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広々としたリビングに大きな食卓。
暖炉では薪がぱちぱちと音を立てて、ほんのり柔らかい橙色に燃えている。
食卓の椅子にトリエルと向かい合って座り、彼女が作ってくれたバタースコッチシナモンパイを食べながら様々な話題に花を咲かせていた。勿論取材という体で!
ここで過ごしていて楽しかった事、こんな事が起きたとか、トリエルはジョークや駄洒落が好きだとか。
彼女にとっては何気ない話でも、私の知らない世界の話を沢山聞けてとても楽しい。
・・・うっかり本来の目的を忘れてしまいそうだ。


「エマのお話も聞きたいわ」

「私は…ん、今年になってから全国各地を飛び回るライターとして働き始めたの」

「全国各地?それって何かしら?」

「地上には数え切れない程の国…偉い人が治めてる領地って言うのかな。そういうのがあって色んな国に訪れたり、後は自分の生まれた国のお店とか有名な人とかに取材しに行くんだ」


私は仕事が好きだ。
周りに何と言われようが私が書いて公表した物を、信じようと思う者だけが信じればいい。
一人で動いて一人で好きなように表現する。それが出来るのはライターの醍醐味だと思っている。
両親からは絶大な信頼を受けていたが、この仕事に就いたことで裏切ってしまったも同然。
「あまり目立つ事はしないで」と散々言われ続けていたにも関わらず、私はやりたい事にだけ信念を貫いた。周りを裏切ってでも自分を表せる物が欲しかったのだ。
"信じ合えるお友達"なんていた試しが無いし、欲したところで私が何かしらのアクションを起こして裏切ってしまうに違いない。せめて上辺だけでも楽しそうに振る舞えば、他人を傷付けるなんて理にかなわない事はせずに済むだろう。
そう考えながらこれまでを生きていた。


「エマは色んな国の色んな事を知っているのね。凄いわ!」

「まだまだ未熟者だから先輩に付いて歩くぐらいしか出来てないけどね」

「それでも立派じゃない。自分だけでは分からない事って沢山あるから、誰かから学んで吸収するのはとても大事だと思うの」

「もう、人を褒めるのが上手なんだから」

「思ったままの事を言っているだけよ。大事な大事なお友達ですもの、私はエマを応援しているわ」


"友達"
たった一つの単語に心が温かくなるのを感じる。まだ出会って数時間しか経っていないというのに、私との関係を取材する側される側の堅苦しい物ではなく、大事な友達だと言ってくれるなんて。
何だか少しくすぐったくて、頬を掻いた。


「それじゃあ今は一人で動き回ってるのかしら?」

「うん。今回のは一人でやるにしては大きすぎる仕事で、本当に驚いてる。その分皆に期待してもらってるってことだし、頑張らないとね」

「…そう、ねぇ」

「トリエルは地上に繋がる抜け道とか知らない?教えてくれた事を早くまとめてみたいの」

「…」


再びトリエルの表情が曇り、今度は口を噤んでしまった。
何か気に障るような事を言ってしまったのだろうか。記事にされるのが嫌なのかな。だったら謝らないと―
彼女にごめん、と謝罪すると「いいのよ」と小さく囁くような声が返ってきた。


「エマはきっとここにいてはいけないのよね」

「トリエル?」

「分かっていたの。アナタがずっとここに留まることは出来ないって、お仕事があるからいずれは出て行かなきゃいけないって」

「ねぇ、どうしたの?」

「…ここから出る方法が知りたいのね」


座っていた椅子からゆらりと立ち上がるトリエル。そのまま何も言わずにリビングから出て行き、私はその場に一人取り残される。

相手を不快にさせているかもしれない 途端にぐわっと嫌な物が押し寄せた。
あー、どうしよう。彼女は折角私を友達として受け入れてくれたのに。やっぱり綺麗な友情なんて、自分も相手もこんな理不尽に辛い思いをするぐらいなら要らないな。
暫くそこで足元を見ながら呆然と立ち尽くしていると、戻って来たトリエルが私を見て慌てて駆け寄った。
どうしたのだろう。彼女の姿をよく見ようと顔を上げると視界がぼやけた。
やだ、私もしかして泣いてるの?


「ごめんなさい、エマ…悲しませるつもりは無かったのに…」

「ううん。私の方がごめんなさい、トリエル」

「エマは何も悪くないわ。アナタにちゃんと説明しないといけない事があるの、聞いてくれる?」


その前に、水分を取らないといけないわね。

トリエルはそう言うとキッチンからいそいそとティーセットを運んで来て、ふわりと花の香りがする温かい紅茶を淹れてくれた。
再び椅子に腰かけ、テーブルの上にあるティーカップを見る。一口含むと優しい味が口の中に広がった。
すっかり視界も良好になったので「もう大丈夫」と精一杯の作り笑顔でトリエルに伝えると、彼女は少し困ったような笑顔で「無理はしなくていいの」と言った。
どうしてそんなに優しいんだろう、優しさってこんなに心に刺さる物だったかなぁ。