ショコラを君と
友チョコではないチョコを作るのはいつぶりでしょうか。もしかしたら初めてかもしれません。
今年は少しだけ気合いをいれて、みっちゃんや山口くんへガトーショコラを作りました。蛍くんには、その中にガナッシュを仕込んだフォンダンショコラです。なかなかうまくできたと思うのですが、どうでしょうか?
味は問題ないと思いますが、再加熱した時ガナッシュが焼けてしまわないか心配です。
「沙羅ー!」
みっちゃんとは朝待ち合わせをしてお渡しする約束をしていました。こちらも意外なことに、バレンタインは貰う専門で1度もあげたことがないそうです。彼ぴぴとかたくさんいるのに、不思議ですよね。
「おはよー!」
「おはよう、みっちゃん」
夏頃は明るかったみっちゃんの髪色は、今ではアッシュ系になっています。それでも不思議とキラキラして見えるのだから、さすがみっちゃんです。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「ありがとー!この感じは…カップケーキ?」
「ガトーショコラだよ」
「ありがとー!」
嬉しそうにされると、たいしたものを作ったわけでもないのにこちらまで嬉しくなります。
「イケメンにはあげたの?」
「まだこれから」
ちなみに、みっちゃんは頑なに蛍くんの名前を呼びません。私の苗字になったら呼ばないこともないって言ってましたけど、そんな事になるかどうかもわからないのだから、呼ぶ気がないってことですかね。あと、もしそうなれるとしてもあまりに先が長すぎると思います。
「なになに、じゃあ私が1番?」
「うん」
「やだー!愛されてるー!」
「朝からうるさい」
「あら、ようやくご登校?」
「おはよう」
「おはよう三橋さん、箕作さん」
いつの間にか蛍くんと山口くんがいました。
「忘れないうちにこれ」
「え!いいの!?」
「うん」
「わ、ありがとう!」
「蛍くんも」
「…どうも」
お2人に無事お渡しできて満足です。
「2人も同じ?」
「ガトーショコラだよ」
蛍くんだけ違いますが、それは後でお知らせしましょう。
「後で食べるね」
「うん」
蛍くんがなにやら不機嫌です。ムスっとしたままです。
どうしてですか?私またなにかやらかしましたか?
「遅刻するよ」
「あ、じゃあ三橋さん、ありがとう!」
「うん」
蛍くんは不機嫌なまま校舎へ向かってしまいました…本当にどうして不機嫌になったんですか?
「ふーん、そういうタイプなんだ…」
「え、みっちゃんなにかわかったんですか?」
「いや、なんにもー」
絶対なにかわかったはずです。なぜなら、みっちゃんと蛍くんの感性はよく似ていますので。
そんなことを言ったら、双方から烈火の如く怒られてしまいますけれど。
「遅刻する前にいこっ」
「うん」
授業が始まるまでの僅かな時間に、蛍くんにメッセージを飛ばしました。内容は、フォンダンショコラになってるから、帰ってから少しだけ暖めて食べてほしいと言うこと。
もちろんベースはガトーショコラなのでそのまま食べても問題ありませんが、折角なら暖めて楽しんでいただきたいと思うのです。
蛍くんはもらってすぐに食べるタイプではないと思うので、この連絡で間に合うはずなのですが…もう食べてしまいましたかね。
そのあとすぐに了承の言葉が帰ってきたので一安心ですが、それと同時にお昼のお誘いもされました。もちろん私も了承のお返事をすぐにさせて頂きましたが、温度のない文面からはどことなく不機嫌な雰囲気を感じました。いつも簡潔で、どちらかと言うなら素っ気なさすら感じる文面ではありますが、いつもならもう少し感情が見えるんですけど…
考えてもわからないのですから、後で聞きましょう。
▼ △ ▼ △ ▼
それは、山口くんが学食を買いに行ってる僅かな時間で起こりました。
「…え?」
「だから、山口が昼食べたら、もらったやつ食べようって」
「なんで」
「あんまり時間経つと沙羅に悪いからって」
ああ、そんな気を使って頂くような物でもないのに。
「だけどこれ、山口のと違うんでしょ?」
「うん」
いえ、ベースは同じなのでそのまま食べていただいても構わないのですが、中にガナッシュが入ってることはバレますよね。
「だから山口と同じのもちょうだい」
…え?
