真っ白な空間を、進めているのかは分からないけれど前へ前へと一歩ずつ踏み出す。
クロスはただひたすらに歩み続け、その後ろを私が付いて行く。彼は歩くのが速い上に、そのペースが落ちる事が無い。
少し疲れて来たな・・・段々この何も無い空間を見続けるのにも飽きてきた。
休憩がしたい。クロスの服なのかマフラーなのかよく分からない構造の物を軽く引っ張り、声を掛ける。
びくりと肩を跳ねさせた彼は、ハァ・・・と溜め息を吐き、呆れたような困ったような顔だけがこちらを振り向いた。


「アンタはどうしてそう急なんだ・・・」
「話し掛けるのなんていつだって急でしょう。疲れてきたから、休憩がしたいの。」
「早くここを出たいんじゃないのか。」
「どうせ先は長いわ。ほら、クロスも座って座って。少しお話でもしよう?」
「別に話す事なんか・・・、分かったよ。」


足を伸ばして楽な体勢で座った私の隣に、クロスも渋々と胡坐をかき、顔を俯かせて座った。
彼と私の目が合う事が無い。大体俯いているか目線が下を向いているかのどちらかだ。出会った時からずっとこんな調子なので、別段気にする事でもないか。
それからクロスは頻繁に独り言を言う。それも何かに語り掛けるような口調で、だ。もしかして見えてはいけない物でも見えているのだろうか・・・こんな事を考えるのは失礼ね。やめよう。
ぼんやりそんな事を考えていると、再び深く息を吐く声が。はっとして焦点を彼にしっかり合わせれば、不満そうな顔をしていた。
何も無いんだな、そう言って立ち上がろうとするクロス。慌てて彼の服の裾を掴んで止める。


「待って、違うんだよ。えーと・・・そう、クロスの事を考えていたの。」
「俺の事?」
「うん。私と目を合わせてくれないなぁ、とか。」
「それは・・・」


言葉を詰まらせたクロスは首に巻いている物で口元を覆うと、ぼそぼそと何かを呟き始めた。
何を言っているのだろうと少し気になって耳を傾けてみる。
「お前には関係ない」とか「センパイの事はいい」だとか、まるで何者かと話をしているかのような言葉が聞こえる。
その声は段々大きくなり、覆われていた口元が露わになっていく。ついには耳を澄ませなくても聞こえるようになった。しかし、早口で何を言っているか聞き取りづらい。

暫くそんなクロスの一人劇が続いた。
立ち上がったかと思えば頭を押さえて下を向き、首を大きく左右に振って「もういい!!」と声を張り上げた。
漠然と彼の顔を見ていたが、流石にこれは放って置く訳にはいかないと思い、立ち上がる。
フー、フー、と短く息を切らしている白い背中を優しくぽんぽんと叩くと、相変わらず肩を跳ねさせたが大人しく、私の腕を振り払う事はしなかった。

落ち着きを取り戻してきたのか呼吸が元のペースに戻ったクロスは、大丈夫だから離してくれ、と言う。
そっと背中から手を離した。彼はばつが悪そうな顔をして目を右往左往泳がせている。


「落ち着いたかな?」
「ああ、」
「ok.良かった。」
「・・・もう、行かないか。」
「うん。クロスがそう言うなら。」


ふ、と進むべき方向、前方を見る。
すると、そこには本来あるはずの無い、色が見えた。
驚いて小さく声を漏らすとクロスも後ろを振り返る。げっ、と、それはそれは嫌そうな声が上がったのを私は聞き逃さなかった。



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(2018/04/02)