この遺跡を越えた先にある"地底"の世界について、トリエルが知っている事を話してくれた。
まず彼女が"モンスター"だという事。まさか本当にモンスターが存在していたなんて、とても驚いた。
遥か昔に人間とモンスターが対立し、敗北したモンスター達は人間の手により地底に追放される。
そんな話は小さい頃に聞いたことがあるような、記憶がぼんやりとしていて、思い出せないな。
彼女達が再び地上に戻る方法はただ一つ。
七つの人間の"タマシイ"を集め、それらをモンスターが取り込む。タマシイを取り込んだ者にはとても強い力が宿り、地底と地上の間に存在する"バリア"が破られる。そうして地上に出られると言うのだ。
モンスターの王様である"アズゴア"が、これまで地底に落ちて来た人間達のタマシイを狩り、今では六つのタマシイが集まっている。
つまりそれは
「私が七つ目って事ね」
「…」
「なるほど、こんなに奥が深かったなんて」
「…まぁ、ふふふ…エマったらこんな時までそれなのね」
「あ…」
無意識の内にメモとペンを取り出して、トリエルの話してくれた事柄をメモに取ってしまっていた。
顔は彼女の方を向いていたので、正直何と書いているか読めないくらい汚い字になっていて意味が無い。もしかしてこれは悪い癖なんじゃないかと思い始めた。
手に持っている物達をいそいそと食卓の端に寄せて、咳払い一つ。再び彼女の方に向き直る。
「大事なお友達を見殺しにするなんて私には出来ない。ここを出て行けばアズゴアに、他のモンスター達に……ねぇ、ここでの暮らしも悪くないのよ。皆と仲良くお話して、遊んで…素敵な出会いだってあるかもしれないわ」
「私もそう思う。皆トリエルみたいにとっても優しい人達だったもの」
「エマ、アナタは本当に…いいえ、駄目ね。私に止める権利は無いわ」
彼女が私を思って話してくれている事も、自分の為にと言っている事も分かる。
地上に戻るべきか、それともここに留まり続けるべきなのか。
仮に後者を選んだとしても、私はきっと自分の中で抑えきれない衝動に駆られ、地上に出ようと試みるかもしれない。
ならば、初めから立ち向かおう。私はモンスターに攻撃する力なんて持ち合わせていないし、トリエルと同じように上手く話せるかの保証も無いが。
例え殺されてしまっても、それはここへ落ちてしまった故に書き替えられた私の運命だったのだと諦める他無いだろう。
「私、ここを出たい」
「そうよね。エマならそう言うと思っていたの」
トリエルの手が私の前に伸ばされる。何かと問えば私の掌を出して、と促された。
自分の掌を差し出すと、ぎゅっと白い手に包まれて何かを掌に握らされた。
彼女の手が離れていき掌を見れば、そこには光沢のある立派な万年筆が。
「わぁ、綺麗!これは?」
「お守りよ。エマのお仕事で、役に立てたら良いと思ってね」
「すごく素敵…けど、貰っちゃってもいいの?大事な物じゃない?」
「私では持て余してしまうわ。持つべき人に使ってもらった方が、ペンもきっと幸せだから」
「ありがとう…大事に使うね」
トリエルは私を信頼してくれてるんだな、と思うと胸が熱くなった。
きらきらと光が反射して綺麗な万年筆 無くさないようペンケースにしまう。
ここまでしてくれたトリエルに感謝の意味も込めて約束をしよう。彼女の手を取り、口を開く。
「トリエル、私は絶対に死なない。モンスターさん達は優しいんだもの、出会った人達皆と友達になるの」
「エマ…」
「約束する。誰も傷付けたりしないし、私に優しくしてくれた人の事も絶対に忘れないよ」
「ふふふ…アナタはとっても頼もしくて優しい子ね」
はたはたと彼女の瞳から涙が零れて、今度は私が彼女の目を拭ってあげた。
嘘、頼もしくて優しいなんて、そんなの嘘。
私が誰かにとってそう在りたいだけで、貴女は本当の私の顔なんて知らないの。
それでもほんの少しだけでも頑張ってみようと思えたのは、何故なのだろう。
誰かと絆を通して支え合うって、重たいようで、ちょっぴり心地が良い。