「家で食べると断れば」
「どうせ余って持ってきてるんデショ」
「そうだけど」
蛍くんの大きな手がこちらに向いたまま、明らかな催促をしてきます。
確かにバイト先で配る分を除いても余りがあったので自分用に持ってきてはいます、が…あの、あげておいてなんですが、そんなにいいものでもありませんよ?
「ほら、早く」
「あ、はい」
欲しいと仰るなら構いませんが。
「どうぞ、お納めください」
「…どうも。じゃあ僕も買ってくる」
「いってらっしゃい」
心配性な蛍くんは一緒にお昼を食べるとき、必ず私が1人にならないようにしてくれます。
「お待たせ」
「いえ、2人が交代で話しててくれるから大丈夫。むしろ気を使わせてごめんね」
「そんなことないよ!ツッキーも俺も三橋さんと一緒に昼食べたいから誘ってるんだし」
「ありがとう」
「今日は先に食券買ってたからすぐに戻ってくると思うよ」
「そんなに好きなものだったの?」
「まぁそんな感じかな」
山口くんが向かいに座るとき、あるものに気付きました。
「あれ?ツッキーさっき三橋さんにもらったやつ出して行ったの?」
それは、さっき蛍くんに欲しいと言われたガトーショコラです。
「あ、の…」
そのあとすぐに席を離れてしまったので、単純にしまい忘れたのかと思いますが、どう説明しましょう…
ここで「さっき渡したのは別で」なんて説明をするのもなんだか気恥ずかしいので、蛍くんは怒りそうだけど山口くんの推察に相違ないと言うことにしておきました。さすがに包みが違うことまではわからなかったのが救いです。
「ツッキーがバレンタイン受け取るのって初めてなんだ」
「そうなの?」
「谷地さんからは部員みんなにって配ってたから食べてたけど、それ以外でもらってるのは見たことないかな」
へぇ…モテそう、と言うより今もモテてるから意外と言う言葉以外出てこないのですが。
「ツッキーはそれくらい三橋さんからもらったお菓子を楽しみにしてるんだよ」
「そ、そう…かな」
「そうだよ!前にツッキーの誕生日の時にもらったスイートポテトもおいしかったから、俺も楽しみなんだ」
「それは、ありがとうございます」
あまり人に食べてもらう機会はありませんが、そう言って頂けてなによりです。
「ガトーショコラってよく売ってるのは見るけど、作れるものなの?」
「そんなに面倒ではないよ」
「凄いなぁ、俺にはできないよ」
「でも山口くんはバレーできるじゃない」
「ツッキーの方がうまいし、練習すれば三橋さんにもできるようになるよ」
「でも運動神経ないし」
「今度やってみる?」
「ええ、でもいいよ。迷惑かけちゃうし」
「沙羅はバレーなんてしなくていいよ」
「あ、ツッキーおかえり!」
山口くんはなんてことないように返事をしましたが、私は吃驚して声すら出ませんでした。
「バレーなんかして突き指したり手首痛めたらどうするの?授業にならないでしょ?」
「え、俺は…」
「山口は慣れてるし進路違うでしょ」
若干の違いはありますが、ほとんど変わらないのですが。
「ま、まぁご飯食べようか!」
空気が重くなることもなく、良くも悪くもいつもと同じ雰囲気。
お2人がなんの変わりもなくてなによりです。そしてさつまいもの甘煮がもの凄くうまくできてたので満足です。
「それ食べてもいい?」
「どうぞ」
「ありがと」
そしてさらわれる甘煮。南瓜とかさつまいもとか、甘いおかずが嫌いな男の人が多いと聞きましたが、蛍くんは例外ですね。甘党さんですから。
黙々と食事を進めると、さて出てきたのは朝お渡ししたばかりの包み。
感想を直接頂けるのは何よりですが、これ拷問に近いですよ。素人が作ったのでお手柔らかにお願い致します。
