トリエルの後に続いて中に入るとどこか懐かしい香りがするような、広々とした綺麗な玄関が視界いっぱいに映った。
優しいセピア調なレイアウトが見ているだけで落ち着く。
「すごい…ここはトリエルのお家なの?」
「ええ。今は私だけ暮らしているの」
「今は?じゃあ前には」
質問を投げ掛けようとすると、あっと声を漏らすトリエル。
「エマ、パイはお好き?」
「ん、好きだよ」
「それなら良かった。少しだけこっちのお部屋で待っててくれる?部屋の物は好きに使ってくれて構わないわ」
遮られたのは別段気にするようなことでもない、かな。
たまたま被ってしまったのかもしれないし、誰だって聞かれたら嫌な事もあるだろうから。
トリエルは小さな部屋に私を案内すると、ゆっくりしててねと言い残して部屋の外へ出て行った。
部屋には小さなベッドにクローゼットやランプ、床にはおもちゃ箱とクマのぬいぐるみが置かれていて、まるで小さな子供が過ごすような部屋になっている。
辺りを見回していると、ふとタンスの上にある埃の被った写真立てが目に付いた。
手に取り埃を払ってみるとそこにはトリエルと…トリエルに似た小さな白い子と、同じくトリエル似のもふもふと髭が生えたこれは男性?
それから顔がハッキリとは分からないが、これは人間の子だろうか。その四人で幸せそうに写っている写真が一枚飾られていた。
もしかして私はさっきこの事に関して触れてしまいそうになったのかな。きっと何か事情があるのだろう、ならこれ以上気に掛けるのは良くない。
写真立てを元の位置に戻して、私が寝るには少し小さいベッドに腰掛ける。
やっと座れた…そういえば落ちてからずっと立ちっぱなしの歩きっぱなしで、無駄に動き回っていたから疲労感が半端じゃない。
そのままだと足が出てしまうので、丸くなってベッドに収まるようにして寝転がる。
ああ、すごく落ち着く
睡魔に誘われるまま意識が沈んでいった。
***
また…の?
帰れ…よ …だ
…でもいいの …って…だから
はっと目を覚ます。
何か夢を見ていたような…はっきりと思い出せないから大した事じゃないんだろうな。
点いていたはずの部屋の明かりが消されていて、私の下にあったはずの布団が体に掛けられていた。トリエルがしてくれたのだろう。
どこかで美味しそうな匂いがする。その元を確認しようと上半身を起こして部屋を見回したが、暗くて何も見えないのでベッドの横にあったランプを点けた。
辺りをほんのり照らされてようやく周りを把握出来るようになり、もう一度部屋を見回すと床にお皿の上に置かれた美味しそうなパイがあった。
これがトリエルがさっき言っていたパイのことかな?わざわざ持って来てくれたんだ、お礼を言わなきゃ。
ベッドから降り、パイの乗ったお皿を持って部屋の外に出る。
玄関辺りまで来ると二つに行く手が分かれていた。トリエルはどっちにいるだろう?まずは階段を降りてみよう。
とんとんと順序良く階段を下り、最後まで降りると真っ直ぐ道が続いていた。この先にトリエルはいるのだろうか。
でも広そうな家だったからいる可能性も低くはないはず、と先に進もうとした。
「そっちは危ないわ」
「ッ、び、吃驚した…」
背後から探していた人物の声が聞こえた。
急に声を掛けられて驚きの余りお皿を落としそうになったが、何とかバランスを取れた。
振り返るとトリエルが少し難しい顔をしていて、この先にはあまり進んでほしくないのだろうと察する。
「その先に行っても何もないの。上でお話しましょう?」
「トリエルを探してたの、まさか後ろにいるなんて思わなくて吃驚したよ」
「まぁ、また驚かせてしまったのね私ったら…次からは気を付けるわ」
「大丈夫、私の心臓には毛が生えてるの。トリエルみたいな、このもふもふの白い毛がね」
「あら…うふふ、それは随分可愛らしい心臓ね。触り心地が良さそう。」
こっちは暖かいから、そこでお話しましょう。
柔らかく笑みを浮かべながら私の手を引き、階段を上るトリエル。彼女のもふもふの手が本当に気持ち良い。
誰かに手を引かれて歩くなんて何時ぶりだろう?
小さい頃は両親に挟まれて手を繋いでいたけど。流石にこの歳にもなればね。
トリエルの触り心地の良い手に癒されながら、私も階段を上った。