その少年の身なりが、かつて魔界にいた頃に一緒にいた子供達と重なった。
チェリッシュは迷うことなく白髪の少年を呼び止める。汚れてぼろぼろになった衣類から伸びる白く華奢な手足が、ぴたりと止まった。振り返った少年の薄汚れた顔の中で、紫苑色の瞳だけがまるで宝石のように輝いていた。
「あなた、ひとり?」
チェリッシュがそう尋ねると、少年は渋々といった様子ではあったが、はっきりと一度頷いた。
相手が逃げ出さない程度に距離を縮めたチェリッシュは、少年の服を汚しているものが土や埃だけではないことに気付く。錆のような赤茶けた染みが、もともと白かったのであろう洋服に幾つもできていた。人間界も魔界も同じだ、とチェリッシュは思った。いつだって子供ひとりの力は弱く、その力があるはずの大人は彼らを助けない。孤独なこの少年を、彼女は見捨てることができなかった。
チェリッシュは自分よりも少し背の低い少年に目線を合わせるように屈んで、力強い笑みを浮かべて言った。
「よかったら、うちにこない?」
パートナーのニコルなら、わかってくれる筈だ。
この少年の怪我を治療し、身なりを整え、必要ならばしばらく一緒に暮らす。住み込みで働ける場所も探す。あんたにとって悪いことではないはずよ? チェリッシュがそう説得すると、少年はやや間を置いてから、くすんだ白い頭をこくん、と縦に振った。
「よし! 来な」
チェリッシュは少年の手をとって歩き出す。彼の手はチェリッシュのそれよりも小さくて、少しひんやりとしていた。
ニコルの家に少年をあげて、あたたかいシャワーを貸した。泥と血で汚れた服を預かって、代わりに女物で申し訳なかったけれど、未使用だったニコルの下着とタオルをバスルームに差し入れる。それからクローゼットを探って少年にも似合いそうな白いシャツと膝丈のズボンを用意し、これはバスルームには差し入れずにリビングのソファの上に置いた。その隣に、救急箱を準備する。洋服を着せるのは、服を汚した傷の手当をしてからの方がよいだろう。
そしてパンとスープで簡単な食事の準備をしながら、バスルームから彼が出て来るのを待った。
しばしの後、バスルームの扉を開けた少年は、濡れた髪の下の顔を恥ずかしそうに赤らめて服を要求してきた。声変わり前の中性的な声だった。
チェリッシュは恥ずかしがる彼を鼻で笑って、「怪我の手当が先よ、さっさと出といで」と言ってバスルームに近付く。半分開いた扉から手を差し込んで、少年の左手首を掴まえてバスルームから引っ張り出した。
なんなら裸で出て来てもらってもいいのに、とチェリッシュは思っていた。幼い男の子の裸なら、魔界で見慣れていたからだ。だから、お互いに恥ずかしがることなんかなにもない――という具合に。
しかし、チェリッシュはその予想に反して顔を赤らめることになった。
彼女がバスルームから引っ張り出した少年が、慌ててタオルで胸を隠したからだ。土埃でくすんでいた肌はシャワーで汚れを流し、今や透けるように白く、簡素な照明の光を受けて眩しく輝いている。生来の輝きを取り戻した白い髪の毛の下で、強い光を宿す紫苑の瞳が恥ずかしそうに細められた。
チェリッシュは、そんな少年を見ながら思わず目をしばたたかせた。タオルで胸を隠す直前、そこに柔らかな双丘があったのを、確かに見たからだ。
「……あんた、女なの?」
悩ましげに頷いた少年、いや、少女の上気した頬に釣られるように、チェリッシュの頬も朱に染まっていった。
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