そんなことを考えたところでお2人に伝わるわけもなく、あっさりと包みから取り出されてその口の中へと運ばれてしまいました。
「おいしい!ね、ツッキー!」
「ん」
「三橋さん、ありがとう!」
「お気に召していただけたようでなによりです」
ひとまずお口に合ったようでなによりでした。
あまり蛍くんの交友関係に詳しくはありませんが、月島さんとの会話を聞く限りあーした方がいいとかこーした方がいいとか言うと思ってました。それなのに、意外なことに蛍くんが私の作った料理に対して何か言ったことがありません。本人いわく「不味くないんだから貶すことないデショ」とのこと。
いつもちょっと不機嫌そうな顔をして食べてるので、不味くないにしてもなにか言いたいことはあるのではないかと思うのですが…
「!」
「なに?」
「?どうかしたの?」
「え、あ、あの…」
右手が、握られてしまいました。
え?蛍くんそう言うの嫌だって前に言っ…てないですよね、1言も。混乱しすぎてありもしない記憶をでっち上げようとしてしまいました。そうでした、お付き合いをする前にもうっかり手を繋いだままお買い物デートをしてしまいましたね。おかげでみっちゃんが大変お怒りでしたね。
「なに?食べたいの?」
「え?」
「仕方ないから食べさせてあげる」
「え!?」
差し出されたのは食べかけのガトーショコラ。
「ほら」
「いや、でも」
こんな人がたくさんいるところで蛍くんは何を考えていらっしゃるんですか。
なんとかして逃げようにも逃がしてくれそうにありません。すごく楽しそうな顔をしています。そしてなぜか山口くんは微笑ましげです。
ええい、どうにでもなれ。
「ど?おいしいでしょ?」
「…はい…」
正直味なんてわかりません。人がいなかったり知らない場所とかならまだしも、学校で、山口くんの前でこんな…恥ずかしすぎて前が見られません。
「ごちそうさま」
「え!」
「なに?」
「いえ、あの、」
食べたんですか?食べたんですか!た、食べかけを食べさせると言う辱しめに飽きたらず残りも食べたんですか?!
「あ…ごめん、俺同じ講義の奴と確認したいことがあったんだ」
「え?」
「2人はゆっくりしてて。じゃあ!」
思いにもよらない山口くんの申し出に驚いて顔をあげると、やはり微笑ましげに目を細めて席を離れてしまいました。
「時間はあるし、ゆっくりする?」
「む!むむむむむムリです!」
「そんな全力で否定しないでくれない?いくらなんでも傷付く」
「す、すみません」
「まぁ理由なんてわかってるからいいけど」
わかっててやるってなんなんですか!やっぱり意地悪です!
「別にいいでしょ。山口は全部知ってるんだし」
「そういう問題じゃないです」
「山口に何でもかんでも話しすぎ。沙羅は僕と山口どっちが好きなの?」
「そ!!」
「どっち」
「‥け、蛍くん、です」
これは当たり前じゃないですか。
「山口との噂多過ぎ」
「それは、すみません」
「悪いとは言わないけど、面白くはない」
「はい」
だって蛍くんのことなら山口くんに聞けばほとんど解決できるんですもの!だから必然的に山口くんに相談することが多くなってるだけで…でも、私がいつまでも恥ずかしがってるからいけないんですよね。
「気を付けます」
「あとさ、今日ってバイトあるの?」
「え?ちょっと立ち寄るけど、休み」
「じゃあ予定あけといて」
「はい」
なんだろう。
「これ、温めた方がいいんでしょ?」
「うん」
「なら一緒に食べよう」
「え!」
「拒否権はないから」
「でも、それ蛍くんに」
「僕が一緒に食べたいから言ってるの。文句ある?」
「ないです」
「ん。じゃあ放課後迎えに行くから、連絡して」
「うん」
恥ずかしいけど、蛍くんのこういうところは結構好きです。
2017/02/14