「ちょ…っと!加減してよ!」

気まぐれに、ふと思い立ったように私はこの育ちの良さそうな後輩を体育館に呼び出す。
そして巷で殺人サーブなんて呼ばれそうな、とんでもないサーブを打たせてる。

「すんません」
「ホンット私に対しての対応が雑だよね!私一応先輩だから!」
「?当たり前じゃないですか」
「これだから…!」

今更ではあるけど、バカには何を言っても通じない!

「影山の本気サーブ受け続けたら腕が吹っ飛ぶっての!」
「大丈夫です。いままで吹っ飛んだ人いないので」
「あああもう!」

ああ言えばこういうと思うけど、おバ影山は本気で言ってるに間違いない。
そもそも初めての時、下手くそな手加減でとんでもないへなちょこサーブをした影山にぶちギレたのは私だった。

「あの、もういいですか?」

バレーバカは早く次のサーブが打ちたくてしかないらしく、私のことなんて無視して話しかけてきた。
しかし、悲しきかな。私も救いようのないバレーバカらしい。

「よっしゃ、サッコーイ!!」

威力もコントロールも申し分ない。そんな選手を同じ学校で見つけた私は、正直歓喜したね。それと同時に殺したいほど憎んだ。
私がなくしたものを、こいつは持ってる。

「ああくそ、ブレた!」
「でもさっきよりいい感じです」
「そう言うのはいらん!」

男子の、しかも影山のサーブをひたすらレシーブするだけの時間。それは腕の感覚がなくなるなんてものじゃあない。

「あーもう!ホンっト素直に上げさせてくれないよね!?」

ボールを全部使いきったら、回収してまたレシーブ。これを今日まで何度繰り返したか。

「あの、俺やっとくんで」
「後輩だけにボール拾いさせるような嫌な先輩になるつもりはないよ」
「俺も足引きずってる人にボール拾いさせられません」
「…あっそ」

こういうところも嫌いだ。

「じゃあ私休憩しちゃうからー」
「はい」

痛みこそ感じないけど確かにスキール音が耳につくし、なによりやたらと足が床に引っ掛かる。気付かなければなんてことなかったのに、認識してしまうと途端に煩わしくて仕方がない。
壁際に寄った私の視界には、一人で黙々とボール拾いをする影山がいる。

本当に嫌なやつだ。そのつやっつやな黒髪も、綺麗すぎる頭の形も、ボールを片手で易々と掴むその手も、バカなくせに妙に細かいところに気付くところも。全部全部嫌いだ。

「これ、片してくるんで」
「え、もう終わり?」
「はい」
「なんで」
「このまま続けたら動かなくなりますよ」

なにが。なんて私が1番わかってるし、別に動かなくなっても構わない。

「あんたに関係ない」

いっそのこと、2度と動かないくらい完膚なきまでに壊れればいいんだ。そうすれば、こんな惨めな思いも執着もしなかった。

「関係はないっすけど、俺が壊したくないです」
「何言ってんの?」
「よくわかんないですけど、柏手さんが再起不能になるのは嫌なんで」
「こんなジャンク、もう使い物にならないよ」
「そう言うのやめた方がいいです」
「うるさい」

こんな私に構わなければいいのにと思いながら、それでもバレーから離れられなくて影山に声をかけてるのは私なんだ。

「俺は柏手さんとバレーするの好きです。柏手さんはどうなんですか?」

影山とのバレーが好きなわけじゃない。と言うか、こんなのただのボール遊びだし。バレーなんかじゃない。

「別に、フツー。影山じゃなくても強いサーブ打ってくれる人なら誰でもいい」
「じゃあ俺のこと呼んでください」
「烏野でこんなサーブ打てる人、影山意外にいないでしょ」
「烏野意外でも呼ぶんですか」
「呼ぶよ。そもそも影山レベルで打てる知り合いいないけど」

他校だったら誰に打ってもらいたいかな。牛島さんは本気で腕吹っ飛びそうだからちょっとやだ。それ以外の人なら、たぶんなんとか大丈夫そうかな。

「いてもやめてください」
「なんでそんなこと言われなきゃなんないのよ」
「俺がいやなんで」

私も頭よくないけどさ、さすがに影山ほどバカじゃないからね。赤点なんてとらないし、そこそこ成績いいんだから。それでも、影山がなにを考えてるのか全然わかんない。
あれだ、バカの考えることはわかんないってやつだ。

「あっそ。じゃあそのどっかの誰かさんより強くいれば」

影山はきっとまだ強くなる。バカではあるけど、努力ってやつを惜しまない、それこそバレーに愛されたようなやつだから。

「はい。なんで、柏手さんも俺だけにしてください」

だからこそ、私は影山は嫌いだ。