門を潜り抜けている途中、突然眩い光が私に襲い掛かった。
聞いたことも無いはずなのに何故だか懐かしく感じる声が頭の中で響く。
古くからの知人とでも言うような雰囲気で語り掛けられ…ノイズが混ざっているようではっきりと聞き取れない。
…君は魔法…使えるんだ…
覚えて…て損は…かな
エマ…で…よ!
私が魔法を使える?そんなまさか。私は人間だし、今まで使えた試しがない。
もしかしてこれもモンスターが私をこちらの世界へ行かせない為の仕掛けなのだろうか。歓迎されないのは重々承知の上だ、今更驚くことではない。
不思議な声はフェードアウトしていき、辺りの眩しさも少しずつ収まっていった。
***
「へっくし!」
寒い
門を抜けた先には何と雪が積もっていた。落ちた時から何ら変わりの無い服装の私には、この寒さがとても辛い。
まだまだ長い道が真っ直ぐと続いているこの先で、どんな出会いが待っているのだろう。元気を出して行こう。体を動かし続けていればきっと暖かくなるはずだ。
…というか何故地底に雪が?
そうだ、写真を撮ろう。バッグの中からカメラを取り出す。
なるべく広い範囲を写す為にカメラを構えながら後ろへバックして行くと、トン、と何かにぶつかった。
木にでもぶつかったかな。後ろを振り返って確認すると、そこには
「おっと。尻で挨拶されるとは、こりゃ驚いた」
「すいません…?」
「仕込んでおいたブーブークッションも意味が無いや」
青いパーカーに黒いハーフパンツ、それからピンクのスリッパなのかサンダルなのか。それらを身に纏う骨が、私の背後に立っていた。左手には膨らんだブーブークッションが握られている。
どうやらこの骨にぶつかってしまったらしい。この人もモンスターだろうか?
「ああ、オイラはスケルトンって言う種族のモンスターさ」
「え?あ、ありがとうございます。何も言ってないのによく分かりましたね」
「アンタの目がそう言ってるんだよ。まぁ、分かりやすくて良いじゃない」
「それはお恥ずかしい…」
目は口程に物を言うとはまさにこの事。
そんな風に他人に言われたのは初めてではないが、初対面の人に指摘されると物凄く恥ずかしい。
立ち止まっていたせいか、段々体温が下がってきているような…足をぴったりと合わせ、両腕を手で擦る。
包み隠さずに寒いですとアピールする私を見たスケルトンさんが首を傾げた。
「何だアンタ。寒いのかい」
「はははい。ちょっとここに来るには薄着過ぎまし…へっ、くし!」
「確かにその格好は見てて寒いな。これでも羽織っておきなよ」
私の腰辺りに、スケルトンさんが羽織っていた青いパーカーが差し出された。
パーカーの下に着ている半袖一枚の状態になったスケルトンさんは、とても寒そうに見える。
ぐいぐいと押し付けられるので、気が引けるがスケルトンさんの手からパーカーを受け取った、その時。
打楽器でも叩いているような大きな音がパーカーのポケットから鳴り響いた。
驚いて、受け取ろうとしたパーカーをうっかり雪の上に落としてしまう。
「ハハ、良いリアクションだ…それはオイラの携帯だぜ。」
「け、携帯?」
「着信音。パーカーの中にあるから打楽器の音。パーカーだけに、な」
「…打楽器、パーカー…まさか、パーカッション?」
「ああ、その通り」
「んふっ、ふふ…すごい、お上手ですね」
ここへ出る前に沢山聞いてきたジョークと同じようで、不意に笑えた。
モンスターは無条件でそういうのが好きなのだろうか?そうだとしたらとても陽気で憎めない。
目を丸くしたスケルトンさんがまるで珍しい物を見たと言わんばかりの眼差しで、くつくつと笑う私を見ている。
直ぐにさっきと同じニヒルな顔に戻り、目線を私から逸らすとパーカーを拾い上げた。そしてポケットの中から携帯を取り出して、再び私に差し出す。
ご厚意に甘えて受け取ったパーカーを羽織ると不思議な香りが。骨の匂いかな?でもまたちょっと変わった匂いもする・・・。
「それはそうとアンタ、ニンゲンかい?」
「は、はいっ!すいません、申し遅れました。私こういう者なんですけど」
「こりゃご丁寧にどうも。 …ふぅん、ライターねぇ」
「ええ。休日に山登りしたら、ここへ落ちちゃって…」
「そりゃ災難だったな。折角だから、この辺をハイキングでもしてみたらどうだい?面白い物が見れるよ」
面白い物?
スケルトンさんが真っ直ぐ指差す先に目を向けてみた。が、何ら変わり映えの無い雪景色だ。
しかし何処かからドドド……という除雪機とかそういった類の音が聞こえる。段々その音が近付いて来ている気もする。
指差された先に何かが見えてきて、目を細めて窺ってみると人影のようなものが。それが次第にはっきりと浮かび上がり、やはりこちらに近付いて来ていたのだと分かった。
ザッと人影が私達の少し離れた所で立ち止まる。除雪機のように雪をかき分ける人物を、未だかつて見たことがあっただろうか…いや、無い。