それ以上かもしれない話
この世界に来てから、初めて人間の友達が出来た。
その子の名前はキャラ。
サンズに捕虜という名目で捕らえられたそうだが、もはやお約束と言わんばかりにサンズとキャラは友達になってしまったらしい。
まだ幼いからというのもあって見た目が中性的で、女の子なのか男の子なのかと質問してみたこともあったが、はぐらかされてまともに答えられたことがない。
今日はパピルスとサンズの家に遊びに来てくれたので、丁度いい暇つぶしになるだろうと私のお話相手をしてもらうことになった。
「ねぇ、キャラは女の子男の子どっちなの?そろそろ教えてくれないかな?」
「思った方でいいんじゃない?わたしはそういう女だの男だの、概念に捉われない人間なんだ」
「何か私より大人みたいな事を言うね…」
「ヒロインは立派な大人だよ。だってわたしの知らない事、沢山知ってるでしょう?」
「私はまだまだ未熟よ。キャラは将来、立派な大人になるんだろうなぁ」
「…」
ソファーに腰掛けている私の膝上に乗るキャラを優しく撫でる。
細くてしなやかで、触り心地の良いサラサラとした髪の毛が私の手から零れ落ちていく。若いっていいな…
段々この姿勢でいるのに飽きてきたのか、キャラがもぞもぞと動いて膝から降りて隣に腰掛けた。
私の顔をじっと見つめて「じゃあわたしも質問していい?」と言う。
勿論キャラに聞かれて困るような事は(多分)無いので、二つ返事で承諾する。
「ヒロインは何処から来たの?」
「へ?」
「サンズが言ってたんだ。ヒロインは此処じゃない、何処かから来た人間だって。わたしと同じ地上じゃないの?」
「ah-…いつの間にかここにいた、そんな感じ」
「何それ。難しい事は分からないよ」
「そうね、難しい。自分でも分からないから、いつか答えが出たらいいなって思ってるの」
「帰る場所が無いの?」
「それは…」
あるに、決まってる。
だけどもし本当にこの世界しか無くて、私の大好きなサンズとパピルスはもう存在しないことになってるとしたら?
そんなファンタジーみたいな話ってあるかな。でも現にそんな体験をしているんだから、あり得なくはないのよね。
もしかしたらパラレルワールドとか、そういった類に今私はいるのかもしれない。
だとしたらどうすればいいのだろう。駄目だ、本当に良い案が思いつかない。
キャラは私が黙ったのを不思議に思ったのか、おーいと呼びかける。
その声にハッとして、もやもやとしていた思考回路の中から現実に戻る。
「聞いちゃ駄目だった?」
「いいの。帰る場所かぁ…あるにはあるんだけど、帰り方が分からないんだ」
「交通手段が無いってことかい?」
「そういうことにもなるかな。今は考えてもどうにもならないから、ここで厄介になってる」
「ふぅん…帰れるといいね」
「そうだねぇ」
今度はキャラが私の頭に手を伸ばして撫でてきた。
よしよし、と優しく頭を滑る掌はまるで慰めてくれているようで、ほんの少しくすぐったい。
「キャラも地上に帰りたい?」
「それは聞いちゃ駄目」
「ありゃ、そうなの?」
「子供の事情ってやつだよ。大人には分からない、ね」
「Oh・・・それは失礼致しました。このチョコを献上するのでお許しくださいませんか?」
「えー、気にしてないのに〜でもチョコはもらうー」
まだ手の付けていなかったチョコを差し出すと、キャラは嬉しそうに受け取って食べ始めた。
小さい子が食べ物を食べてる時って癒される、可愛い…
隣で美味しそうにチョコを頬張るキャラに癒されていると、玄関のドアが開く音がした。
子供に悪影響を及ぼしそうな香りがしたので、これは背の高い方が帰って来たのだと私は察する。香りの元がソファーの方までやって来ると、私とキャラの姿を見て立ち止まった。
「ん、ちびっ子じゃねぇか。なーに勝手に上がり込んでんだよ」
「ちょっとパピルス、子供の前で煙草は控えて」
「全くだよ。肺癌になったら慰謝料請求して、末代まで呪ってやるぞ」
「子供の言う言葉じゃねぇそりゃ。安心しろって、こいつぁ水蒸気で出来てるんだ」
「そうなの?匂いまで煙草だけど・・・本当に?」
「お、ヒロインちゃん興味あんの?吸ってみてもいいよ、ほれ」
「こいつ、間接キスしようとしてる。騙されるよヒロイン」
「だ、大丈夫。ちゃんと対策はしてあるから」
相変わらずつれねぇなぁ
いつもと変わらない気だるそうなトーンでそう言ってから、自分の部屋へと入った。影響は無いかもしれないけど、万が一があればと考えてくれている一応パピルスなりの配慮なのだろう。
私も苦手ではあるがお邪魔している身なので、禁煙しろなんて言えるわけもなく。サンズは健康に良くないからあまり吸うな!とよく注意しているみたいだけど、肺の無いスケルトンに健康とか関係あるのかな。
水蒸気で出来てるなら大丈夫…だとも思うけど、果たして本当に水蒸気なのか。
「ねぇ、ヒロイン」
「はあい」
「あいつの事、好きなの?」
えっ?
