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ヴー・・・
テーブルの上に置かれたマナーモード設定の携帯が低い音を立てて震える。
これで何度目かは忘れてしまったけれど、応答したくない。する気も無い。
そこで鳴り続けているそれを伏せた顔を少し上げて眺めるだけ。
お願いだから忘れて欲しい。
自分も、貴方も。
***
私は仕事に追われる日々を送っていた。
やりがいを感じる仕事がやりたくて、幼い頃から学んで来たことを活かせると就いた仕事。しかし蓋を開けてみると想像の倍以上に体力がいるものだった。
毎日のように同じことを繰り返しやっているが、ミスをして上司や同僚に責められることが最近多く、段々自分の心に余裕が無くなっていくのを実感していた。
好きなことなので続けられているが、こうも立て続けると参ってくる。
家に帰れば誰が居るわけでもないけれど「ただいま」と言う。当然「おかえり」という返事はない。
電気も点けずワンルームの部屋に置かれたお気に入りのベッドにダイブして、鞄から携帯を取り出して画面を着ける。
パッと明るい光を放つ画面の眩しさに少し目を眩ませる。目が慣れてきて映ったのは、最近ネットで知り合った人からの連絡だった。
すぐに通知欄をタップしてアプリを開き、その内容を読む。
どんなに些細な事でもくだらない事でも、私にとっての唯一の楽しみな時間になっていた。
返信し終えてベッドから立ち上がり、部屋の電気を点ける。
晩御飯を作る気力さえ無いので、帰りにスーパーで買って来たレトルトのカレーを電子レンジで温めて、今朝炊いた白米にかけて食べる。変わり映えの無いごく一般的なレトルトの味だ。
コスパを重視して買い続け食べていたので段々口飽きしてきた頃だ。そろそろ別の物が食べたい。
食べながらテレビをぼーっと眺める。
メタトンが出ている。今日も彼は一段と輝いてる。・・・凄いな、彼は。
私も何か自分に輝きを与えてくれるようなことがしたい。アイドルとか。言うだけタダなので言ってみるだけだけど。
くだらない事を考えていると携帯のバイブが鳴った。返信が来たようだ。
「(あれ、何か雰囲気変わったかな・・・?)」
先程送られてきた内容よりも、心なしか淡泊に感じるような文章が返ってきた。
この人はこんな文章も書けたのだろうか?でもまぁそういうことってあるよね。急に敬語使いたくなったりとか。
話の内容にはズレが生じていなかったので私は何事もなかったように返信する。
するとすぐに既読が付き、返事が返って来た。
「えっ」
思わず手に持っていた携帯を床に落とす。幸いカーペットを敷いていたので携帯に損傷はなかった。
はっとして拾い、もう一度画面を覗き込む。
『好きです。付き合ってください。』
その一文だけが打ち込まれ、私のチャット欄で存在を示してくる。
そんな、私はこんなの望んでない。ましてやネットで知り合って顔も声も本名も知らない仲だ。
私は知っている。偏見なのかもしれないが、こんな出会い方では良い方向には転べないということを。
仲が良いとは言え、容易に私もですとは返しがたい。男の人だったのか・・・。(いやでもネカマとかの可能性もあるし)
だが下手に彼を傷付けるのは気が引けるし、すっぱりとお断りするのも申し訳ない気がする。
『顔も声もお名前も知らないので、もう少し考えさせていただけないでしょうか?』
さっきまでタメ口で文を打っていたのに、急に敬語なのは自分でもなかなか不思議だと思う。
送信してまたすぐに返って来た。その文章に私は目をひん剥いた。
『なら、お会いしましょう:)』
そういうことじゃないんだなー!
