次の土日に翔陽達が来るから、それに関して昼にお昼を食べながらのミーティングがあった。

「チビちゃんが来るの楽しみだろ?」
「別に」
「そーかぁ?」

目立つから教室来ないでって言ってるのに、クロは全然やめてくれない。今日だってわざわざ教室まで来るから、弁当を持ってできるだけ人目につかないように教室から出たくらい。

まぁ、翔陽が来るのはちょっとは楽しみ。クロがうるさいから絶対そんなこと言わないけど。

「一応泊まりだからな、忘れ物するなよ」
「しないよ、クロじゃないんだから」
「俺もしねぇし」

そう言えば教室に吉野さんいなかったな。いつもの人たちはいたから、どこか別のところで食べてるのかな。
よく考えたら吉野さんのことってなにも知らないや。俺が知ってることと言ったら、こそこそとよくない噂を流されてること。それから、意外と教師の目を盗んで、見てるこっちがひやひやするようなことをすること。どんな人なのかは全然わかんない。

そう言えば、初めて吉野さんと会った自販機はここだった気がする。こんなところにいないとは思うけど、なんとなくクロの向こう側の窓から外を見た。

「え」

そうしたら、見下ろした先にいたからびっくりした。

「どした?野良犬でもいたか?」

この辺に野良犬なんているわけないでしょ。なんて思っても言葉にはならなかった。小さな日陰で小さくなっている吉野さんは、今まで見てた吉野さんらしくない姿だった。

「あ?あんなとこに女子が1人でいるの珍しいな」

休み時間に女子は集まって何かしてるイメージだったけど、吉野さんにはそんなイメージがあまりない。だからといってこんなところに1人でいるとは思わなかったけど。
クロと2人で見ていたからか、不意に吉野さんがこっちを向いた。思いっきり目があってどうしようかと思ったけど、吉野さんはいつもの笑顔で手を振ってきた。

「え、なに?研磨の知り合い?」
「クラスメイト」

なにかリアクションしないと吉野さんに悪いかと思って、なんとか手を振り返した。
そうすると、一瞬驚いたような顔をしたあと、しまりのない笑顔を見せてくれた。

「なんだよ、紹介しろよ」

それを見たクロがどう勘違いしたのかわからないけど、めんどくさい絡み方してきてウザい。

「名前なんつーんだよ」
「教えない」
「なんでだよー」
「教えたら声かけるでしょ」
「そりゃあ研磨のオトモダチだからな」
「吉野さんに声かけたらクロとは2度と口利かない」
「ふーん、吉野ちゃんね」

いつもなら絶対しないようなミス。どうしたんだろう。ミーティングは面倒だったけど終わればなんてことないし、別に吉野さんにこうして手を振り返すのは初めてのことでもない。

「かわいいコじゃねぇの」
「は?」

クロの言葉にびっくりして、吉野さんから視線は外れた。言い出したクロはニヤニヤしててムカつく。
いつまでもここにいても仕方ないから、もう1度外を見ると、吉野さんも戻るのか立ち上がって一礼して校舎の影へ消えていった。

「研磨が手振った後の顔だよ。ふにゃってしててかわいかったな」
「え、なに?クロ…」
「なんだよその目は」
「…一目惚れしたとか言わないでよ」
「言わねーよ!俺だって好きなやつくらいいるっつーの!」
「へぇ、いいこと聞いた」
「やべ…」

知ったからどうってこともないけど。

「つーかなに、研磨あのコの事好きなわけ?」
「は?」
「吉野ちゃんだっけか」

なんでそうなるのさ。クロの考えてることがよくわかんない。

「あのコに手振ってるときの研磨、見たことない顔してたぞ」
「知らない」
「いーや、俺は見たね」
「知らない」

なにそれ、どんな顔か全然想像つかないんだけど。そもそもクロが知らないおれってなに?そんなのいくらでもあると思うんだけど。

「まぁいいけど、ちゃんとしとけよ」

よくわかんないけど、適当に返事しておいた。
それと、なんとなくだけど吉野さんのことは知られたくなかったなと思った。



back