「編集長、ほ、本当ですか?」
私は今を時めく記者、所謂駆け出しライターだ。
幼い頃からメディアやマスコミ、ゴシップニュースという世間に深く関わる物事に興味があった。
自分もこんな仕事がやってみたい。そう思っていた。
高校卒業後、記者やライターを目指せる専門学校に入学した。
毎日覚える事が沢山あったが全然苦じゃない。
寧ろこれを乗り越えたら、私はついに夢を叶えることが出来るのだと希望に満ちていたのだ。
そして晴れて卒業した私は親元を離れ一人暮らしを始め、雑誌のライターとしてとある小さな企業に就職した。そこが今、私の勤めている場所である。
「私がこ、こんな大きな特集を。本当によろしいんでしょうか…」
「君を見込んで頼んでいるんだよ。やってくれるかい?」
嘘、嘘!
まだ入りたてのぺーぺーの新人ライターなのに、ろくに気を引けるような文章も書けないのに!
私が担当しているのは月一で出版している雑誌の一部だ。
その雑誌に再来月号から『イビト山の実態』という見出しで数ヶ月に渡って掲載するという。しかもページ数も多い。
そんな大きな仕事を早々に出来るなんて思ってもいなかった私は、善は急げということで社用車を使ってイビト山に向かった。
***
山の前まで来ると車では通れない狭い道になっていた。
仕方なく車から降りて、歩きで先に進むことにする。
「(寒いな)」
山を登るということに慣れていないインドア派は気付いてしまった。
こんなブラウスにジーパンじゃ軽装備すぎる上に、何より無防備過ぎて野生動物に襲われかねないと。
好奇心は身を滅ぼすとはこの事なのか…
寒さに震えながら、バッグに何か入っていなかったかと中身を覗き込む。
飲料水、折り畳み傘、ハンカチ、ティッシュ、携帯、デジタル一眼レフのカメラ、それからペンケースに大量のメモ帳とクリアファイルに閉じた書類。防寒具になりそうなものは無かった。
諦めて自分の身体を摩りながら足を進める。寒さの余り何度もくしゃみが出る。
その度に歩みを止めてティッシュを取り出していたが、ついに持ち合わせていた分を切らしてしまった。
仕方なく鼻をすすりながら歩くことにした。
くしゃみで体を屈ませたらずるっと足が滑った。体勢を立て直す為に片足を地面に着けようとしたがそれは叶わない。
え?どうして?
「っ!?」
私が足を踏み入れたのは大きな穴だったようだ。
底が見えなくてあまりの恐怖に声を失う。こんな呑気にナレーションしてる場合じゃない。
特集もしてないのに死にたくない、行方不明扱いで死亡なんて一番嫌だ…!
私の身体はどこまでも落ちて行き、ふっと意識を手放してしまった。