ざくざくと雪道に足跡を残して歩く。
この足跡で居場所がバレてしまうかもしれない…
そうだ、折角魔法が使えると分かったんだ。紙に何か身に着けられそうな物を描いて、それを身に着ければ上手く変装してやり過ごせるんじゃない?
バッグの中からメモ帳と万年筆を取り出して、ベレー帽とマフラー、それから手袋を描く。色は頭の中で想像して、それぞれ目立たないように黒と白で統一する。
立体的になって生まれたそれらを身に着けると、ふわふわと暖かくてつい顔が綻んだ。
そういえば、サンズのあのパーカーはどうなったのだろう。パピルスさんの部屋にいた時点で無かったから、もうサンズの手元に戻ってるかな。そうであることを願おう。
歩き続けていたら、目の前が真っ白な霧に覆われ視界が悪くなった。
足元に気を付けながら少しずつ慎重に一歩一歩進めて行くと、顔の前に何かぶつかり「わぶっ」と変な声を上げてしまった。その正体ははっきりとは分からないが、人…モンスターのようだ。
「すっ、すいません」
「こちらこそ、余所見をしてました」
完全に聞き覚えのある声がして、私の顔が段々青ざめていくのが分かる。
これは紛れもない、私を捕らえた彼だ。
マフラーで鼻まで隠してベレー帽を深々と被り、足早に彼の先を進もうとした。が、肩を掴まれ阻止されてしまう。
「何か…?」
「オレ様この辺で人探しをしてるんだけど、こういうニンゲンに心当たりはありませんか?」
いつの間に撮られたのか、彼が私に見せているのは真顔の私の写真だ。
目の前にいるのだけれど今は人違いです。
「見てませんね…」
「そっか、残念…ご協力ありがとうございました!」
「お力になれず申し訳ないです。で、では」
今度こそ、彼の横を走って通り抜ける。しかしそれが仇になってしまい、ベレー帽がぱさりと雪の上に落ちてしまった。
慌てて拾おうとしたが霧のせいでよく見えない。
早く拾わなきゃ、どこに落ちたの…!
「あれ?お姉さん、帽子落としましたよ」
「あ、あーあ、あありがとうございます」
「…ん?あー!!キサマ変装をしたな!?」
「人違いですって!!」
「そんな訳ないぞ!!オレ様の目を欺こうとしても、むーだーなーのーだー!」
「はっ、離してください〜!」
再び米俵担ぎで、あの小屋へぶち込まれた。
***
何度か魔法で身に着ける物を変えてみたり、別方向へ向かおうとしたりした。
しかし彼はどこへ行っても現れるし、私の正体を見抜く、そして私は捕らえられて小屋に戻される。もはや無限ループだ。
戻される度に小屋の何かしらが変わっている。
ドッグフードが粗びきのホットドッグになっていたり、彼の心境を綴った置き手紙の内容が少しずつ疲れてきていたり…私が逃げないように施したらしい。
何だか段々抜け出すことが馬鹿らしく感じられてきた。
それでもここで死んでいられない。まだほとんど何も知れていないし、それにもっと沢山のモンスター達と話がしたい。ここにやって来る前にトリエルとした約束を果たすためにも。その思いは捕らえられる度に募るばかりで。
私は勢いよく小屋の外へ出る。再び霧の深い所までやって来ると、また何かにぶつかった。この背の高さは彼以外にいない。
「もう、ニンゲンッ!キサマがあそこからいなくなる度に心配するんだからねっ!どうしてキサマは諦めないのだ?」
「この先に進みたいからです」
「じゃあ、何で先に進みたいの?」
「約束があるから」
「約束?」
「ここに来る前に友達とした約束…だから、今諦める訳にはいかないんです」
彼の胸辺りを弱く押した。勿論それで彼はダメージを受ける訳でもなければ、動じる訳でもない。
どうせ私の話になんか聞く耳を持たず、またあの小屋にリスポーンされるんだ。
そう考えたら何だか悔しくて悲しい、後ふつふつと言葉にならない怒りが沸いてくる。
色々な感情が入り交じっているように感じられてもう耐えられない。ぼろぼろと目から涙が零れてきた。
「泣き落とし作戦か?ふ…このパピルス様がそんな物に騙されるとでも?」
「泣いてませんから、う、ぅっ…」
「……だー!!泣くんじゃないッ!ほら、戻るぞ!」
***
また同じように小屋の中へ戻される。
しかし今回は違うことが一つ、体育座りをして膝に顔を埋める私の前に正座で彼が座っていることだ。
その内いなくなるだろうと思っていたが、一向に気配が無くならない。
少し顔を上げてみると、彼と目が合ってしまった。彼の顔が少し戸惑ったような顔になる。
「もう疲れたでしょ…オレ様は疲れたぞ。いい加減諦めたらどうだ?」
「嫌です」
「そ、そうか…友達との約束は破る訳にはいかないもんね」
分かるなら通してくれたっていいじゃないか。
でも…私を捕らえたいのも分からなくはないのだ。私のタマシイが手に入ればそれでモンスター達が地上へ出られるのだから。
早くしないと殺されるかもしれない。今こうして私が油断している内に、目の前の彼が不意を突いて私を殺す可能性だってある。
思い付く限りの案で逃げていたけれど、四方八方塞がってしまって疲れた。今は何もしたくない。
また目にじんわりと涙が滲んできたので膝に顔を埋め直す。そしたら、私の体をぎゅっと抱き締められたように感じた。
「…何してるんです」
「ニンゲン、オレ様はキサマの本当のキモチを知れて感動した。だからオレ様はそれに応えなければならない、そうだろう?」
「はい…?」
「キサマはこう思っている…ロイヤル・ガードの一員(となる予定)のこの偉大なるパピルス様と、友達になりたいと!そしてその暁には、オレ様との約束も果たさねばならないのだと!!」
「ええっ?」
「照れなくてもいいぞ!デートはまた今度にしてやる、まずはお友達止まりから始めようではないか!」
一体どうしてそうなったのか。彼の突然の発言に私の頭が付いていかない。
抱き締められたまま、今度は頭を撫でられた。身を捩って抜け出そうとしたが彼の体はびくともしない。
諦めて撫でられ続けていたら、不思議なことに少しずつ落ち着いてきた。
「友達を殺すなんてそんなヒドイ事出来ないからな、キサマを逃がしてやろう。さぁ!受け入れるがいい!」
「私と友達になりたいんですか?」
「べ、べっつに!オレ様は友達なんて何百人もいるし、オレ様と友達になることを断ればキサマがすごく後悔するだろうなって思ってるだけだし!!」
「…ふふ、分かりました。私とお友達になってくれませんか、パピルスさん」
「や…やったあー!初めてニンゲンの友達が出来た!!」
パピルスさんはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。その笑顔に今までのマイナスな気持ちが晴れていくようだ。
「今日は記念日だ!オレ様の家に特別に招待してやろう、ニンゲン!」
「ニンゲンじゃなくて、エマです。友達同士なんですから、名前で呼んでくださいね」
「あれ名前だったの?ゴホン…では、エマをオレ様の家に招待する!」
行くよ!とパピルスさんがまた私を米俵のように担いだ。
そして小屋のすぐ隣のロッジのような建物の扉を開けると、私をその中へと招き入れるのだった。