(今剣の場合)
「ちょっなんでそんな…っ」
ぼくがはじめてきいたのは、だれかをしんぱいするこえでした。
「私、ムリしないでって言ったよね」
こんなにはっきりヒトのこえをききとれるのはひさかたぶりのことで、すこしおどろきました。
「無理はしてないよ」
「ケガしないでとも言ったよね…?」
「命のやり取りをしていて、無傷で帰るのは無理だろう」
「ああ言えばこう言うってこのことだね!まったく!」
ヒトのこえはさきほどよりもおおきくなりましたが、おこっているようにはかんじない。
「小夜は?」
「うん」
「前田も薬研も大丈夫?」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「大将はちと心配しすぎだな」
「それはあんたたちがいつもムリするからでしょ!」
きっとかのじょは、かれらのあるじなのでしょう。そして、かれらはすごくなかよしなのでしょう。そうじゃなかったらこうしてしんぱいしたり、おこったりもしないとおもいますので。
「ばんば、ちょっと来なさい。あとげんちゃんも」
「は?おい!」
「大将!俺はたいしたことないから!」
「あ、二人はお風呂入ったり好きにしててね。ご飯はまだできてないからちょっと待っててー」
ふきそくにゆれて、あしおとがたまじゃりではなく、きのいたをふむおとになる。それから、ふすまをあけるおと。
「さてばんばよ、本体を貸しなさい」
「式神は使わないのか?」
「約束を破ったばんばは、私の不馴れな手入れでひやひやさせる刑に処します」
「大将、俺っちは?」
「かすり傷は許します。さぁさ、式神さんいらっしゃい」
とだなをあけるようなおとがしてなにかをとりだしているとおもえば、いっしゅんかんじるつよいれいりょく。つぎのしゅんかんには、たたみをちいさくたたくおとがしました。
「毎度思うが、こりゃ大将の趣味か?」
「さぁ…初めて使役してからこの子達だから、お上の趣味じゃない?」
「そりゃまた随分と可愛らしい趣味なこって」
「いつもお世話になってますよ、この式神様には」
ひとあしさきにかのじょがよびだしたしきがていれをはじめたのか、めくぎぬきをするおとがする。
「では執行しまーす」
なにがたのしいのか、かのじょのこえは少しはずんでいる。どうやらかのじょのいうとおり、ほんとうにふなれらしく、しきをてほんにはじめたようです。
「え、ちょっと待って。式神さん早くないですか?」
「そりゃ大将より慣れてるだろうよ」
「ぐぬ…教えてください」
しかし、なれたうごきにしろうとがおいつけるものではなかったようです。けっきょくどうするのかと、おしえをこいながらていれをはじめたようです。
「りょうかーい」
「おい、あまり強く叩くと危な」
「わあああ飛んだ!ごめんばんば大丈夫!?欠けてない?!」
「俺の事はいいから、あんたが気を付けろ」
「頼むから手入れをしてる大将が怪我しないでくれよ?」
しずかとはとてもいえませんが、なんだかすごくたのしそうです。
それと、ぼくはおもったことがあります。わるいことをしたばつとしてちょくせつあるじさまがていれをしているようですが、それはごほうびになるのではありませんか?
「あ、そう言やぁ大将に土産があるんだ」
「お土産?おいしいもの?」
「残念だが食い物じゃあない」
「出陣先で食料が手に入るわけがないだろう」
ひとのこはくいしんぼうなんですね。ぼくはらくがんよりもおだんごのほうがすきです。
「野草や薬草ならあったけどな」
「薬に詳しいの?」
「元々薬研ってのは漢方薬なんかを作る時に薬種を細かくするのに使う道具のことなんだが、当時の大将が俺っちを使って自害できないことに腹を立ててぶん投げた時、その薬研に刺さったのが俺っちの名前の由来らしい」
「え。やだ、げんちゃんって切れない刀だったの?」
「今刺さったって言っただろ?俺っちはけして主を切らない刀なんだよ」
「へぇー」
おなじまもりがたなとしてすばらしいとおもいますが、このヒトはあまりよくわかってなさそうですね。
そのあたりはこのぼくがきちんとおしえてあげましょう!
「話が逸れたな。土産はこいつだ」
どことなくひやりとしたがいきにふれたとおもえば、あついのにどこかやさしいねつのうえにおかれた。きっとかのじょのてのうえなんでしょう。
「え、なにこれ。どしたの?」
「拾った」
「拾った!?」
「こいつも顕現してやった方がいいだろう」
「ほら大将」
「え、ここでいいの?」
ぼくはばしょにこだわらないので、どこでもいいですよ。それよりも、はやくみなさんとおはなししたいです。
「鍛刀部屋もここも、それほど変わらないだろ」
「まぁそうだけど…ばんばの手入れ途中だし」
「俺っちの式を使えばいいだろ」
「もう直ったの?」
「元々たいしたことなかったからな」
「…じゃあそうしようかな。ばんばの刑は後日持ち越しです」
ついにぼくもみんなとはなせる、あそべるようになる。そうおもうといてもたってもいられないけれど、うごくことすらできないぼくはただまつしかない。
「それじゃあいきまーす」
そういわれると、刀身があたたかいなにかにつつまれる。それといっしょに、あたまのなかにちょくせつかのじょのことばがつたわる。
…そんなこと、いわれなくてもわかってますよ。ぼくはまもりがたな。あるじさまがのぞむものをまもるのが、ぼくのやくめ。
「ぼくは今剣!よしつねこうのまもりがたななんですよ!どうだ、すごいでしょう!」
めのまえには、ヒトがさんにん…いえ、ひとりですね。かのじょがぼくのあるじさまでしょう。のこるふたりはぼくとおなじとおみうけします。
「真っ白い子が出た!」
なんだかおどろいているみたいですけど、やっぱりぼくがよしつねこうのまもりがたなだったからですか?
