(同時進行始めます)


前田が作ってくれただし巻き玉子を咀嚼しながら、私はここ最近考えていたことを頭の中でまとめてた。
最近本丸に来た三人も私と違って迷子にならなくなったし、ばんば達と一緒に出陣してもらってるから練度もじわじわ上がってきてる。でも出陣だけじゃあ資材が集まらないのも事実。様子を見つつだけど、あまりに危険な所じゃない限り任せても問題ないだろう。

何を考えてたのかって?
そろそろ役割分担をしてもいいかなと思った次第であります。

「えー、皆さん。ちょっとお時間いただきます」

せっかくならみんなが集まってる時がいい。
みんなが揃ってる時と言えばご飯時。そう思っておひつの中身も少なくなりご飯を食べ終わる頃合いを見計らって立ったら、予想以上にスッゴい注目されてびっくりした。

え、私注目されるの苦手なんだけどどうしよう。

「いかがしましたか?主君」

想定外の事に動揺してたら前田が首をかしげて目を合わせてきた。もちろん他のみんなも手を止めてきょとんとしてる。

そうだよね、私が声かけたんだからみんなは待つよね。わかってる。わかってるんだけどみんなちょっとこっち見ないで、なんて勝手な言い分が頭の中を駆け抜けた。
そんなことをしてる場合じゃない。頑張れ私、腹をくくれ。いいか、女は度胸なんだ。

「あにょ、」

緊張しすぎて声がひっくり返ったし噛んだけど、誰もなにも突っ込まない。
いいかいみんな、こういう時は突っ込んでくれた方が幾分か気が楽なんだよ。そうしてくれれば笑えるからね。そうじゃないと静かな空間で羞恥に堪えないといけないんだよ、今の私みたいにね!

…もう諦めた。さっさと言いたいこと言おう。で、この話を終わらせよう。

「えーっと、考えてたんですけど、これからはちょっと資材も集めないと何もできないことが発覚しまして」
「今更だな」
「げんちゃん、私に優しさをひと匙追加して」

チキンハートを自らを鼓舞したにも関わらず声がひっくり返った挙げ句、更に自分を叱咤して話したのに、げんちゃんから微妙に冷たい言葉をもらった。

薬研はとっても頼れる人なんだけど、なんか冷たいんだよね。ばんばやお小夜とは違う冷たさ。塩対応って感じ?みんなは話しやすいように声をかけてくれた前田を少し見習ってほしい。

まぁそんなことはどうでもよくて。

「中でも玉鋼の消費が激しいので、明日以降は薬研といまつるさんに遠征と言う名の宝探しをお願いします」
「了解。組討なら任せとけ」
「はいはーい、ばびゅーんと行ってきまーすねー!」
「ばんばとお小夜、前田はいつも通り出陣をお願いします」
「わかった」
「そこに敵が居るのなら」
「全力を尽くします」

うーん。振っておいてなんだけど、やっぱりお小夜はちょっと闇深いな。いままでがいままでだから仕方ないんだろうけど、これからは楽しい事もあるって知ってほしいなぁ。それは私が頑張りますか。

「あ、あくまで固定じゃなくて、みんな入れ換えるからそこのところもよろしくね」

そう言うと元気な返事(当社比)が返ってくる。
私が頑張らないといけないと思うのは、これがあるからなんだよなぁ。みんなが頑張ってくれるのに、私が頑張らないわけにいかないじゃないの。

「刀装は好きなのを持っていって…と言っても、まだあんまりないんだけど」

何度か作ってわかったんだけど、どうやら刀装を作る時は失敗することもあるらしい。しかも失敗すればそれはただの炭になる。困ったことに私は刀装を作るセンスがないのか、四割ほどの確率で炭を作ってる。これが刀装が少ない理由の一つだ。
捨てるのももったいないから釜戸に投げ込んでるけどね。

「いえ、用意していただけるだけで有難いです」
「そうですよ!あるじさまのおかげで、ぼくたちのけがもすくなくなってますから」

前田きゅんといまつるちゃんが優しい…

「もっとクオリティの高い物が作れるように頑張ります…!」

その優しさに報いるためにも私が頑張らなくちゃ。戦ってくれてるみんなが過ごしやすい環境を整えるのもそうだけど、みんなが少しでもケガをしないように刀装や戦術なんかも勉強しなきゃ。

「くおりてぃ?」

誰かの小さな疑問の声が聞こえて、私はついにやらかしたことにようやく気付いた。

主に刀が使われてたのは幕末まで。廃刀令以降も軍人は帯刀してたりしたけど、調べた限りだとその辺りは彼らのいた時代じゃないから横文字を知らなくても当たり前。だからこそ横文字を使わないように気を付けてたのに、感動してつい使っちゃった。

「えーっと、クオリティって言うのは品質って意味なので、今のだったら高品質な物を作りたいってこと…かな」

言い訳がましく理由の説明をしてみるけど、それならなんで横文字で言ったんだって話だ。

「大将の時代の言葉か?」
「うっ…そうです、ごめんなさい」

やっちゃったよ。そりゃあ知らない言葉が出てきたらそうなるよね。
こう言うところで差を作ったらいけないんだよ。時間の差ってやつは意識したって埋められるものじゃないけど、意識させない努力はしないといけないんだよ。それなのに私と言うやつは…!

「何を謝る必要がある。あんたが無理をして言葉を変える必要なんてないだろう」

自己嫌悪真っ最中のさなか、普段寡黙を貫き通しているばんばが珍しく私を擁護する発言をしてくれた。

「刀や戦と無縁だったあんたが、俺達の為に努力していることはわかってる。いくら俺が写しだとしても、あんただけにその努力を押し付けるつもりはない」

え、ちょっと待って。ばんばが今だかつてないほど優しすぎるんだけど。優しくなかったわけじゃないけど、わかりやすく優しくされてる気がする。
だって、いまだに迷子になるから本丸を一人で歩けなくて、連れていってもらうたびに呆れた顔されるんだもん。

「僕も、あなたの言葉が知りたい」

ばんば同様、普段は寡黙を貫いている小夜まで私の言葉を知りたいなんて言い出した。
なんなんだ、そんなこと言われたら泣くぞ?泣かないけど。

「じゃあ、これからはちょっとずつ使っていきます」
「はやくあるじさまとおなじことばがつかえるように、ぼくがんばります!」
「意思疎通に問題が生じるのも困るしな」
「楽しみですね」

どうやら私の気遣いは方向性を間違えていたらしい。気にすることなく使うどころか、知りたいと言われるなんて思わなかった。この本丸はなんて優しい空間なんだ。
審神者冥利に尽きるとはこの事か。

「今日の晩ご飯はみんなが知らないものにするね」
「どういうことです?」
「みんなの時代にはなかったけど、私の時代でよく食べるご飯だよ」
「それは楽しみですね」
「ちっとばかし不安だけどな」
「でも、主のご飯が美味しくなかったことなんてないよ」
「そうだな」

一部を除いたみんなが楽しそうに話すのを見て、ただただ涙が込み上げてきた。年を取ると涙腺が緩くなるからいけない。まだ20代も前半だけどな。

今日は人数が増えると作るのがめんどくさいものを用意しよう。人数が少ない今だけの特権だ。それにサラダとスープもつけて、初めて見る洋食にビックリしてくれたらいいな。

「晩ご飯は楽しみにしててね。それでは皆さん、今日も一日よろしくお願いします」


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