▼▲▼
誰の家?
そりゃ見れば分かる。"彼の家"に違いないだろうと。
さぁ中へ!と元気いっぱいにパピルスさんが私を引き込むと、不思議な香りのする玄関が。
うわぁ、私男の人のお家に上がり込んじゃった・・・。
恋愛経験が人並み以上に少ない私にはあまりにもハードルの高い行為だと思った。緊張で手汗が止まらない。
背中を押されて奥へ奥へと進んで行くと、そこには広々としたリビングが。
ここまで広いと一人暮らしでは無いよね。でもとてもリッチな人なのかも。そんな風に勝手に考察していたら、丁度後ろにあったソファーに座るように促される。
ぽふっと柔らかいソファーが私を受け止めてくれた。高そうなソファーだなぁ・・・。
お茶を出すから待っててくれと言われお構いなくと返そうとするも、早足で消えてゆくパピルスさん。
広いリビングのソファーにぽつんと一人。
どうしてこうなったのか冷静に考えてみよう。まず私の話を聞いてもらう事が最優先じゃないだろうか。
何故私の事を好きになったのか経緯、現実とネットでの違い、それから現実の私はこんなんだという事も理解してもらわないといけない。
でも待てよ?質問攻めから始めるのってもしかして失礼なんじゃない?不快にさせてしまったらどうする?
幻滅したなんて言われてもそれはそれで・・・すごくショックだ。
何から話すのが正解なんだろう?助けて恋愛の神様・・・。
「(そうだ!)」
携帯を取り出し、検索エンジンに[初デート 好きじゃない人 会話]と打ち込んで検索する。
しかし出てくるのは好きであること前提の記事やアドバイスばかりで、恋愛対象外の人とのがヒットしない。
嘘でしょ、世の男女はこういう経験したことないの!?
ダメ元で好き同士前提の記事を読んだ。
成功する会話のネタ・・・いや別に成功したい訳じゃないけど、じゃないけど!
落ち着いて自分、ほら、ちゃんと真面目に読んで。
「(食べ物、共通の趣味、ペット、地元や出身地、家族の話題等・・・)」
なるほどそれなら無難だ。普通にお話するだけでいいんじゃないか。
よし焦らないで。落ち着いて会話するんだよ。大丈夫、私なら出来るよ。
「よぉ、お客さん。」
「あ、お構いな・・・えっ、どちら様でしょうか・・・?」
「この家に居るってことは誰でしょうね?」
ソファーが片方沈んだのでパピルスさんが戻って来たのかと思い、そちらへ目を向けるとそこにはパピルスさんではない骨が背凭れにだらんとしながら座っていた。
この家に居るってことは・・・
「お、弟さんですか?」
「・・・そう間違われるのにも慣れたさ。俺はあいつの兄だ。」
「!? すすす、すいません・・・!あの、お邪魔してます・・・。」
「ああ。どうぞごゆっくり。」
シン・・・ 沈黙が訪れる。
隣に座ったままのこの男性?が、パピルスさんのお兄さんだったとは。背が低いからてっきり弟かと思った。
どこかで聞いたことあるんだけど男の人って身長を弄られるの嫌いなんだよね?ああ私は何て事を・・・初対面で印象最悪じゃないか!
