今日もだめだった、と言ったアースに、ナマエは労るような笑みを向けた。
アースのパートナーは不治の病に冒されているのだという。人間は、弱い。その弱さは、いつも魔物を苦しめる。

「オレのやっていることは正しいのだろうか」

まだ春の遠いフィンランドの冷たい空気に、アースの言葉が馴染まず消える。急速に落ちてゆく太陽を街の教会の屋根の上で眺めながら、二人は無言だった。

アースは、ナマエが口数少ない少女であることを承知していたので、自分の言葉に返事がないこともさして気にはならなかった。
ただやはり、彼女が何を考えているかを知りたくはあった。初対面の際、剣を構えたアースに、ナマエはパートナーの有無を尋ねた。無言を貫いたアースに、彼女は「私も」とさみしげに微笑んだのだ。聞けば、ナマエのパートナーは戦いを嫌がり、本を持ったまま失踪してしまったのだという。捜さなかったのかという問いに、彼女は「捜したけど、途中でやめた」と端的に答えた。「あの人が戦いたくないなら、それでいいと思った」、そう言った彼女の、嫌に老成した横顔を、よく覚えている。

ナマエの噂は、学校の違っていたアースの耳にも届いていた。重力を操るブラゴと双璧をなす光の魔物、ナマエ。彼女程の傑物が王の道を諦め、男装して他の魔物から隠れるように生き延びている。それは、彼女のパートナーが戦いを拒んだことに起因しているのは明白だった。「優しい人だったから。戦う私が怖かったのかもしれない」、乱雑に切られた白い髪を冷たい風に揺らして、悲しそうにナマエは笑った。魔物は強い。その強さは、きっと人間を苦しめる。

「私は、どうすればいいかわからなかった」

日が暮れて濃い闇が訪れつつある高い空に、彼女の声がぽつりとのぼってゆく。
夜を見据える紫黒の瞳が揺らめくのを、アースは確かに見た。

「アースは、諦めないで」

だってまだ、あなたのパートナーは生きているんだから。




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