恵さんからメールが来ていたことに清麿が気付いたのは、学校から帰宅してからのことだった。
そこに記されていた内容に、清麿の背筋が凍り付いてゆく。

メールを読み終えた清麿は、赤い本を持って家を飛び出した。ガッシュの行きそうな場所を片っ端から回るつもりだった。ガッシュと本と自分がバラバラになっている現状は非常にまずい。相手がどう出るかわからない以上、不安要素はひとつでも取り除いておきたかった。

清麿はガッシュを探しながら、メールにあった「相手」のことを考えた。
ナマエという名前の、とても強い魔物。強力な光の魔法を使い、とても身体能力が高いらしい。ティオの通っていた学校で、ブラゴと双璧を成していたという文面を目にした時には、心臓が嫌な音を立てた。ブラゴの強さは、一度手を合わせた清麿がよくわかっている。
しかも、メールの中でもうひとつ気掛かりだったのは、ナマエという魔物の様子が魔界にいた頃とかなり違っていた、という点だ。魔界での彼女は、とても優雅で気高く、笑顔の素敵な優しい魔物だったという。それが、ティオが目にした彼女からは優しい笑顔が消えてしまっていたらしい。ぎこちない表情の中で爛々と輝く紫苑の瞳が恐ろしかったと、ティオは語っていた。
清麿が思い出すのは、自分たちがはじめて戦った魔物――レイコムの姿だ。彼は邪悪な心根のパートナーと組んでしまった為に、自身の心を汚されてしまっていた。きっと、魔物とパートナーは深い部分で違いに影響し合いながら似通ってゆくのだと思う。清麿自身、ガッシュと出会って大きく成長した自覚がある。もしも、ナマエのパートナーが悪いことを考えるような人間だったとしたら、優勝候補の魔物といえど、段々自我を失ってゆく可能性は充分にある。
ナマエはガッシュのことを友達だと言っていたらしい。落ちこぼれで友達もいないと思っていたガッシュに、実は友達がいたとしたら。にも関わらず、その友達を倒さなければならないのだとしたら。今のガッシュに魔界での記憶がないのは幸いかもしれない。清麿はそう思いながら、公園への道を駆けた。

いつもは子供達の声で賑やかな公園は、嫌にひっそりしていた。ジャングルジムや滑り台に並んだ、ふたつの影。公園には見慣れた金の頭と、それと対峙する綺麗な純白の髪をした少年がいた。ガッシュを見詰める瞳が深い紫苑であることに気付いた清麿は、咄嗟に本を構えてガッシュの名前を呼んだ。
清麿の声に反応したガッシュは、公園の入口付近にいた清麿の方をひょこりと振り返る。清麿はガッシュの無事を確認すると「その魔物から距離をとれ!」と指示を飛ばした。
清麿の命令の真意を理解できないまま、ガッシュはナマエの方を窺いながら2歩程後ずさって距離をとる。そんなガッシュを呆然と見ていたナマエは、不意に、ガッシュの名前を呼んだ。

「……ガッシュ、元気なのね?」

ガッシュが「うぬ、私は元気だぞ」と頷くと、ナマエはその顔をくしゃくしゃに歪めた。今にも泣き出しそうな顔をみたガッシュが、何かを思い出したように口を開いた。

「おぬし、もしやナマエではないか?」

ガッシュが普段と変わらない笑顔でそう尋ねると、ナマエはその唇をわなわなと震わせながら、小さく一度頷いた。その瞬間に、切なげに細められた両目から、ぽろり、と涙が零れた。
本を構えたまま唖然とする清麿の視線の先で、ナマエはしゃくり上げながら幼子のように泣き続ける。ガッシュは清麿の命令も忘れてナマエに歩み寄り、しかしなにも出来ずにただおろおろするばかりだった。清麿も事態を理解できず立ち尽くすばかりで、彼女が泣き止むのを待つ他に出来ることはなにもなかった。
見ているうちにこちらの胸が痛くなる程か細く、しかし痛烈に、少女は泣き続けた。




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