辺りが真っ暗で何も見えない。
小さいキノコのような物が青白く光っているのだけは分かるのだがその方へ向かおうとしても、行き止まりに差し掛かってしまって先へ進むことが出来ない。
どうしようかと悩んでいたら、ぼんやりと照らされている何者かが目の前に急に現れた。
「ひっ!?」
「ホィ!手ミーだょ!お困りのょだから、あちしが助けてぁげ!」
「へ?あ、ありがとう、ございます」
「お礼言ぅオニャノコ…カワイイ!!とておきの魔法で、この先まで送てぁげょ!手ミー、チミに会えてぅれしかた…だから、出血大サービス!だ!!」
服を着た不思議な犬、なのか、それっぽいモンスターが私を魔法で明るい所まで飛ばしてくれた。
ありがとう、不思議なモンスターさん!もう姿は見えないけれど、ここからお礼を言う。
少し進むとまた辺りが暗くなってきた。
そうだ、こんな時の為の魔法じゃない。慣れていないから毎回忘れてしまうのよね。
見える範囲で適当な紙に松明のような物を描くと、ぼっ、と火が付く音と同時にそれが具現化されて私の手に収まる。明るくなったと安心して歩いていたのに、川と思われる水溜まりに足を突っ込んでしまった。
見渡す限りそこしか道が無い。その内抜けられるかな…仕方なくボトムスの裾を濡れない位の丈まで捲り上げ、ざぶざぶと水の中に足を入れて進んで行く。
足場が見えてきて漸く足を地に着ける事が出来た。びしょ濡れになった靴の水をとんとんと跳ねて払う。
前に目を向けるとそこには一輪のエコーフラワーがあった。こんな所にぽつんと咲いていたら、何か言っているかちょっと気になるところ。近付いて耳を傾けてみる。
『後ろだ』
後ろ?
ただの独り言を拾ったのだろうか。ちょっと期待して損をしてしまった。エコーフラワーの先は行き止まりだし、このまま折り返そう。
そう思って体の向きを反転させる。この行動が私の大失態だ。
数メートル離れた先には
「…七つ」
鎧のヒーローがいる。
「七つのニンゲンのタマシイさえ手に入れば、我らが王は…アズゴア・ドリーマー王は…神となる…」
ええ、知っているよ。
「それさえ手に入れば、アズゴア王は遂にバリアを破る事が出来る」
それも存じ上げているの。
「ニンゲン共の手から地上の生活を奪還し、我らが味わった苦しみをお前たちにそっくりそのまま返してやるのだ」
そうね、そうなるのは当然の事かもしれない。
「…よいかニンゲン。これは貴様にとって最初で最後の償いのチャンス。己のタマシイを差し出せ。さもなくば…私がこの手で貴様の体から引きずり出してやる」
「それは嫌、です」
重たい口を割って返事を返せば、鎧から覗く鋭い眼光がぎらりとこちらを睨む。
私は自分に向けられた水色の槍を真っ直ぐ見据える。鎧のヒーローは私目掛け、助走を付けて向かって来る。
どうにか避ける事ぐらいなら…!ぎりぎりの所で奇跡的に避け、アンダインさんの槍が勢いよく壁に突き刺さると、びゅっと強風が吹いた。
その瞬間、持っていた松明が手から滑り落ち、小さな草叢の方へ転がって行く。
「あっ!」
「…なっ!?」
松明の炎は草叢に燃え移り、ごうごうと炎の範囲が広がって行く。
こんな所で放火魔になってしまうの!?もう私の印象は最悪以外の何物でも無いだろう。
そんな事を考えながらアンダインさんの方へ目を向けると、たじたじと後退っているではないか。
「くっ…!何て卑怯な奴だ…ッ!!」
そう言い残し、アンダインさんは走って去って行った。
…助かった?
未だに燃え盛る炎は辺りを橙色に照らす。流石に消さないと!で、でもどうやって?描いた物は水に浸ければ溶けて消えてしまうし…
『…くっ…!何て卑怯な奴だ…ッ!!……』
…ごめんなさい、許して…
エコーフラワーの花の部分を取り、バケツの代用として川の水を運んだ。
鎮火するまでにとても時間が掛かった。もう、だから、私には体力が無いんだって…焦げ臭く、黒くなった草叢の近くに力無く座り込み、暫し休憩を取るのだった。