まっすぐな君の変化球
「三橋ー!」
「なにー?」
「古典!」
このうるさい男とは中学からの腐れ縁で、気付いたらお守り役というか保護者というか、そんな枠にはめられていた。
「たまにはちゃんと授業受けてよ」
「受けてる!でもわかんねーんだよなぁ」
「ああ、あんたはそう言うタイプだったわ」
こんなことがとてつもなく多いから、いつからか人に見せられるようなノートの取り方を考えた。結果として成績が上がったからなんでもいいんだけど。
古典のノートを引っ張り出して西谷に渡す。
「ありがとな!」
その1言が聞ければなんでもいいかな、なんて思ってしまうんだから、私も大概こいつに甘いんだろう。
「何がわかんないの?」
「わからん!」
…バカだけど、その潔さは好きよ。
でもなにがわかんないかわかんなかったら、なにを勉強すればいいかわかんなくない?
「西谷って文系ダメだよねぇ」
「ダメじゃねえ!」
「この間聞こえたけどさ、問題文に説教したんだって?」
「紀男がウジウジしてるのが悪い!」
「西谷からみたらそうだろうけど、紀男もいろいろ考えてたんだよ、繊細なんだよ」
「男ならズバッといかないとな!」
西谷理論は聞いてない。
誰かが言ってたゲリラ豪雨って言葉がぴったりきすぎて笑えないくらいうるさくて、猪よりもまっすぐ。
「西谷、相変わらず字汚いね」
「うるせえ」
中学から変わらない。だから私も西谷の近くにいられるんだけど、最近はそれじゃあ少しだけ物足りなくなってしまった。
竹を割ったような性格に男らしさ。身長は少し低いけど、それを補って余るほど 西谷にはいいところがある。中学の時はただうるさい男子って認識だったのに、高校に上がったら周りが西谷のいいところに気付き始めてしまった。
「‥明日は晴れますか?」
だから少し焦ってたのはある。
「どーしたいきなり」
焦ってるとは言え、直接伝えられるわけなんてない。どうせ西谷は意味なんて知らないだろうと思って言ったけど案の定。伝わらないこと前提で言ったのにもやっとするなんて、勝手だ。
「いや。晴れたらいいなーと思って」
「最近天気よくねーし曇るんじゃね?」
うん。普通そう答えるよね。だって天気の話してるんだもんね。西谷はなんにも悪くない。
「でも晴れたらいいな!」
「…うん」
こんな梅雨みたいな私が、真夏の太陽みたいな西谷に釣り合うなんて思ってないけど、私の気持ちがこれから先晴れないとしても。私の手が届かないところに西谷が行ってしまうことになっても。もう少しだけ、この腐れ縁が続いたらいいかな。
「なぁ三橋、これは?」
「んー?……これ中学の内容…」
少し距離を取っていても、パーソナルスペースがバカになってる西谷は容赦なく詰めてくる。
「でもわからん!」
「推量系ってやつで」
「なんだそれ?」
「例えば「雨が降らない」って言う否定系にするんじゃなくて「降るまい」とか「降らないだろう」みたいなやつ」
「んー?」
「西谷の場合はテンポで頭に入れた方が早いんじゃない?」
「そーか」
平常心という呪文を唱えながらやっと距離をとる。たぶん赤くなってない。変じゃない。大丈夫。
なんて自分のことで必死になってたら、ふと見た西谷の方がおかしかった。
「つっつつつ!」
なんだなんだ。いきなり西谷がバグった。
「月が!綺麗ですね!」
教室が静まり返った。
西谷がうるさいことはいつものことだけど、言った言葉が西谷からは想像もできない言葉だったからだろう。
夜だったらなんの違和感もなかったはずの言葉。だけど、今は昼間で月なんて見えない。この言葉が意味するのは、きっとひとつ。
「おい!お前ら見んな!」
いや、見るよ。誰の入れ知恵?縁下?
真っ赤になって叫んでいるところを見ると、自分でもらしくないことをしたと思ってるんだろう。いつもストレートしか投げてこないのに、いきなりこんな変化球投げられたら私だってびっくりするよ。
え?は?なにこれ。どっきり?
呆気に取られてると、西谷が変な顔で睨んでくる。恥ずかしいのと早く答えろってのと不安がない交ぜになったような変な顔。
西谷に言うだけ無駄なんだろうけど、どうせ告白するならもうちょっとムードとかそういうの考えた方がいいよ。西谷相手に今更そんなの気にしないけど。
ん?私の返事?そんなの決まってる。
「ずっと前から月は綺麗でしたよ」
私の返答に教室はまたざわり。
これ最近できたやつらしいから知ってる人少ないと思ったんだけど、みんな意外と知ってるんだね。
「やっぱよくわかんねえ!好きだ!付き合ってくれ!」
なんだ、やっぱりそうなるのか。
でもそれも悪くない。
「よろしくお願いします」
いつでもストレート勝負な西谷だから私は好きになったんだよ。
2017/01/12