微弱ではあるが、それは確かにナマエの魔力であった。
それを感知したブラゴは、シェリーを置き去りにして駆け出した。ひとりでは戦えないことはわかっていた。けれど今は、人間を連れてちんたら移動をしている余裕は無い。感覚を研ぎ澄まし、彼女のいる方向を探る。しかしブラゴが相手の居場所を捉えるよりも早く、弱々しかった魔力の波長はふっと消え、彼女の行方はわからなくなってしまった。

ブラゴはぎりりと奥歯を噛み締める。自身の感覚が正しければ、相手の魔物はかなり近くにいたはずだった。ブラゴほどの魔物が相手の魔力に気付かないまま懐深くまで侵入を許すなんて、普通ならありえることではない。だが、その相手がブラゴと並び優勝候補と噂されていたナマエであれば納得できない話ではなかった。

……しかし、だとしても、なぜ。ブラゴは腹立たしい気持ちで考え込む。どうしてあいつは、気配を消して自分に近付き、勘付かれた瞬間に完全に姿を晦ましたのか。魔界の学校でもブラゴと双璧をなしていた彼女が、ブラゴの寝首をかくような姑息な戦い方をするとは思えない。いつも涼しい瞳で相手と対峙し、白く艶やかな髪を優雅に靡かせる、彼女はそんな気高い魔物だったはずだ。

だからこそナマエを倒すのは、絶対に自分でなければならない。自分以外にあり得ない。
ブラゴはこの戦いが始まった時からずっとそう思っていたし、ナマエもそう思っているものだと確信していた。――にも拘らず、目の前にある現実はそうなっていない。理想と現実の乖離が、ブラゴの苛立ちを加速させてゆく。

ブラゴは感情のままに強い魔力を放出し続けた。ナマエがどこまで逃げようとも、この気配から逃れられないように強く。
この魔力に気付いた別の魔物が寄ってくるなら、それは却って好都合だった。魔物同士はどうしたって引き合うようになっている。他の雑魚が減れば減る程、彼女と出会う確率は上がってゆく。
逃げるなら、この重力で引き寄せるまで。

ようやくブラゴに追い付いたシェリーが彼に小言を二、三述べたが、そのどれも今のブラゴには届いていなかった。




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