好奇心

各々が喋りたい事を喋り、飲みたい者は飲み、一人物思いに耽けたり。
マフェッツはいつ訪れても賑やかで落ち着きが無い。唐突に喧嘩が勃発するなんて日常茶飯事だ。
自分はその空間が好きでも嫌いでもないが、飯は気に入っている。
ふらりと立ち寄っては皆にジョークを飛ばす。日頃の鬱憤を発散するには持って来いな場所だった。


「今日で(見せられないよ!)円分のツケが貯まったわよ〜。アナタはこれをどうするつもりなのかしらねぇ〜、アフフフ」
「・・・今日もツケといてくれ。」
「ね〜ぇパピルス、ソウルっていくらぐらいで売り飛ばせるのかしらぁ〜?」
「heh・・・冗談きついぜ。その内返すさ・・・その内、な!」


マフェットからの死刑宣告、及びツケの話をはぐらかして近道を使って店を出た。
ポケットに手を突っ込み、煙草とジッポを取り出して火を付ける。
煙草の煙がスノーディンの寒空に消えていく。
この一人の時間が、自分を落ち着かせる為に必要不可欠だった。

サンズは最近拾った人間にお熱で、時間さえあれば人間を閉じ込めている部屋を覗きに行く。
朝でも昼でも夜でもそれは欠かさず行われるので、サンズにあらゆる事を縛られている自分にとっては、良いカモを見つけたとも言えるだろう。
何せ、自分が相手をさせられていた遊びの役目を人間が請け負ってくれたのだから。
遊び相手は自分や他のモンスターではなく、完全に人間へと変わっていた。

自分は人間を完全に信用しきった訳ではない。首輪で繋がれているなら、何か特殊な力でも持っていない限りは逃げる事も出来ないだろうと考えている。
サンズが居ない時は自分が人間のお世話係を任せられているので、やれる範囲の身の回りの事をしてやる。
ああそうだ。今からその仕事をやらないといけないんだった。
煙草を地面に放り捨て、靴で雪に押し付けた。
さて行くか・・・落ち着かねぇんだよなぁ、あの空間。


***


ガッシャーン!
・・・帰って来て早々これかい。


「っ・・・!」
「ミャハッ!痛い?痛いでしょ?痛いって言えよぉ!」


部屋に入る前から、物騒な音や声が聞こえて来た。
中ではきっと暇潰しと言わんばかりにサンズが人間を弄っているのだろう。恐る恐る、静かに部屋のドアを開けて中を覗く。
今日は過激的に遊びたい日らしいサンズはいつも愛用している鞭を撓らせ、ベッドから転げ落ちている人間を容赦なく叩き付けている。
人間の白い肌に、鞭打たれた赤い痕が付いていく。自分には皮膚も無いのでそうならなかったが、生で見ると痛々しいと思った。
サンズの気が済むまで自分は声を掛けない方が良いだろうと思ったので、少し開けたドアの隙間からその光景を黙って眺める。


「ねぇ、そんなに我慢してちゃ面白くないんだけど。前にボクが言った事忘れたの?悲鳴でも上げてみろ・・・ってさぁ!」
「ぅっ・・・!」


この人間は、決して痛いと言わない。
やって来た最初の頃こそ口にしていたものの、今ではその与えられる痛みに耐え忍ぶかのように、ずっと口を噤んでいる。少し見ていてもどかしい。
サンズの言う通り、悲鳴でも上げれば何か変わるだろうに。
だがそうしたところで、サンズが喜ぶのは目に見えて分かっているのだろう。
ただ黙ってサンズの過激なお遊びに付き合い続ける。普通の人間であれば、とっくに自殺でもしているに違いない。なのにこの人間は何も言わない。抵抗もしない。
何故?自分達モンスターに比べて、圧倒的に弱い存在であるはず。
命乞いでもしてみればいいのに。サンズはこの人間を自分と同じように下僕扱いをしているわけではないはずだ。
分からない。この人間が何を考えているのか。


「あーあ、つまんないの。飽きちゃったからやーめた。」
「・・・」
「次はボクも楽しくなるようにしてよね。じゃないと、殺す。」
「そんな理不尽な・・・」
「は?その足りない頭で考えてみろよ。折角遊んで貰ってるんだから、相手も楽しませようと思うのが普通でしょ?ボクはアンタにそうしてやってんの。」
「はぁ、そう。うん、楽しかったよありがとう。これでいいよね?」
「・・・ウザ。もういい。また甚振りに来てやるから、その時までにボクが喜ぶ事でも考えときな。」