ふふ、それはちょっとうれしいですね。
「大将、義経公と言えば俺っちの時代より前だ」
「え!そうなの?」
「あなたがぼくのあるじさまですか?」
「えっと、はい。菱と申します」
「ぼくとたくさんあそんでくださいね!」
「よろしく、いまつるちゃん」
そういってさしだされたてに、いいかおはできなかった。
「ぼくはめのわらわではないですよ!」
「あ、ごめんなさい。えーっと、いまつるさん?」
「…まぁいいでしょう」
ヒトのくせになまえをちゃんとおぼえないとは、しつれいですね。
「あ、こっちは山姥切国広と薬研藤四郎。他には前田藤四郎と小夜左文字がいるの」
…なるほど。いましょうかいされただれもただしいなまえでよんでいなかったので、ぼくをよんだそれもいわゆる[あいしょう]というものなのでしょう。
それならばゆるさないこともないです。
「あ!ご飯の準備がまだ途中だった!」
「なんか俺っちに手伝えることはあるか?」
「大丈夫。薬研もお風呂入ってきたら?あ、もし前田かお小夜が暇そうだったら本丸の案内お願いしといて」
「わかった」
「ばんばはちゃんと直ってからだからね!」
「言われなくてもわかってる」
こんどのあるじさまは、いささかおちつきにかけるようです。ここはぼくがちゃんとしないといけないですね!
「大将、今日の晩飯は?」
「筍の炊き込みご飯にふきとお肉炊いたやつ、あといまつるちゃん来たから青菜のお浸しも出しちゃう!」
「いいのか?大切に取っておいたんだろ?」
「いいのー!」
バタバタとはしりながらどこかにむかうあるじさまは、それがにょにんのすべきこうどうとはとてもおもえませんが、それをみおくるふたりをみていたら、なかなかわるいものでもないのかもしれないとおもいました。
「山姥切の旦那はまだかかりそうか?」
「そうだな…終わったら向かう」
「わかった。今剣、ここの案内をするぜ」
「ありがとうございます」
薬研藤四郎にあんないされるあいだ、いろんなはなしをききました。あるじさまはほうこうおんちだとか、ものおぼえがよくないとか、すこしでもけがをするとおおごとのようにさわいでこまるとか。
どれもいっけんすればいいことばではないけれど、はなすこえとひょうじょうが、ことばとぎゃくのいみをもたせる。
「薬研藤四郎は、あるじさまのことがすきなんですね」
「…そりゃあな」
ここのあるじさまも、みんなにすかれているんですね。
「今剣もきっと好きになるさ」
そうですね。ここにはあるじさまのきれいなれいりょくがみちていて、すごくここちがいい。
「薬研兄さん、本丸の案内ですか?」
「丁度いいところに。俺っちの兄弟だ」
「前田藤四郎と申します」
「ぼくは今剣です」
「よろしくお願い致します」
「大将は今晩飯の準備をしてる。用意ができるまで今剣に本丸を案内してやって欲しいとのことだ」
「兄さんはどうしますか?」
「風呂に入ってこいって。山姥切の旦那は手入れの後だ」
きょうだいなかがよいことはいいことです。きょうだいでなくとも、ここはみんななかがよいみたいですけど。
「そう言うことなんで俺っちはここで一旦失礼させてもらう。前田、後は頼んだぞ」
「承知しました。では今剣さん、参りましょう」
「はい」
薬研藤四郎から前田藤四郎にかわったところで、かずのすくないここのあんないはほとんどおわっていたもどうぜんのじょうたいでした。そのためあんないされたのは、はたけなどそとのことでした。
「すこしきいてもいいですか?」
「はい。僕にお答えできるものであればなんなりと」
そとのことでききたいことはそれほどなかった。なぜなら、まだてがはいっていないところもおおいからです。だからぼくは、ぼくのききたいことをきくことにしました。
「あるじさまのことはすきですか?」
「もちろんです」
すこしききかたをまちがえたかもしれないですね。刀としてあるじさまをすきになるのはしぜんのせつり。かいとうは、ほとんどひとつといってまちがいないでしょう。
「どんなところがすきなんですか?」
「たくさんありますが、やはりお優しい所でしょうか」
「やさしい?」
「はい。怪我をしないようにといつも気を配ってくださいますし、少しでも怪我をするとすぐに手入れをしてくださるのです。それに、主君は毎日かかさず食事の用意までしてくださるのです」
「あるじさまがよういしているのですか?」
「ええ。朝早くに起きて、少し眠そうなお顔をしながら用意してくださっています。それから、夜は皆が戻ってすぐ食べられるようにと気を使ってくださいます」
「かたなであるぼくたちにしょくじですか…」
そういえば、さっきもまだとちゅうだったとはしっていきましたけど、あれはぼくたちのためだったんですね。
「もしよろしければ見に行ってみますか?」
なにを、というのはきっとあるじさまのことでしょう。
「はい、とってもきょうみがあります!」
すこしかわったあるじさまだけど、なんだかたのしくなるよかんがしますよ。
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