甘過ぎて食べきれない


「あ、赤葦くんだ!おはよー!」
「おはよう」

教室には吉田さんが来てた。
いつものことだから今更驚いたりしないけど、今日はやけにテンションが高い。

「おはよう沙羅」
「うん、おはよう」

その代わり、沙羅のテンションが低い。目を合わせようともしてこない。
ちょっと寂しさを感じたけど、その理由はすぐにわかった。

「それ、吉田さんの?」
「沙羅にあげたから沙羅のだよー」

机に置かれたコンビニのボックス入りのチョコ。吉田さんにもらったらしい沙羅よりもあげた本人が多く食べてることについてはなにも言わないことにしておこう。
そうだ、今日バレンタインだった。

「それおいしい?」
「毎年買ってるよ。食べる?」
「でもそれ、沙羅にあげたんじゃないの?」
「あ、そうだった。沙羅いい?」
「うん」
「だって。はい」
「ありがとう」

え、ホントに全然喋らないんだけど。今すぐには聞けないけど、沙羅に何かあったのか心配になる。

「これ冬限定で売ってるやつでね、なんとなく毎回買っちゃうんだー」
「へぇ」

正直吉田さんの話なんて右から左、むしろ通ってもいない。よくよく観察すると、恥ずかしいって感じではない。どちらかと言うなら困ってる感じ。本当にどうしたんだろう。

「じゃあ戻るねー」
「うん」

面白そうに笑いながら離れていく吉田さんにふらりと手を振った沙羅は、やっぱり困ったような、それでいてどうにもできなくて迷ったような雰囲気がしている。

「何かあった?」
「…別にない」
「そう?」

絶対なにかあった。吉田さんはそれがなにか知ってる。それで、沙羅は俺に知られたくないんだと思う。

沙羅からの相談ならいくらだって受けるのに、俺はそんなに頼りなく見えるんだろうか。確かにパワー面はもうちょっと鍛えたいけど、そんなにひょろいつもりもない。

「あの、京治くん」

SHRが終わると同じに、意を決したように声をかけられた。

「なに?」

珍しく沙羅がわかりやすく表情を作ってるのに、なんでそれが泣きそうな顔なんだ。そんな顔を見たいわけじゃない。それならいつもみたいに無表情でいてくれた方がよっぽどいい。

「今日…これ…」

机に置かれたのは、今日のためにラッピングされてコンビニとスーパーに並んでるようなお菓子。

何度でも言うけど、今日はバレンタインだった。

「ありがとう」

まさかもらえると思ってなかったから、正直に言うとにやけるくらいに嬉しい。だけど沙羅はそうじゃないらしい。雰囲気と表情が完全に一致すぎて俺が辛い。

「ねぇ、なにかあった?」
「ない」
「そんな顔で言っても説得力ないよ。俺でよかったら話聞くから」
「…京治くんだから言えない」

俺だから言えないってなんだろう。女子的なこと?それは確かに言われてもわかんないけど、それなら男にはって言うよな?まぁそもそも沙羅が男と仲良さげに話してるのなんて見たことないけど。

「でも力になれるかもしれないし」
「それはない」

うん。返事はいつもと同じだ。

「でも沙羅が元気ないのは気になる」
「言えない」
「教えて。絶対大丈夫だから」

チョコをもらえたことが嬉しすぎてにやけるのを堪えてるけど、もしも堪えてるのがバレたらたぶん沙羅は不機嫌になると思う。たとえ不機嫌になったとしてもかわいいけど、口をきいてくれなくなるのは困る。なんとか堪えろ俺。

耐えた結果か、沙羅は迷った末にようやく口を開いてくれた。

「本当は、コンビニのなんかじゃなくて、ちゃんと用意したかったんだけど」
「うん」
「できなかった」
「そっか」

最悪もらえないかもしれないと思ってたから、沙羅からもらえるなら20個入りのチョコの内1個だったとしても俺は喜んだよ。

「ちゃんと作ったんだよ?」
「え、作ってくれたの?」

作ってもらえるなんて思ってなかったからびっくりした。

「でも全部焦げちゃって、とてもじゃないけど食べられなくて」
「それ、どうしたの?」
「捨てた」

捨てた?!

「え、なんで」
「だって、真っ黒の炭みたいになって、食べられたものじゃなかったから」

そりゃあ焦げたら捨てるか。
でもそれでも欲しかったって言ったらキモいって言われるかな。

「ごめん…」
「いいよ、沙羅にもらえるなら炭みたいなのでも嬉しい」
「さすがにそんなのあげられない」

沙羅のことだからそう言うとは思ったよ。

「だからさ、来年は欲しいな。沙羅の手作り」
「…うん、頑張る」

…よし、来年は沙羅の手作りに期待しよう。



(料理得意だと思ってた)
(そんなにできないよ)
(意外)
(幻滅した?)
(全然。かわいいと思う)
(…バカ?)

2017/02/14