反応の薄い人間に飽きたサンズは鞭をしまい、体の向きをこちらへ反転させドアに向かって来る。
やべっ、と思い隠れようとしたが、時既に遅し。自分とサンズの目がバッチリ合った。
サンズが眉間に皺を寄せてドアを大きく開いた。


「駄犬、いつから居た?」
「え、ええぇっと・・・ぃ、今だよ。」
「・・・フーン。まぁ何だっていいや。この部屋アイツの血で汚れてるから、後片付けしとけ。」
「わ、分かった。ロードは何処に行くの?」
「別に。付いて来なくていいから。」


微妙な反応をして、サンズは何処かへ出かけたようだ。
この部屋の後片付けなぁ・・・いつもの事とは言え、今日は血もあるのか。拭き掃除をした方がいいだろう。
適当な雑巾を調達しに部屋の外へ出ようとしたら、くいっ、と上着の裾を引っ張られる感覚がした。


「ピャッ・・・!ど、どうかした・・・?」
「あ、ごめん。ドギーくん、ここの片付けするんでしょ?私もお手伝いしようかなと思って。」
「俺が任されてるから、気にしなくてもいいよ・・・。」
「いいのいいの、他の人の血なんて触りたくないだろうし。何か拭ける物とかあるかな?」
「・・・今取って来る。」


こいつは謙虚だ。
サンズはこの人間の何に惹かれたんだろう。
遊ぶには最適な相手だったから?人間だから?望んでいる反応が返って来ないにも関わらず、執着する理由は何なんだろうな。
考えたところであいつの考えている事は理解出来たもんじゃないので、深く干渉しないようにした。

キッチンにあった布切れを二枚持って行き、仕方なく人間にも一枚渡すと、黙々と血の付いた所を念入りに拭き始めた。適当でもいいのに。
ある程度拭き終えると、人間は立ち上がりふーっと深く息を吐いた。


「これぐらいでいいかな。そっちはどう?」
「う、うん。こっちも大丈夫、だと思う。」
「ok.あー疲れたぁ・・・っ!ぅ・・・、」
「・・・ロードにやられた所、痛くない?」
「ん?ううん、それは大丈夫。ずっと屈んでたから腰がね。」
「そ、そっか・・・。」


明らかに腰ではなく、鞭打たれた後の赤くなっている所を気にしていた。
嘘を吐く必要はあるのか。素直に痛いと口にすればいいのに。


「どうしたの、ドギーくん。何か近くない?」
「へっ?あっ、わあああっ!?」
「!?」


赤くなっている所を見て、無意識に人間と距離を詰めていたらしい自分に驚いた。
慌ててバッと身を引くと、うっかり手が人間の腕に当たってしまった。


「ぃっ・・・!」
「あ、ご、ごごごめん・・・!」
「だ、大丈夫大丈夫・・・痛ぅ・・・ッ、」


ぞくり

人間が痛みで顔を歪めた瞬間、俺の背筋がゾクゾクとした。
何だ、こいつはこんな顔も、声を上げることも出来るんじゃないか。
機械人間か何かかと考えていた自分は間違っていたらしい。
少し興味が湧いてきた。
未だ痛みに顔を歪めている人間の赤くなっている腕を掴み、俺の指の骨が食い込む位力を込めた。


「ぃ゛っ・・・ドギーくん、痛いよ」
「どれ位?どれ位痛いの?叫びそうな位?涙が出る位?」
「な、何言って・・・離して・・・」
「教えてよ、ねぇ」
「ぅっ・・・!おねが、やめて・・・っ!」


ああ、堪らない。痛みに悶える表情が、とても良い。
サンズの前では絶対に声を上げないのに、自分の前では声を上げている。それだけでとんでもない優越感に浸れた。
なるほど、これは病みつきになりそうだ。

人間と遊ぶのも話すのも、人間が退屈しないようにするのも、世話をするのも俺の役目だ。
今は俺と人間の特別な時間。何をしたっていい。
だが人間に絶望されて死なれては困る。
せめて、今だけは楽しませてくれ。後でいつもの俺に戻るから。


***


「最低・・・」
「ご、ごめん・・・うっかり・・・」
「うっかりであんな事するの?・・・やっぱりドギーくんもロードと同じで、酷い事するのが好きなんだ・・・」
「そ、そんなんじゃないよ・・・ごめん、本当に、もうしないから・・・」
「・・・少しだけなら、信じてみる。約束だよ。」


指切りげんまん、嘘吐いたーら・・・そんな餓鬼みたいな事をさせられた。
裏切ってしまったら、どんな顔をするんだろう。



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(2017/10/10)