「あ、サイタマさん、おはようございます」
聞き慣れた声に振り返ると、大きなごみ袋を提げたナマエがにこにこ笑いながらこちらに駆け寄ってくるところだった。
サイタマは立ち止まり、「おう」と片手を上げてそれに応える。追い付いたナマエは、走る為に片手で持っていたごみ袋を体の前に持ってきて、両手で持ち直す。袋の表面の張り具合からそれなりの重さがあろうことがうかがえたが、ナマエはサイタマがそれに気付くより早く、口を開いた。
「毎週たいへんですよねぇ」
へにゃりと笑ってそう言った彼女の歩調に合わせていつもよりも少しゆっくり歩きながら、サイタマは「そうな、こればっかりはなぁ」とこぼして、自分の持つごみ袋に目を落とした。
毎週金曜日の朝は、こうだ。サイタマの住む廃工場のある無人地帯には、当然のようにごみの回収車など来ない。ゴーストタウンからまだ人のいる宅地まで、可燃ごみの入ったビニール袋を持ってとぼとぼと歩かなければならないのだ。嫌になる程遠いわけではないが、その距離は決して短くもない。
「ま、ただで住んでるから文句言えた義理じゃねえけど」
サイタマがそう言うと、ナマエはふふふと笑って「そうですね」とひとつ頷いた。
怪人の襲来によって家を失ったという彼女がこの無人街にやってきたのは、数ヶ月前のことだった。
いつものように金曜朝のごみ捨てに出かけたサイタマは、ごみ袋を持って途方に暮れている彼女を見かけたのだ。どこに捨てればいいのかわからないと困り果てていた彼女に宅地の捨て場を教え、他にもゴーストタウンで生活する上でのアドバイスを幾つかおくった。
人のよいナマエがサイタマに懐くのに、これ以上の理由はいらなかった。金曜日の朝は、必ずサイタマを呼ぶナマエの声が無人街のメインストリートに響く。朝を告げる小鳥の囀りにも似た、柔らかな声。
「でも私、サイタマさんとお話しできるから、ごみ捨て嫌いじゃないですよ」
ふわりと笑んだ瞳の奥に、きらりと光る少しの悪戯心が見え隠れしている。
サイタマはそれに気付かなかったふりをして、「そーかい」とだけ返して前を見つめたまま歩く。
「あ、冗談だと思ってるでしょ?ホントですよ!」
やんわりと声を高くした彼女は知らない、サイタマの元に最近弟子がやって来たこと、その弟子が金曜のごみ捨てに行こうとしたのをサイタマがわざわざ制したこと。
「私、サイタマさんだいすきですからね!」
ナマエはそう言って鮮やかに笑う。
それを横目で見たサイタマは、小さく三度、頭をかいた。
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