太陽が森のてっぺんを過ぎた頃、あの少年がやって来る。それが孤独に震えるガッシュの心の支えであった。

彼は、この森をぐるりと囲うように立地している小麦畑で働いているのだという。毎日お昼の休憩時間に遊びに来て、雇い主から配給されるお弁当を半分ガッシュに分けてくれる。白くふわふわの髪が印象的な、とても優しい少年。ガッシュは彼をそんなふうに認識していた。
彼がパートナーであってくれたらどんなにか心が晴れたことだろう。しかし、彼はガッシュの本を読むことはできなかった。差し出された赤い本に目を通した彼は、寂しげに微笑んで首を横に振ったのだ。残念そうにうなだれるガッシュに、少年は静かに「ごめんね」と謝罪した。

それ以来、少年は毎日のようにガッシュの元に遊びに来るようになった。
茂みを掻き分けて白い頭がひょこりと現れるその瞬間に、ガッシュは孤独や恐怖をいっぺんに忘れて心の底から笑う。

「おぬし! よく来たのだ!」

飛び付いてくるガッシュを抱きとめて、少年はやわらかく笑う。
今日の昼食はたった二切れのサンドイッチだった。そのうちひとつをガッシュに手渡して、残ったひとつを静かに口に運ぶ。名前も知らないその少年が小さな口でサンドイッチを咀嚼するのを眺めながら、ガッシュはぽつりと呟いた。

「どうしておぬしは、こんなによくしてくれるのだ?」

薄紫の大きな瞳をぱちりと開いた彼は、サンドイッチを飲み込んでからガッシュに向き直る。そして、ふわりと微笑んでこう言った。

「ぼくも、困っていたときに助けられたことがあるから」

この少年も、宿も食べるものもなく街をさ迷っていた時に、チェリッシュという金の髪の少女に助けられたことがあるのだという。

「あんな風にありたいな、と、思ったの」

少年はそっと瞳を閉じて静かに笑った。瞼の裏にいるその少女を見つめているのだと、ガッシュは思った。

「だから、気にしないで」

その静かな笑みに安心したガッシュは、「うぬ! ありがとうなのだ!」と元気いっぱいの笑みを返して、サンドイッチにかぶりつく。

「お礼に、今日もわたしが集めたどんぐりをあげるぞ!」
「うん、ありがとう」

少年の華奢な掌のうえに、どんぐりをひとつころんと乗せる。
ガッシュに対して全てを話せない少年に、日々密やかな罪悪感が募ってゆく。しかし、毎日ひとつずつ増えていくどんぐりは、その罪悪感を少しだけ軽くしていた。どんぐりを掌で転がしながら静かに笑う少年の眉間に、僅かに苦悶の皺が刻まれていたことに、ガッシュは気付いていない。それでも、ふたりは満ち足りていた。




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