前方にあるのは青色。
それはこてん、と首を傾げさせる。ニヒルな笑みは私が見慣れているのと同じだった。
そうか、助けに来てくれたんだ!
一歩足を前に出したら、クロスの片腕にその先へ行くことを阻まれた。


「アンタは後ろにいろ。」
「どうして?きっと彼、助けに来てくれたんだよ。ねぇサンズ、そうでしょう?」
「いいから下がれ!」


赤い眼が私を睨むようにして、下がれと訴えてくる。その圧に逆らえず、クロスの背後からほんの少し離れた。
サンズは首を元の位置に戻し、クロス越しの私を見て何か喋っている。
ふと目が合った、その瞬間、サンズの目からどろどろと黒い液体状の何かが溢れ出てきた。驚いて思わず言葉を失う。
heh、と短く笑う声はやはり私の知っている声と同じだ。そう思ったのも束の間、サンズは声高らかに笑い声を上げた。
一頻り笑うと彼の声は低く戻り、再び言葉を喋り出す。


「見つけた。見つけた見つけた、ヒロイン。会いたかったぜ。」
「え、ええ・・・私も会いたかった。貴方がサンズならの話だけれど。」
「おかしな事を言うんだなぁ、ヒロインは。どう見たってヒロインの大好きなイカしたスケルトンだろう?」
「そうね、えーと・・・その黒い涙みたいなのを除けば、かも?」
「おい、まともに相手するな。あいつはアンタの知ってるサンズじゃないんだぞ。」


突然クロスがサンズに向け、風を斬る様に大きく刃を振った。
それを軽々と避けたサンズ。手には何と、クロスのよりは小さいけれどナイフが握られているではないか。


「お前さんもこのゲームを随分と楽しんでるみたいじゃないか。お姫様まで後ろに付けて、勇者気取りかい?ああ、それとも王子様・・・か?」
「ッ、アンタには関係ない!」


一定の距離を保ちながら視線を交わす二人。
クロスの足が少し動いた、両者同じタイミングで相手に斬り掛かって行く。
キンッ、と刃の交わり合う音が響く。
一体どうしてこんな事に・・・!止めようにも私は丸腰 下手をすればどちらかのおこぼれを受けてしまうかもしれない。
交互に彼らの姿を目で追う。
サンズの方を見た、しかし彼が私の視界に映る事は無かった。
ひやりと首元に冷たさを感じて、目線をそこへ下ろしていく。

ナイフ ナイフの鋭い刃先が、ほんの少しだけ突き立っている。息を飲んだ。
つかまえた 声が耳元で聞こえる。


「ヒロイン!」
「hm・・・ああ、いい匂いだ。他の連中が執着するのも何だか分かる。お前さんもこの匂いに釣られたのか?」
「他の奴と一緒にするな!そいつはアンタなんかが触れていい奴じゃないっ!」
「おお、怖い怖い。勇者様はお怒りのようだが・・・ヒロイン、お前さんはどうしたい?」


刃先で首筋をなぞられて、血が下へと伝って行くのを感じた。
このサンズは危険だ。
漸く、いや・・・今更私の中の危険信号が点滅し始めたようだ。
震える唇と体が、彼に答えようとするのを阻んでくる。未だに黒い液体が流れているブラックホールのような眼が、私の眼を見る。
こわい 見知ったサンズじゃない こわい

ぎらり

ぞっと、強い気を感じた。
気を感じた方に目線だけ動かす。それはクロスから放たれる物だった。
左右色の違う彼の目が、私を拘束しているサンズ目掛け凄まじい殺気を向けているのだ。


「そいつを離せ。今すぐに。」
「ワオ・・・これはやりがいがあるな。だが生憎、誰も殺すなって忠告されてるんでね。」


拘束されていた体が自由になる。力が抜けてしまって、尻もちを突くように地面に腰が下りた。
呆然とする私の目の前に、クロスがぱっと現れた。きっとこれはサンズの近道と同じ物なのだろう。
両肩を掴まれ、次第に彼の白い手指が私の全身を何か確かめるように触れ始める。
ほっと、安堵したクロス。その隣にはまた高笑いする骨が。


「Ah-,hah・・・こりゃ傑作だぜ。溺愛されてるな、お姫様。」
「・・・私はお姫様なんかじゃないよ。」
「だとよ。王子様と勇者様気取りのクロスくん。振られちまったな?」
「煩いっ!早くどこか行けっ!!」


くわばらくわばら、サンズはクロスを煽る様にしてから背を見せた。
かと思えば身を翻してパーカーのポケットに手を突っ込み、私とクロスの前まで歩いて来る。
また何かされる、体を強張らせて目を瞑った。
額にこつりと軽く、硬い物が当たった。目を開けると楽しそうに笑みを浮かべているサンズ。


「王子様に飽きたら僕にチェンジするのが吉だ。」
「は、はぁ。」
「はっ・・・早く行けーーー!!!」


クロスの大きな声だけが、壁も無いはずの空間で反響して聞こえるのだった。



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(2018/04/02)