけど、今は私の淋しさをまぎらわせてくれる人なら誰でもいい。怖くない人ならなんでもいい。
そうして必死にお願いしたら、一瞬光って衣擦れの音が聞こえた。

「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」
「よお大将。俺っち、薬研藤四郎だ。兄弟ともども、よろしく頼むぜ」

目を開ければ二人の男の子。どうやら今回は兄弟揃って現れてくれたらしい。茶色のおかっぱが可愛らしい礼儀正しい子と、ちょっと儚げな見た目なのに声は低いし口調もとんでもなく男前な子。タイプは若干違うけど、どちらもしっかり者のお兄ちゃん系とみた。

「はじめまして。当本丸を取り仕切る審神者、菱と申します」

もしかして、小夜の時も二振り一緒に造れば兄弟で来てくれたのかな。それなら次からは是非二振りずつ作ろう。寂しい思いはさせたらいけないからね。

「堅苦しいのあんまり得意じゃなし、前に否定されちゃったから早速崩しちゃうけど、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、主君のお力になれるよう尽力致します」

前田くんは真面目だなぁ。気楽にしてもらっていいんだけど、そうもいかなさそうだ。

「なぁ大将。妙に静かだが、ここには俺達以外にいないのか?」

薬研くんは察しがいいのかなんなのか。私が余計なことを考えてる間に、すぐ本丸に他の気配がないことに気付いた。

「まだ人数が少なくてね、ここにはばん…山姥切国広と小夜左文字がいるんだけど、今は出陣してもらってるの」
「だから静かなんですね」

まぁそのうち人は増えるだろうと思ってるから、今は静かでもなんでもいいんだけど。そこまで考えたところで問題が浮上した。

私、どうやって台所に戻ればいいんだ?

早いとこ戻って調理を始めないと、晩ご飯に間に合わなくなるかもしれない。疲れた二人にご飯お預けなんて可哀想すぎる。それなのに私には帰り道がわからない。今頼れるのは目の前にいる二人だけど、顕現したばかりの二人がこの本丸のどこになにがあるかを知ってるとは思わない。むしろ案内するべきは主たる私だろう。
しかし、私は一人でこの本丸を歩き回れないレベルだ。山姥切は小言を言いながら私を行く先々へ連れていってくれるし、ざっと案内しただけの小夜ですら気遣わしげに手を引いてくれる。

…思い出したら情けなさすぎて、なんかすごく悲しくなってきた。全ては私の方向音痴と物覚えの悪さが原因なんだけどさ。

「大将、大丈夫か?」
「え?」
「なんだかすごく遠い目をしてましたけど…」

おっといけない。顕現したばかりの二人に不安を与えてしまったか。勝手に落ち込むのは一人の時にしよう。

「いやなに、晩ご飯からは賑やかになるなぁと思ったんだ」
「賑やかなのが苦手なのか?」
「そんなことないよ!今いる二人は、寡黙だから…」

うるさすぎるのも困るけど、静かすぎる食卓も考えものなんだよ。あれだ、反抗期の息子をもったお母さんの気持ち。なんか話題ないかなと探してるうちに、息子はごちそうさまして部屋に引きこもる感じ。

「主君のご期待にお応えできるでしょうか…」
「乱や秋田がいたらまた違ったかも知れないな」

ああ、いけない。また遠い目をしてたかな。
それよりも新しい名前が聞こえたけど気のせい?みだれ?あきた?花なの?地名なの?

「え、その子達も兄弟なの?」
「はい。僕達の刀派は粟田口と言って、他の刀剣に比べて兄弟が多いのです」

刀を打ったのは人間だから、親はいなくとも大家族か。兄弟としての繋がりが強いなら、もしかしたらこの子達は人間に近い感覚を持ってるのかも知れない。

「これから誰が大将の世話になるのかわからんが、もしここに兄弟が来たらよろしくな」

まだ見ぬ二人の兄弟に、私は今から期待が止まらない。
だってこんなにしっかりしてる二人の兄弟だもん。一人だって悪い子なはずがない。そんな子達を戦に駆り出すのは心が痛むけど、これから会えるのを楽しみにしよう。

「こちらこそ、頼りないと思うけどよろしくお願いします」

頭を下げたら慌てて姿勢を正された。
なんでも「主はそう簡単に頭を下げるもんじゃない」だそうです。ワタシ人間、アナタ神様、頭下げるこれジョーシキ。だと思ってたんだけど、どうやらここではその常識と異なるらしい。ばんばが言ってたのと同じようなことを言われた。

…なんか、人付き合いって難しいよね。この場合相手が人じゃなくて神様だから余計に。


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