それ以上でもそれ以下でもない話
「先っちょだけ!先っちょだけだからさ!」
「それどうしようもないクズの言葉ですからね!?」


また私は変な所へ来てしまったようだ。

最近のこのおかしな現象は一体何なんだろうか。ふと目を覚ませば、見慣れた土地ではあったものの、出会った人物達の様子がおかしい。そんなことが多々起きる。こんなサプライズいらない。
私はただ普通に仕事をして、遊んで、平穏に暮らしていたいだけなんだ。
眉を下げ、不服そうな顔をする目の前の骨。やれやれと言わんばかりに、私の顔を見ながら肩を竦めながら溜め息を吐いた。


「最近の女の子って皆そうなの?」
「なっ…自分の貞操は、自分で守ってこそですよ。今も昔もありませんからッ」
「じゃあそれをそんな必死に守る理由って何?」
「貴方に初めてをお渡ししたくないからです」


私の知っているパピルスとは全く別人だが、その名を名乗るスケルトンに(強制的に)家に連れて行かれ、貞操を奪われそうになっている。
出会って早々どうしてこうなるの?この男を振り切って、今すぐ元の場所へ帰りたい。
ソファーにあったクッションを胸の前で持って色々とガードしながら、ジリジリと近付いてくるパピルスもどきの男と距離を置く。
この攻防戦をどれぐらい続けたのか、もう覚えてない。


「俺は君の初めてが欲しい。けど君は嫌。なら、力尽くでも奪うだけ!」
「この人…最低ッ、世の女の子に怒られますよ!」
「ハァ〜…ワガママな女の子もそりゃあ可愛くて魅力的だけど、時には素直になるとこう、グッと来るものがあるんだぜ?」
「我儘もどうもこうもありませんし、別に貴方に好かれたくてこうしてる訳じゃないです」
「俺は君と仲良ししたいなぁ〜」
「近寄らないでっ!」


じりじりとにじり寄って来るオレンジ色。
今迂闊に動いたら何をされるか分かったもんじゃない。けれど何となく分かるのだ。この男から容易に逃げることは出来ない。
…と、女の勘が言っている。(確かではないけれど)

どれだけ罵倒しようが否定しようが、この男は容赦なくどんどん距離を詰めて来る。
思わず足を竦ませた私を見逃さなかったらしく、隙ありと言わんばかりに一気に詰め寄り、私を壁際へ追いやった。
自分よりもある背の高さに、不意に圧迫と恐怖を感じて声が震える。


「はーい、捕まえた。もう逃げらんねぇぜ?」
「ぃ、嫌だ…嫌っ…」
「そういや君、名前何て言うの?」
「こんなことする人には教えたくありません、離してください!」
「んんー?じゃあ、お口に聞いてみよっかなぁ」


口角を上げた口元から、れっ、と目の前でオレンジ色の光を放つ舌が伸ばされる。そしてその舌でべろっと口元を舐められた。
スケルトンって舌あったの…?
気持ち悪さで「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
それに気を良くしたのだろうか、男は私の顎をくいっと持ち上げる。男と私の視線が嫌でもぶつかった。
…すごくムカつく顔してるな。そう感じて咄嗟に目を逸らした。
どうにか抜け出そうと男の胸元を押すが、びくともしない。


「ねぇ、ちゅーも初めて?」
「…」
「黙ってるってことは、肯定ってことでokか」
「だったら、何なんですか…」
「俺、紳士だからさ?初めてのキスを、好きな人に奪われたい乙女の気持ちも考えてあげようかなと思って」


何て身勝手な男なんだ!もう既に舌で私の口元を舐めたでしょうが!!
この口を今すぐ塞いで黙らせたい。憤りから私の身体がふるふると震えるのが分かった。
もう、殴ってもいいよね?


「いい加減に…」


私が腕を振り上げようとした、その時。


「ただい……ハッ、連行か!?」
「げっ、サンズィ…」


水色のマフラーを首に巻いたサンズが、家のドアを勢い良く開けて入って来た。

…サンズ?
ということは、やっぱりこの男はパピルス・・・?このドスケベ骨がパピルスだと言うの?
何そのファンタジーな話、凄く笑える。いやいや笑えない、どういうこと?
混乱している私を尻目に、二人が何やら言い合いを始めた。


「無節操に連れ込んだら駄目だろう!もっと人のことも考えるんだ!」
「だって見てみろよ。こんなかわいこちゃんなんだぜ?」
「ムェッ? ……人間!?人間じゃないかッ!」


これはもしかしなくても、お決まりのあれじゃないでしょうか。
ずぃっ!と、サンズと思われる骨が目の前に押し寄せた。星形になっている瞳孔が爛々とし、私の顔を覗く。
近い、怖い!