キャラの突然の問いかけに思わずぽかんとする。
「はは!まさかぁ。キャラは面白い事言うね。どうしてそう思うの?」
「だってさっきのやり取りが、ドラマとかで見る夫婦みたいだったもん」
「そう・・・?全然分からないけど、私にそんな気は無いよ」
「あいつはやめておいた方がいい。煙草でヒロインの健康が危ない。あと、何か胡散臭いし」
「それは全面的に同意かな」
彼にそんな気が無いのは好きな人がいるから。
その好きな人に似ている部分が多々あるせいで錯覚しそうになったこともあったが、私は一途!そう言い聞かせ、信じて、邪念を振り払った。
似て非なる者。そう、それが私を助けてくれる言葉だ。
それからキャラとティータイムを開いた。
紅茶を飲んだりさっきとは違う種類のチョコをつまんだり、何気ない話をして時間を過ごした。
***
「そろそろ行こうかな」
「あ、もうそんな時間?お話に付き合ってくれてありがとう、キャラ」
「うん。とっても楽しかったよ。また遊びに来てもいい?」
「勿論!今度は、キャラの好きそうな物作っておくね」
「それは楽しみ。じゃあまた…あ、あいつには気を付けて」
「はは…またね」
何であんなに釘を刺されるんだろう。私ってそんなに軽そうに見えるのだろうか、謎だ。
片付けは少し経ってからやろう。
静かになった家の中ソファーに腰掛けてぼーっとしていたら、パピルスが部屋から出てきてとんとんと階段を降り、何も喋らず私の隣に腰掛けてきた。
そしてごろんと私の膝に頭を預けて、顔をじっと見てくる。
「どうかした?」
「別になーんも。ようやくちびっ子がいなくなって、ヒロインちゃんの膝ゲット出来たぜ」
「もう、そんなこと言って。テレビ点ける?」
「いいよ、俺がやる」
魔法でぱっとテレビを点ける。
私は普通に見てるけど、彼にとってはただの昼寝をする為のBGMに過ぎない。いつもの事なので慣れた。
パピルスは寝転がったままの状態で、テーブルの上にあるチョコを一つ手に取って口に放り投げた。
一つ食べ終えたら次の、また次のと食べる手が止まらないらしい。美味しいのかな。
「それ美味しい?」
「めっちゃ美味い。」
「私まだ食べてないんだよね。食べよ…って、無いし」
「お、悪い悪い。これでラストだわ」
「ん、いいよ。あげる」
「意地汚い男って思われたくないから、ヒロインちゃんにやるよ。あーん」
別に食べられたってそんな風には思わないけど。
チョコを口元まで持って来て、食べさせようとしている手から取ろうとする。
が、放してくれない。
「ちょっ、くれるんじゃないの?」
「だからあーんしろって。食べさせてやるから」
「えー……あー…」
口を開けて、チョコが入って来るのを待つ
こと15秒。
チョコが入って来る気配がない。
口の前で寸止めされたチョコは少し溶け始めていた。にやにやとしながらパピルスが私の顔を見ている。
もしかしてこいつ…私のこの顔を見て面白がってるんじゃないだろうな…
「早くしてよ」
「ん〜?まぁそう焦るなって」
「ならもういいです〜。自分で食べればいいじゃない」
「分かったよ。ほれ」
ころっと口の中にチョコが入って来た。
少し溶けているのもあってとても甘く感じるが、それでも美味しい。
更に中からとろりと液体が溢れ出てきて、口いっぱいに広がった。
「おいひい」
「だろ?俺が買ったんだぜ。蜂蜜入りチョコ」
「そうなんだ。蜂蜜入りって何だか珍しいね」
「探すのに結構苦労したもんだ。また買いに行かないとなぁ…ちと遠くまで」
「えっ、ごめん、知らずにキャラに出しちゃったし食べちゃった…」
私が謝罪したその瞬間、パピルスの眉がぴくりと動いたのを見逃さなかった。
