「(・・・暑い)」

夏休み、とはよく言ったものだ。
本丸中が遊ぶ出かける騒ぐ・・・煩わしさで溢れている。自分は休みだからと言って特にやりたい事も無く、ただその日に審神者に命じられた仕事をこなす。いつもと何ら変わりの無い日々を送っている。
今日は光忠と畑当番だった。無論馴れ合うつもりは無かったので、最初から単独行動に出た。それが今になって仇になるとは思わなかったが。

「(被り物を忘れた。水分を取れる物も無い。)」

顕現してから初めて体感する真夏というものに、この身が耐えられないと訴えかけてくる。水分が不足しているからか、若干頭痛がする。被り物をしていない故に、直で陽の光を浴びて汗が止まらない。人の身とは何と軟弱で不便なんだろうか。不満と煩わしさを覚えた。
どうにかなってしまう前に本丸に戻ろうとするも、足が重く感じて動けない。本丸から距離もある。どうしたら、

「(クソッ・・・、)」



「おーい伽羅ちゃーん。そっちどうよー?」
「・・・!」

聞き慣れた声が、少し距離がある所からする。幻聴か・・・?暑さで頭をやられてしまったのか。
足音と共に見慣れた姿が目の前に現れる。
本物、だろうか。・・・何を考えているんだ俺は。俺はまだおかしくなっていない。そんなことがあってはならない。

「うわっ、汗びっしょりじゃん。顔も真っ赤だね。ちょっと休んだ方がいいんでない?」
「・・・気にするな。」
「いやいやそう言われてもね、今の君は人間なんですよ。熱中症とか日射病になったら大変なことになるんだからね。」
「ねっちゅうしょう・・・、にっしゃびょう・・・?」
「夏の太陽なめてると掛かる怖い病気だよ。ほら、光忠さん所行こうや。」
「・・・、わかった。」

耳障りの良い、慣れ親しんだ声に安心感が一気にやってくる。嗚呼、情けない。今にも倒れ込んでしまいそうだ。
自分の先を行く影に置いて行かれるような気がして、不意にその手を握る。自分の手が熱いのか、はたまたこの握った手が冷たいのか分からないが、とても心地が良かった。

「お、どした。この手。」
「・・・」
「もしかして割とやばいんじゃないか・・・?歩ける?」
「気にするな、」
「・・・急ぐよ!」

逞しい低い唸り声と共に、自分より小さな肩に自分の腕を回された。半ば強引に、ズルズルと引きずられながら本丸へ少しずつ近づいて行った。
光忠と分かれた場所まで戻って来ると、何やら様々な物を抱えた光忠が忙しなく水分補給だ、着替えだ、手入れだと自分の周りをバタバタと動き回る。喧しい。
今は何よりも、自分が凭れているこの肩に意識を集中していたかった。何故か幸せだと感じていた。
まだ、こうしていたい。

***

「手入れしといたから、もう大丈夫ー・・・だよな?」
「ああ、問題ない。」
「良かったー。いやぁ、心臓に悪いわ。」
「・・・すまなかった。」

その後、念の為ということで手入れを受けた。もうあの不快な頭痛も足の重みも感じない。
ただ一つ感じるとすれば、隣に体温を感じない、物寂しさだろう。不思議な感覚だ。

「謝ることじゃないよ。今度からは準備しっかりして畑仕事しような。」
「それ、主にも同じこと言えるよね。」
「見かねてすぐに手伝ってやったんだから、文句言うなよ。さて、晩飯食いに行くぞぉー。」
「プチトマトはちゃんと100粒取れたから、文句なしの格好良い夕餉だよ!」
「食べれればそれでいい。」


俺はまだ、この不思議な感覚の正体を知らない。


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タイトルに特に意味はないです()