「本物か!?」
「そうだよサンズィ。人間の女の子」
「ムェ〜!オレ様、人間は初めて見たぞ!捕らえなくてはッ!!」
「ひぇっ…」
「人間!最後に名前だけ聞いておいてやるぞっ!名を名乗るんだ!」
「ヒロインです…だから、どうか命だけは…」
「何か俺の時と反応違わない?気のせい?」


ヒロインはオレ様の獲物第一号となるのだー!と、サンズが嬉々として私の周りを跳ね回る。これはちょっと可愛い。
隣で壁に寄りかかりながらそれを眺めているパピルス?は、パーカーのポケットから煙草とジッポを取り出し、煙草に火を点けて吸い始めた。
パピルス、煙草吸ってたっけ…いっそのこと他人の空似ということにした方が気が楽だろう。

無意識にこの男をまじまじと見てしまっていたらしい自分にハッとし、我に返る。
また変な勘違いをされては困る。と思ったが、もう手遅れのようだ。
男はニヤニヤしながら煙草の煙を吐き、再び私との距離を縮めて来た。


「煙草吸われるの、嫌?」
「別に何も言ってませんけど…」
「ヒロインちゃんが嫌なら、やめる努力はするよ?」
「(ヒロインちゃん…)いえ、どうぞお好きになさって下さい」
「つれないねぇ…」


まぁそういうところも良いと思うけどな。
彼は煙草を吹かしながら、そう呟いた。

こんなに元の骨とギャップがあるなんて、と考える度に混乱から頭痛が起きそうになる。
眉間に掌を当てぼんやりとしていると、突然サンズが私の手首を取り力強く引いた。

「女王の所に連れて行くぞっ!」
「よーしよし、サンズィ落ち着いて。まだその時じゃないさ。」
「ムェッ、どういうことだ?」
「折角のかわいこちゃんなんだから、俺達で可愛がってあげないと。」
「パップッ!!」
「heh、冗談冗「何て天才的なアイディアなんだ!!!」…oh」
「はい!?」


勝手に話を進められていても、どんなに理解力不足な私でも分かる。
本当に貞操の危機にあると。
このサンズは純粋無垢に見えてとんでもない子だった?更に訳が分からなくなり、私の頭は破裂寸前だ。本当に誰か助けてくれ。


「サンズィの許可も下りたし、本当に逃げられないねぇ?」
「嫌ったら嫌!私は元の場所に帰りたいだけなの、元のサンズとパピルスに会いたい…」
「オレ様はオレ様だし、パップはパップだぞ?」
「っ、そうじゃないわ……」


言葉にならない感情が込み上げてきて、目頭がじんわりと熱くなる。
本当に帰りたい…帰れるという表現で合ってるのかは分からないし、そもそも悪い夢であってほしい。


「人間泣いてるのか!?どうした?腹が痛いのか!?」
「uh-…やりすぎたか。ごめんな?」
「そう思うならっ…最初からっ、やらないでくださいっ」


嗚咽を漏らす度にぼろぼろと涙が零れて行く。
それを見たパピルスが、ばつの悪そうな顔をして不意に私の頭を撫でる。


「よしよし…よく分からないけど、元の場所に帰れるまではウチに居てもいいぜ」
「それは嫌だ…」
「即答だな。別に何もしねぇって、多分」
「確証がないなら尚更嫌です」
「わーったわーった!何もしない。これでいいか?」
「…殺すのも無しですよ。」
「ok. だそうだから、サンズィも見逃してやってな」
「ムェェ〜!?そんな…オレ様の名誉が…」


拗ねたようにサンズが頬を膨らます。どうも腑に落ちないようだ。
助かったのは良いが、こうもむくれられると罪悪感が襲ってくる。

…あ、これならどうなんだろう。
ふと彼に似た人物を思い出して、目線が合うように屈み向き合う。


「uh-、サンズ?その、私とお友達になってくれる?」
「…友達?」
「うん。いっぱい仲良くしてくれたら、私を女王?に差し出してもいいよ」
「本当か!?オレ様、ヒロインと友達になるぞっ!」


お友達になろう作戦、上手くいった。
この約束が果たされるかどうかは別として、サンズの機嫌を損ねてしまったという私の罪悪感は消えたので一安心。


「俺もヒロインちゃんと友達になりたいなぁ〜?」
「…お世話になりますし、仕方ないですね」
「heh、優しいねぇ。サンズィみたいに、俺にも敬語無しで話してよ」
「調子に乗らないで」
「ワオ、辛辣だなぁ」


取り敢えず私の貞操は守られることが確かになった。
まだあらゆる事に油断は出来ないけれど、暫くはここでお世話になることにしよう。
ああ、早く帰りたい…帰りたい?



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(2017/09/23)