コノート通りの先にある美術館へ無事に像を送り届けたダニーとゴルドーは、美術館の裏手にあったひっそりとしたカフェで遅い昼食を取ることにした。
ランチタイムを過ぎた広すぎない店内は、やや閑散としていた。手回しのコーヒーミルと真鍮製のドリップスタンドが置かれた、濃い色のカウンター。その向こうで道具の手入れをしている年嵩の男性と、フロアに並ぶテーブルを整える若い店員の二人で切り盛りをしている、落ち着いた雰囲気の店だった。
席に着いたダニーたちのもとに、若いウエイターがやって来る。若いというか、ほとんど子供のようだった。メニューを渡し、淡い笑顔を残して去って行った白いショートヘアの少年。
仕事上がりのダニーは、達成感と少しの疲労を感じながら白い髪のウエイターの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。エプロンで絞られたウエストから腰にかけてのそのラインは、少年にしては丸っこすぎるが、女性にしては味気ない。なんだか中途半端な輪郭だった。
ゴルドーのハンドサインに応じて注文を取りに来た彼の、白いシャツから覗く腕はシンガポールの人にしては色味が薄い。また、手首は同年代とおぼしきダニーよりもかなり細かった。
「お待たせしました」
料理を運んできたウエイターのその声は、高くもなく低くもない、中性的な響きをたたえていた。トレイに乗った皿をテーブルに移しながらウエイターは、サービス業特有の薄い笑顔を浮かべている。きゅっと持ち上がる珊瑚色の唇と、見るものの視線を吸い寄せる輝きを放つ紫苑の瞳。
その顔をじっと見つめるダニーの視線に気付いたのか、ウエイターが紫の瞳をきゅっと動かしてダニーを見た。ばちりと合った視線。
ウエイターはすぐにその双眸をふっと細めて、「ごゆっくりどうぞ」と言い残し、ぱっと踵を返してしまった。自分の銀色のそれとは違ってふわりと優しい白い色をした髪が揺れていた。
翌日もこの喫茶店を訪れたダニーは、木製の扉を押し開けたそこに、数組の客と、店主とおぼしき年嵩の男性しかいないことに、即座に気が付いた。
注文をとりにきた店主に、ウエイターの所在を尋ねると、彼は蓄えた口髭の下の唇を微かな笑みの形に歪め、僅かに肩を落としてこう言った。
「昨日付けで辞めたよ」
祖国に残してきた母親が危篤だという連絡が入ったのだという。理由が理由なだけに引き止める事が出来なかった、と店主は残念そうに言った。
「あれ目当ての客もいたからなあ」
店主の視線に釣られるように店内を見回すと、老若男女問わず肩を落として飲み物を啜る客の姿がちらほら見えた。そして店主のその視線は、最後にダニーを捉える。意味ありげな眼差しを躱すように腕を組んだダニーは、昨日のゴルドーの真似をしてブラックコーヒーを頼んだ。もちろん、すぐに後悔した。
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