青根の頭に、秋が来た。
名前は、学校に来る途中の川土手から一輪失敬してきたコスモスを、青根の短い髪の毛に器用に挿す。彼のいかめしい顔の横で、つつましやかなオレンジ色の花弁が小さく揺れるのを見た彼女は、想像通りの光景に、満足げに笑って口を開いた。

「青根、似合うねー」
「うわマジ似合わねー」

名前の声にかぶせるようにそう言ったのは、青根と一緒に朝練を終えて教室に上がってきた二口堅治だった。二口のその声の中に、自分と青根を揶揄するような響きが混じっているのを感じ取った名前は、にやにやと余裕の笑みを浮かべる二口をきりっと睨む。そして、その唇をとがらせて「二口には関係ないでしょ、ほっといて」と吐き捨てるように言って、青根に向き直った。
二口に害された名前の気分は、再び視界にいっぱいに青根を見ることで、あっという間に元に戻る。標準的な体格の学生を想定して作られた机に、そのたくましい身体を器用に縮こませて座る青根。その頭に咲く、一輪のコスモス。青根の白い髪や色素の薄い肌に、そのオレンジ色はとてもよく映えるのだ。それに、彼の立派な体格が、コスモスの可憐さをより引き立てていた。青根とコスモスが合わさることによって生まれるかわいらしさに耐えかねた名前が、彼の頭で揺れるその花弁をちょこんと触る。すると青根は、その眉根を寄せて視線を右下に泳がせた。

青根が、照れている。

「あ、あおね……!!」

感極まるあまり机に突っ伏した名前。それを見て、少しおろおろとする青根。
そんな二人の様子を、二口は冷静にスマホのカメラに収める。カシャ、という電子音が、騒がしい教室内に響く。

「お前ほんっと気持ち悪いよなー」
「……もうなんとでも言ってください」
「ほら青根、そのやばい顔アップで撮ってやるから、こっち向けー」

にやにや笑いながらそう言って、二口は青根にレンズを向けた。気持ち悪いだのやばいだの好き勝手に言ってはいるが、しかし、彼のその明るいブラウンの瞳はごく愉快そうに細められている。

「二口さんその写真あとでください!」

そう言って二口に頭を下げた名前に、彼は「すっぱいグミなー」と言いながら、シャッターを切った。
スマホの小さな画面を三人で肩を寄せ合って覗き込み、撮れた写真を確認する。「うわーマジでないわ〜」と言いながら笑う二口、「素晴らしいです青根さん……!」と言って悶える名前、そんなふたりを見て少し困惑したような表情を浮かべる青根。
彼はそのごつごつと節くれだった手で、自分の頭に飾られたコスモスをそっと抜き取った。花弁が散ってしまわないように気を付けながら、その大きな指の先でオレンジ色の小花をつまむ。名前が持ってきてくれた、小さな花。二口が撮ってくれた、花と自分の写真。
スマホの画面を見ながらわいわいと騒ぐふたりの声を聞きながら青根は、いつも真一文字に引き結んでいる口元をほんの少しだけゆるめて、自分の無骨な指先には不似合いな秋色のそれを静かに眺めていた。



「小さい秋」
夾さまへ / 二口と一緒に青根をかまう話




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