***
来ちゃった・・・
私はあの日、流されるままに見た目、名前を"容易に"教えてしまった。更に会う日付と集合場所まで決めてしまった。
相手も見た目は言わなかったものの、名前を教えてくれた。パピルスさんと言うらしい。
本当に不用心だ。もし怪しい人だったら・・・ていうかマジで男の人なのかな?どうしよう、今更怖くなってきた。
一人その場でうろうろとしていると、後ろから肩を叩かれた。
「い、命だけはお助けをー!!」
「ニェェェ!?俺様そんな物騒なことしないぞ!?」
「えっ・・・!?」
ばっと後ろを振り返ればモンスター・・・かな・・・骨のモンスターが立っていた。
驚きの余り、手に持っていた携帯を落としてしまった。手帳型のケースに入れていたので、ケースが汚れる程度で済んだ。いくらなんでも落としすぎでしょう私・・・。
慌てて拾おうとしたら先にこのモンスターが拾ってくれた。
お礼を言うと、どういたしましてなのだ!とにこにこしながら私に携帯を渡す。
携帯を受け取り、画面を着けて時間を確認する。何も連絡はない。
まだかな・・・?もう時間過ぎちゃったけど。
ふと目線を上げると、モンスターの彼?が私の顔をじっと見ている。何だろう・・・怖い・・・。
「・・・あーっ!!」
「ひぇっ!?」
「特徴が一致したぞ!アナタがヒロインさんだな!」
「ぁっ、はっ、はい!えっもしかして貴方は・・・」
「いかにも!グレートなパピルス様である!」
私が毎日楽しみにしていたあの時間のお相手はこの骨だったというのか。
まさか、本当に?まじまじとパピルスさんを見る。するとパピルスさんは頬と思われる所をぽっと赤く染めて、きゃっと声を上げた。
「そんなに見つめられると照れちゃうぞ!」
「ご、ごめんなさい。悪気は無くて・・・」
「ああっ責めている訳じゃないんだ。その、好きな人にじっと見られると、恥ずかしくなるんだ・・・。」
「すっ」
そういえばそうだ。そういう事を話す為に今ここにいるんだった。
ちょっと待ってよ。いくらチャットで話していると言ってもそれこそ現実のイメージとは違うよね。現に今私がそういう状況だし。多少の猫かぶりというか、自分を繕ってた部分はあったはず。
仮想空間と言えるあそこの私に対しての告白であっただろうに。現実の私を見ても好きだと言い切れるのか?その点に関してどうなのか問いかけてみようと口を開く。
「あの、」
「ヒロインさん。」
「は、はいっ」
「デートをしよう!」
「はい。って、はい!?」
「目指すは俺様の家!ゴーゴー!」
いきなりデート?しかもお家で!?あまりの急展開に頭をフル回転させる。
これはまさか・・・お家で・・・いやいやいやいやそれは無いと思いたい。
そうこうしている内に、パピルスさんが私の手を引いて歩き始めた。
手を 繋いで いる。
私が 男の人(?) と。
「ぅ、うわああああっ!?」
「ニェッ!?ど、どうした!?芋虫さんでも踏んでしまったのか!?」
「ぁっご、ごめんなさい・・・お、男の人と手を繋ぐのって初めてで・・・は、はははは・・・。」
「そうなのか?俺様も女性と手を繋ぐのは初めてだ!ヒロインさんの手は柔らかいなぁ。」
「(離してくれるんじゃないのか・・・)で、でも、これって恋人同士でやる繋ぎ方ですよね?周りからそう思われちゃいますよ?」
「ヒロインさんと俺様は恋人同士だから何の問題もないな!」
いつの間にか恋人同士になっていたらしい私達。私にそんな気は無いが、彼を傷付ける気にはなれなかったので何も言わないことにした。
やばい。本当に男の人と手を繋いでる。こんなことをするの初めてで手汗がやばい。パピルスさん手袋着けてるから分からないよね?助かった・・・。
私の隣で楽しそうに笑っているパピルスさんを見て、何だか心が温かくなったような気がした。
でもお家デートは不安しかない・・・。
これから向かうであろう場所でどうしようかと考えながら、パピルスさんの隣を歩くのだった。
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(2017/09/29)
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