パピルスさんに米俵担ぎされたまま建物の中に入れば、外とは空気が変わってとても温かい。
とすん、と優しく下ろされ漸く地に足を着けることが出来た。こっちだぞ!と手を引かれてパピルスさんに付いて行くと、中は人間が暮らすような家の作りになっているのが見て取れた。
ここがパピルスさんのお家かぁ。ということは、トリエルだけに限らず他のモンスター達も人間と同じように生活する知恵が身に付いているんだ!後でメモしておかなきゃ。
座って待ってて、とソファーに誘導される。ソファーの前に回ると、そこには見覚えのある骨がごろんと寝転がっていた。
そうだ、二人は兄弟だったのだ。
「サンズさん」
「おいおい、さんはいらないって言っただろ」
「あ、そうでしたね。お邪魔してます」
「うい」
片手をひらひらさせて、気怠そうに返事をするサンズ。あの青いパーカーを羽織っていて、きちんと彼の手元に返っていたのだと安堵した。
それにしても…何故彼は私が人間であると知っていても、狙わないのだろうか?
「お疲れのようで」
「え?ええ、まぁ」
「言い忘れてたけど、アイツは筋金入りのニンゲンハンターでね。その様子じゃ…結構苦労したようだな?」
「そうですね、パピルスさんと沢山鬼ごっこしてきました」
「ハハッ、そいつぁ良い。ま、オイラはニンゲン捕まえるとかどーでもいいけどな」
目を閉じてだらーんとしながら喋るサンズ。
パピルスさんが「"また"油を売って」と言っていたし、彼は案外面倒臭がりな人なのかもしれない。正面にあるテレビが点けられているが、サンズは多分見ていないだろう。
というかテレビもあるんだ!ワーワーと音声が流れているテレビの前に近付いて、どんな番組がやっているのか見てみた。
この番組では箱型で車輪の付いたロボットのような物が司会を務めているようだ。周りの盛り上がりようがとても熱狂的で、私も思わず圧倒される。
モンスターの世界にも、スターという存在がいるのだと感動した。私の手はすぐにでもメモを取りたくてうずうずしている、でもそれは後だ。誰かの目に付かないようにやらないと、怪しまれちゃうから。
つい前のめりでテレビに齧り付いて番組を見ていたが、ここは人の家だということを思い出す。
テレビから離れて、改めてサンズにパーカーのお礼を言おうとしたが、彼はソファーから忽然と姿を消していた。周りを見ても見当たらなかったのでどこかへ行ったのだろう。仕方ない、お礼はまた今度だ。
サンズの温かみが残っているソファーに腰掛けると、パピルスさんが戻って来た。何やら後ろで手を組んでいるようだが…彼はにこにこと笑っている。
「んふふ…エマよ、スパゲティは好きか?」
「はい、好きですよ」
「そうかそうか!なら、このパピルス様特製スパゲティを御馳走してやろう!特別にお友達価格で0円だよ!」
「わぁ…美味しそう!食べてもいいんですか?」
「勿論だぞ。エマはこのスパゲティに魅了され、オレ様の虜になり・・・オレ様以外の事を考えられなくなるという戦法だ!!ああっ、何て天才的なパピルス!」
「パピルスさんとはもうお友達止まりですから、それ以上は望めませんね?」
「そうだ、お友達止まり…じゃぬあああい!!いいかエマ、お前は今からこのスパゲティに魅了され「いただきます!」…」
ご丁寧に、近くにあったテーブルをソファーの前まで運んでくれたパピルスさん。
そのテーブルの上に置かれたフォークを使ってくるくるとスパゲティを絡め、スプーンの上に乗せる。そして一口分を口に含み咀嚼した。
…すごく、個性的な味がする。
決してまずいわけではないのだが。モンスターの料理だから、人間の口には合わないのかもしれない。
目の前で私の感想を待っていますと言わんばかりに、こちらを見ているパピルスさん。
残すのは失礼だと分かっているので、精一杯作った笑顔で「美味しいですね」と言えば「だろう!」と彼は誇らしげに胸を張った。
「これでエマはオレ様の虜だ!もう抵抗出来まい!」
「スパゲティが無くとも、私はずっとパピルスさんのお友達ですよ」
「うんうん、分かって……だから!そうじゃ!ないいいッ!!」
「ふふ、冗談です。パピルスさんとはお友達以上の…大親友になれたらいいと思ってますからね」
「今はそれで勘弁しよう。だが、時期にお前は絶対にこう思う!ロイヤル・ガードの一員(になる予定)のグレートなパピルス様とそれ以上の「御馳走様でした!」……」
何とか全部食べ切れた…手を合わせて御馳走様の挨拶をすると、ぽたりと私の手に雫のような物が落ちて来た。
何だろうと手を確認するとやっぱり雫で。
パピルスさんが焦ったように私の顔を腕で擦り始めた。い、痛い!
「どうしたのエマ!?腹が痛いのか、感動してるのか、喜んでるのか!?」
「え、え?」
「ちゃんと言ってくれないとオレ様、分からないよ…」
「あ、あれ?私、悲しい訳じゃ…でも…あれ?」
「うわあああ!!何でそんなに泣くのおおお!?」
パピルスさんの言う通り、私は何故かぽろぽろと涙を零して泣いているのだ。
別に悲しい訳でも怒っている訳でも無ければ、さっきみたいに色んな感情が入り交じって爆発してしまっている訳でも無い。なのに、涙が溢れて止まらないのだ。
パピルスさんがわたわたと右往左往して、これするかあれするかと私に問いかけて忙しない。その様子が何だかおかしくて…段々笑いが込み上げてくる。
「だ、大丈夫ですから…っ、パピルスさんそんなに…ふ、ふふ…」
「ええ〜っ!?もうエマ、泣くのか笑うのかどっちかにしてよ!」
「ふ、ごめんなさい。本当に大丈夫ですよ…ふふ」
「そこまで言うなら信じるけど…オレ様に嘘を吐いても駄目だからねっ!約束だぞ!」
「分かってますって。パピルスさんとの約束は絶対破りませんから」
暫くしたら涙がぱたっと止まった。
何だったんだろう、楽しくて気持ちが昂っちゃったかな。もう涙は止まってるのに、パピルスさんが腕をごしごしと押し付けている。痛いんだってば!