気まずい空気に包まれながら私は携帯を確認したり周りを見渡してみたり、挙動不審だという自覚はあるが何もせずにはいられない。
「なぁ」
「はっはい。」
「あいつの事、どう思う?」
「へ?えっと・・・パピルスさんの事ですか?」
「ああ。最高にクールだろう?」
「え、あ。そう、ですね。」
「だよな。 今日はお前さんとのデートだって言って、わざわざ勝負服の研究をしてたんだぜ。」
「そうなんですか・・・って、デートじゃありませんよ!?」
「俺はそう聞いてたんだがなぁ・・・まぁくれぐれもやばい事はしてくれるなよ?」
やばい事とは何だろう。
心配しなくとも今から私はお断りする・・・というか・・・ネット共々お友達でいいかなぐらいで・・・
もしかしなくてもめちゃくちゃ怪しまれてる?面識も何も無いこんな奴が勝手に家に居たらそりゃこうなるよね。
でも私そんなやばい事を出来るような勇気が無いんです。分かってくださいお兄さん。
お兄さんはどっこいしょとソファーから立ち上がり、さっきのパピルスさんと同じ方へ消えて行った。
そして入れ替わるようにパピルスさんがお盆を持っていそいそと戻って来た。
「お待たせなのだ!冷蔵庫を見てたんだがコーラしか無くてな・・・。」
「いえいえ、お構いなく。コーラ好きですから。」
「おお、そうか!・・・ところで、サンズと何か話してた?」
「サンズ?・・・あ、お兄さん?」
「ああ。何か変な事とか言われてないか?あいつは初対面の人でも容赦なく・・・寒いジョークを飛ばすんだ。」
「そ、そうなんですね。えーっと・・・特には何も。」
「なら良いんだ。ヒロインさんと楽しくお話してたのなら少し・・・いやっ!何でもないぞ!」
ブンブンと顔の前で手を振ってニコニコ笑うパピルスさん。
笑顔がまぶしいなぁ・・・部屋に引きこもってネットに没頭するだけの陰キャな私とは大違いだ。
彼は空いている私の隣に腰掛けて、ぴったりと私にくっついた。
「近くありませんか・・・?」
「ニェッ、駄目か?」
「えっと、だ、大丈夫です。」
「そうか!ハグもしちゃうぞ!」
「う、うわあああっあ、あのあのあの、は、恥ずかしいです!」
「照れているヒロインさんも可愛らしいなぁ〜!」
「かっ?」
私の頭を撫でながらぎゅっとハグしてくるパピルスさん。初対面なのにも関わらず近すぎる距離感に私はパニック状態だ。
駄目よヒロイン、しっかりして!聞くべき事を聞くの!
「ぱ、ぱぷっ、パピルスさん、あの!」
「む?どうかしたか?」
「私の事好きですか!?」
違うよ!落ち着いて!これじゃあ重い女みたいな質問じゃないか!
(例:私の事なんか好きじゃないんでしょ!馬鹿ッ、もう知らない!)
突然の意味不明な質問に一瞬きょとんとするパピルスさんだったが、私を抱き締める力を更に強めて笑顔で口を開いた。
「勿論だぞ!ヒロインさんの事だーいすきなのだ!」
「あ、ありがとうございます・・・。」
「ヒロインさんも俺様の事好き?」
「えっ。・・・お友達として、はい。」
「ニェッ?俺様達は恋人だぞ?」
「まだ私を好きになったきっかけとかも知らないので・・・その、私の好きな所って何でしょう・・・?」
少し間を置いて腕を組み、うーんと考え始めるパピルスさん。
すぐに思い出したと言わんばかりにあっ!と声を漏らした。
「ヒロインさんの作るパスタが凄く美味しそうだったからだ!」
「え?」
「SNSに写真を上げていただろう?それを見て俺様も見習わないとなって思ったんだ。」
「あれは冷凍食品で、レンジでチンすれば出来る物ですよ。」
「な、何だと!?」
パピルスさんとは某SNSで知り合った仲だ。
突然何の前触れも無しにフォローされて、一応私もフォローを返した。
そういえば、今日の晩餐とか言って上げた冷凍食品のパスタの写真にいいねが付いたんだった。
そんなパスタの事で?私を好きな事と関係ある・・・?
「ヒロインさんは料理家じゃない?」
「いえ、私はしがない社畜ですよ。」
「もしかして・・・料理が出来ないのか?」
「うっ!そ、そうですね・・・得意ではないです。晩御飯もレトルトで済ませてますし・・・。」
私は特別料理が上手い訳じゃない。かと言って何も出来ないのかと言えばそうでもない。
作るにしても時間が惜しいから出来合いの料理を選んでしまう。女子力なんてあったもんじゃない・・・。
パピルスさんは私の両肩をがっちりと掴み、自分の方へ向けた。きらきらとした真っ直ぐな眼差しが私に向けられる。
「なら今度から俺様の家に晩御飯を食べに来るといいぞ!」
「へっ?」
「仕事が終わったらここへ直帰すればいい。このグレートシェフ、パピルス様が最高に美味い料理を振る舞おう!」
「そ、そんな。悪いですよ。」
「俺様を気遣わなくても大丈夫だ!ヒロインさんの為なら何だって出来るからな!」
「ひええ・・・」
今日からパピルスさんのお家で晩御飯を頂くことが(強制的に)決まってしまった。
****
(2017/10/25)
▲▼▲