うわ…絶対何か良からぬ事考えてる…もう分かる。
目を泳がせて現実から目を背けていたらパピルスが私の後頭部に手を回し、ぐいっ、と自分の方へ向かせる。逸らすに逸らせない目線がぶつかり合って気まずい。
「味忘れないようにさ、ちょっと今のやつ分けてくんない?」
「何言ってるの?もう無いって……んぅっ、」
嘘、嘘だ
一瞬、パピルスのオレンジ色の舌が私の口の中に入って来て
それで、口の中をぐるっと、一周するような動きをして
キス、された?正確に言えば、吸われた?離れた白い口元。
ほんの数秒の出来事のはず、しかし私の脳は今の状況を把握することに精一杯で、長い時間のように、思えて、
「ok.これ以上は殴られるから終わrぐあああっ」
「……あ、…手出ししないって約束したよね?何回言えば分かるのかな、パピルスくん!」
「今のもダメなわけ!?いいじゃん、ヒロインちゃんの失態なんだからさ!」
「そっ、それは…そうだけど…で、でも他の方法あったでしょ!」
「他って例えばどんな方法だよ!」
「えーと…うんと…えー、それは…」
「ほら見ろ。無いだろ?一番手っ取り早い方法且つ、正確なやり方だったんだ」
悔しいけど、確かに他に思いつかないのだ。
私の初めてのキスが、まさかこんな場面で奪われてしまうなんて。
ファーストキスは、素敵な教会で素敵な旦那様と誓いのキスをする時まで取っておくつもりだったのに!だったのに!!
ふつふつと沸いてくる怒りと感情任せに、恒例のパーカーの紐で攻撃する力を強めた。
「ぐええっ…ちょ、ひどくね…?」
「私のファーストキスは素敵な教会で素敵な旦那様とするつもりだったのに!それを…」
「俺がヒロインちゃんをお嫁さんに貰えば解決じゃない?やったあ」
「パピルスの事なんか…き、嫌いじゃないけど好きじゃない!」
「なら今から本気になるって言ったら、ヒロインちゃんも俺を好きになってくれる?」
パピルスの顔が心なしかいつもより真面目な表情になった、気がした。
本気になるって、本気で私を落としに来るってこと?
好意を向けられるのは…嫌な事ではない。けれど私には心に決めた人がいるのだ。それが例え叶わぬ物だとしても、だ。
「私は好きな人が」
「だからそれも含めてさ。そいつより、俺の方が良いってことを教えてあげる。それでいいでしょ?」
「分かった」
「お、じゃあ「その代わり条件があります」ええー…」
勢いで条件という単語を出してしまった。
別に何も考えてないけれど、ええいもうこれで誤魔化せるなら、
「明日から一週間、一週間でパピルスの事を好きにしてみせて。そしたら、ええと…今の事もチャラにするわ」
「一週間?短くね?」
「それが出来ないなら、私は絶対に許さないから」
「Uh-,okay.なら本気で行くぜ」
「うっ、か、かかってこいやぁ!」
「ブッ…可愛い。お手柔らかに行くから、安心しろって」
パピルスは私の頭を軽く撫でると「明日から覚悟しといてな、子猫ちゃん」とだけ残して部屋に戻って行った。
正直勢いに身を任せてしまった事を今、大変後悔している。
いや、私だって負けられない。元の世界のあの人と結ばれるまでは…結ばれるかどうかは別として。
一人熱くなっている最中、帰って来たサンズに「あー!パップとちゅーしただろー!」と叫ばれた。
どうしてそう言えるのかと問えば、蜂蜜の匂いがするからと返って来た。
その言葉に変に意識してしまって恥ずかしくなったのは言うまでもない。
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(2017/10/15)