「月島!次いくよ!」

いまだ残暑厳しい今年は、できる限り外に出たくなかった。出たくなかったのにこうしてつれ回される事になるなんて、少し前の僕は考えてもみなかった。

「ねぇ、夏バテって言葉知ってる?」
「月島は年中夏バテしてるみたいだよね」

そうじゃない。ついでにムカつく。

「帰る」

何が面白くてこんなに歩き回らないといけないんだよ。こんなくそ暑い中ここまで付き合ってあげたんだから、ほめてほしいよね。

「えー!やだやだ次かき氷なの!一緒に食べてよぉー!」

ここに来るまでもやたらと僕に分けようとしてくるから、正直ほとんど財布は開けてない。
男としてどうなんだとは思うけど、柏手の食べる量を賄うことなんて、到底僕にできるわけがないと最初から諦めてる。

「すぐ頭痛くなるくせになんでそんなの食べようとするのさ」
「いちごのやつでね、おっきいから一人じゃ食べられそうになくて」
「そう言いながらここまでになに食べたか数えてみなよ」

指折り数える柏手を見ながらここまでに食べてきたものを思い出す。

駅で買ったずんだシェイクから始まり、塩キャラメルのたい焼きと黒糖のたい焼き。バタどらと抹茶どら。ひょうたん揚げ、凍天、クッキーシュー、パンケーキ、ほうじ茶アイス、メンチカツ、水まんじゅう。その他にパン屋で買ったタルトタタンやキッシュ、サンドイッチもいくつか食べてた。

どれだけ食べれば気がすむんだよ。胃袋どうなってるの?僕より小さいのに僕より食べるっておかしいよね?
見てるこっちが胸焼けしてきた。

「…いっぱい?」

数えきれないのか覚えてないのか、それとも数えたところではじめて量の異常さに気付いたのか。何度も指折り数えた手から視線をはずして、苦笑いを浮かべながら僕を見上げてくる。

「太るよ」
「だっ大丈夫だよ!ちゃんと消費してるから!」
「歩き食べすると下半身に肉がつくんだって知ってた?」
「!!!」

事実かどうか知らないけど、女子ってそう言うの気にするから、これでおとなしくなってくれたらいいんだけど。

「でもかき氷は食べたい!」

諦めなかった。柏手はなにがなんでもかき氷を食べると全身で訴えてくる。
なんなの?どんだけ食い意地はってるの?なんで僕はこんなやつの食べ歩きなんかに付き合ってるの?意味がわからない。

「絶対月島も好きだから!」

何を根拠に絶対なんて言ってるのか。

「寒いって言い出すんじゃないの」
「言わない!」
「いい加減にお腹壊すよ」
「大丈夫!」
「お小遣い持たないんじゃないの」
「だ…いじょうぶ」

それは大丈夫じゃない時の返事だと思うんだけど。

「次が最後だからね」

でも、次で最後だなんて言いながら結局付き合うんだから、僕も大概おかしい。

「あのね、いちごも練乳も他のやつも素材にこだわってるんだって!」
「いちごミルクにするの?」
「かき氷はいちごだし、練乳があれば幸せだからね!」
「単純」
「おいしいものはおいしいでいいの!月島行くよー!」
「はいはい」

仕方ないからもう少し付き合ってあげるよ。柏手の食べるものって必ずおいしいからね。
だから次もちゃんと僕に分けてよ。